【零(ゼロ)】一部カカナル。




晴れた日の夕刻、空は暮れなずみ、青と赤の中間点で美しいコントラストを描いていた。
和やかに談笑する家族、駆けて家に戻る子供達、脇で立ち話をする男女など、里の通りには安寧を表す人々の影が伸びている。
黙々と歩む俺の目は、手に持った愛読書の活字を追っていた。
疲労が溜まっていると活字に目を通すことさえきついし、汚れた手で触れば本の状態が損なわれる。すなわち調子は、疲弊していないし、薄汚れてもいなかった。
任務上がりではあるものの、請け負った任務が程度の低いもので、教え子達に指示するだけで事なきを得たからだ。
カカシ先生、という大きな声と共に、タタタという元気な足音が後方から近付いてきた。
先方が何者か察して背中を丸めると、その背にどんと衝撃が訪れる。
衝撃を与えた物体は衝突の反動で俺の背中から転がり落ちることなく、そのままべたりと張り付いた。

「カカシ先生! 今日の晩飯、何?」

耳の横から、ぬっと顔を覗かせ、白い歯をこぼしたのは金髪碧眼の少年だ。
俺の頚に腕を回してよじ登るようにしがみつき、宙ぶらりんになった足を腹に回して固定している。
呆れて背後を確認すると数メートル後方の位置で、いっそう呆れた顔の黒髪の少年と、桃色の髪の少女がこちらを見ていた。

「カカシ先生、私達、別で帰りますから」

少女が大きく手を振り、行きましょ、サスケくん、と寄り添うと、その手を振り払い、くっつくな、と少年が舌打ちした。見慣れた光景だが、夫婦漫才のような安定感と自然さがある。やにわに揉めながら彼らが遠退いて行くのを眺めて、今日も平和だなぁ、と思い、俺は呟いた。

「……お前、『お友達』とコミュニケーションとらなくていいの? ナルト」

へへん、と鼻を鳴らして、俺の頚にしがみついている金髪碧眼の少年――ナルトが笑う。


前述の少年少女達は、いずれも俺の教え子だ。
うちはサスケに春野サクラ、そして、うずまきナルト。
まだ十二歳の彼らは心も身体も子供であり、俺はたびたびその扱いに頭を悩ませるが、中でも一等秀でて子供っぽく、俺を悩ませるのは、今、背中に居るナルトであったりする。
担当上忍として出会った当初こそ威圧した俺の行動により警戒する一面を見せたが、慣れたのか、近頃すっかり屈託なく寄って来るようになった。
頚にしがみついたまま安定感を得られずに足掻くナルトに、仕方ないな、と諦観して俺は不自由な体勢で小説をウエストポーチに仕舞い、ナルトの太腿を持ってやった。負ぶっている状態になり、安定感を得たナルトは弾むような口調で俺の耳に向かって喋った。

「いいってばよ、たまにはカカシ先生優先で」

「たまにはって……このところ毎日でしょ」

「いいの! 晩飯大事だってば」

俺が好み、作る料理は和食中心である為、子供向けではなく、ナルトの口には合わないはずだ。そもそもナルトが好む食い物はラーメンやおしるこなど、それ単体では栄養が得られなそうな濃い味付けの食い物ばかり。
それでもナルトは昨今、しょっちゅうのように晩飯を食うという口実で俺の家に来たがり、実際に来ていた。
本当の理由は今更取り立てて言うまでもない。一人きりの淋しさを埋める為と、少なからず俺自身を慕っている為だろう。
しょうがないやつだな、と諦めも兼ねてナルトを背負ったまま自宅に連れ帰った。




サンプルは以上です。
次ページは未来設定(先生32歳×ナルト18歳)「越える一線」。






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