カカシがタンと地面に降りると、ナルトが涙目で腹を抱えながら言った。

「あっそういやーさっき声かけられた!あれってばカカシ先生だったのか!?全っ然分かんなかったってばよ!ヒー……っかしー!」

「そんなおかしくはないでしょ」

このやろ、とナルトの頭を押さえ込みながら言うが、今のカカシの髪はナルトの髪よりもまだずっと短い。

たかが髪、されど髪、だったのか。
カカシの箒のように立ち上がった銀髪は、斜めの額当てや鼻まで覆う口布と同じようにカカシをカカシと認識させる為の重要なトレードマークだったようだ。
部下に気付かれず素通りされるなんて大問題である。

恥ずかしくなって
「もういいだろ、今日の任務の説明するぞー」
と知らん顔で話を切り替えたのだが、その最中もナルトとサクラは顔を背けて「ククッ」と笑っていた。
笑わずにいてくれたのはサイだけだ。
ただ彼はきっと単純に笑いのツボが違うのだろう。


災難なことに、カカシは日がな一日そんな風に部下達から辱しめを受けた。
大した任務ではなかったから余裕があり、余計そんな風だったらしい。

「おゎ、ビックリした!カカシ先生か!いきなり隣に並ばれると分かんないってばよ!」

「プッ」

「……」

「ちょっとナルト、可哀想よ!アハハッ」

「いや、だってサクラちゃんマジでさ!」


(……何だろうね、髪って結構重要だったんだろうね)

次第にテンションが、普段から高い方でもないのに更に下がったカカシは、任務の帰り道、報告書提出がてら、まだ後ろで何だかんだと冷やかしを言っているナルトやサクラの少し前を歩いていた。

こんなのが数日、……否、髪が伸びるまで続くと思ったら堪らない。
ふと顔を上げると、向かいからヤマトが歩いて来た。

しかしヤマトはカカシに気付かないようで横を通り抜け、カカシの後ろのナルトとサクラに向かって「ナルト、サクラ!」と手を上げた。

「カカシさんは?一緒じゃないのか?」

「……ぐっ」

ナルトが袖に顔を埋め、顔を真っ赤にした。
笑いを堪えているらしい。
サクラもサクラで顔を背けてプルプルと震えている。

(……)

髪を切ったくらいでこんなことが起こりうるのか。
おかしくないか。
……いや、まぁおかしいのだろう。
現に目の前のナルトは笑いたいのを必死に堪えている。

「?何?どうしたんだ?」

ナルトやサクラが何故笑っているのか分からない様子のヤマトの後ろで、カカシの纏う空気はすっかり冷えきった。

「ナルト。先生ちょっとお前を連れて行きたいところがあるんだけど」

「…!……!?」

斜め後ろから低い声を聞き、気配に気づいていなかったヤマトはギョッとしてカカシを振り向いた。
そして、振り向いた後でまたギョッとする。

「えっ!?カ、カカシ先輩!?」

「……あ?」

が、カカシの機嫌がすこぶる悪く殺意溢れる眼を向けられたので、

「……、いや!!何でも!!」

と青ざめて頚がもげんほどにブンブンと激しく横に振った。
とばっちりである。









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