「俺、忍者だったの?」 眉をひそめて、そう言った。 「ふうん、すげーな」 自分の手のひらをもの珍しそうに眺めて。 まるで別人だ。 任務での敵との戦闘中、吹き飛ばされて、打ち所が悪かったのか。 ナルトはそのまま意識を失った。 敵を倒した後すぐに寄っていったが、頬を叩いても目を覚まさず、木ノ葉病院に連れて行って。 目覚めた九月十五日。 それはもうナルトじゃなくなっていた。 何も覚えていない、と言って、目が合ったカカシに向かって「誰?」と言った。 それがカカシの誕生日の日。 神は、こんなにも人に残酷になれるのだと知った。 「なんで俺、オニーサンと一緒に住まなきゃいけねーの?」 「火影様命令だよ。早いとこ記憶を取り戻さなきゃならないでしょ」 「ホカゲ?何それ、偉いの?」 頭部に損傷はないとの診察の後で、綱手の命の下、自宅に連れ帰るとナルトはつまらなそうにしてカカシの部屋を見渡した。 「だる……、どうせならさっきの女の子ん家が良かったなー」 ソファにドカッと座り、カカシを見る。 言葉使いも雰囲気も、本来のナルトとは違って投げやりだ。 「なぁ、さっきのピンクの髪の子、名前なんての?」 病院を出る前、少しだけ顔を出しに来てくれたサクラのことを言っているのだろう。 そういえば、サクラのことをジロジロと見ていた。 「サクラだよ。同じ班の仲間だ」 教えると「へー」と言ってナルトは続けた。 「可愛いよなぁ。彼氏とかいんのかな?俺、好み」 「……」 ナルトは幼い頃、サクラのことが好きだった。 だから分からんでもない。 記憶がなくなった今も、サクラを可愛いと言うことが。 けれど……。 『俺、カカシ先生のことが好きなんだってばよ!』 (キッツイなぁ……何、この仕打ち) 俯いたカカシは、口布の下で苦笑いを浮かべた。 「飲み物をとってくる」 とその場から離れ、項垂れる。 ナルトは全部忘れているが、カカシと付き合っていた。 好きだと言ってくれたのはナルトが先で、元々ナルトに惹かれていたカカシは当然それを受け入れた。 何より大事で、自分の未来そのもので。 誰より可愛くて。 『誕生日は一緒に居ような、カカシ先生!めちゃくちゃ盛大に祝ってやるから楽しみにしとけってばよ!』 そう言ってたのに。 (どこが盛大……。全部忘れちゃってるじゃないの) サクラのことを可愛いと言って、好みだと、仮にも恋人の目の前で。 あのバカ、と溜め息をつく。 それでも、可愛い。 記憶をなくしていても、この状況がきつくても、ナルトがナルトである限り。 今は何故か、そこらの軽い若者みたいな性格になっているが……。 「なぁ、オニーサン。これさ、何?俺の腹にあんの。タトゥーか何かかな?知ってる?」 風呂に入れ、と促したら、シャツを胸の辺りまで捲って脱衣所から出てきた。 腹を囲むようにして刻まれている五行封印を不思議そうに見下ろしている。 本当に何も覚えていないらしい。 前へ 次へ戻る2/6 |