駅の構内にて。ドタドタと駆けて来る二つの足音で一人の男が振り向いた。
ワイシャツにグレーのズボン、ストライプのネクタイを締めた、銀髪の男だ。
足音の主を確認するなり、男は切れ長の目を柔和に細める。

「よ。お前たちも今だったの」

『たち』の表現からもお分かりのように、足音の主は一人ではない。
声をかけられた『お前たち』は、二人揃ってニッと笑った。
一人は金髪の少年、もう一人は黒髪の少年。
光と闇のような相対的な色合いだが、そんな二人は同じ顔立ちをして、同じ高校の制服を着ている。

「つーか、車両も一緒だったってばよ。離れてて、カカシ兄ちゃん全然気付かなかったけど」

金髪の少年がそう言いながら、自らが『カカシ兄ちゃん』と呼んだ男の隣に肩を並べた。

「あ、本当?声かけてくれれば良かったのに」

すると今度は、黒髪の少年がその反対側に肩を並べ、小馬鹿にしたような口調で銀髪の男に告げ口する。

「いや……カカシ兄ちゃん、こいつ、電車の中で『カカシ兄ちゃん!カカシ兄ちゃんってば!』ってめちゃくちゃ絶叫してたって。俺すっげぇ恥ずかしかったんだから」

「余計なこと言うなってばよ、メンマ!」

頬を赤らめ、気色ばんだ金髪の少年に、黒髪の少年は大仰に舌を出した。





銀髪の男――カカシと、金髪の少年――ナルト、黒髪の少年――メンマ。
この三人、何と言うこともない幼なじみだ。

家同士がお向かいさんであり、彼らより十四歳年上のカカシは、双子のナルトとメンマの面倒を幼い頃からよく見てくれたお兄さん的存在で、十数年が経って双子が高校生となった今も、会えばこうやって親しく話をする仲である。
ナルトもメンマも優しく穏やかなカカシが大好きだ。

とはいえ、ナルトとメンマ……二人は一卵性双生児で顔は見分けがつかないくらいそっくりなのだが、どういう変異か髪色だけが大きく異なっており、そのおかげでどちらがどちらか一目瞭然。
また、性格にも若干の違いがあった。
ナルトはせっかちで子供っぽく、「てば」が口癖だが、メンマにその口癖はなく、性格もナルトより少し落ち着きがあって冷めている。
そんなわけだから身近なカカシも生まれてこの方、二人を間違えたことがない。

「呼んでくれたのに気付かなくて悪かったね、ナルト」

「い、いいってばよ」

目を細めて頭をクシャリと撫でてくれるカカシに、ナルトは赤面して俯いた。
昔からカカシのこの手に頭を撫でられるのが好きだったが、最近は少し違う。カカシに触られると、ナルトの胸は意思を無視して逸り、落ち着かなくなる。
そんなナルトとカカシを面白くなさそうに見ていたメンマが口を出した。

「そんなことよりさ、カカシ兄ちゃん。今日、俺の勉強見てくれるんだったよな」

「ああ、そうだったっけ?」

その声で、カカシの目線はそちらに移る。

「そうだったっけ?ってひでーなー。前から約束だっただろ?」

「でもお前、勉強とか言って俺ん家に来たっていつも話ばっかりしてるからなぁ」

「そんなことないって」

頭を撫でてくれていたカカシの手もナルトの頭上から離れていった。
何だかんだと話しながら、二人は定期券を駅の改札で翳し、通り抜ける。
その後ろで、ナルトは一人、鞄から定期券を見つけ出せずにもたついた。
気付かずに行ってしまう二人の後ろ姿と、定期券が埋もれてしまった自分の鞄の中身を見比べて焦る。
ナルトの焦りの原因は置いて行かれることじゃない。瞳に映っているのは、カカシとメンマが二人で楽しそうに喋っている姿。
疎外感や焦燥感を覚えるのは、その様子に対してだ。









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