「…ねえ、ミナト。カカシ先月アレしたわよね?」

「したよ。クシナが言ったんでしょ?可哀想だからもうした方がいいって」

「そうよね…」

そう言う店主ミナトと、その妻クシナが何の話をしているかというと、“去勢”である。

――ここは、ペットショップ波風。
売り物ではなく、飼われている二匹の犬がいる。
銀色の成犬と金色の子犬。
対照的な二匹はまだ子供のいないミナトとクシナにとって我が子のようだ。

ずっと自分達が面倒を見ていくと心に決めた二人だが、かと言ってペットショップを経営する傍らでこれ以上多くの犬を飼う余裕なんてない。
子供を作らせるなんてもってのほか。

そんなわけで、生殖器系の病気の予防や、発情期の性的欲求によるストレスの軽減の為に、カカシに去勢手術を受けさせたのは二ヶ月ほど前のことである。

「……」

だが、二人の複雑そうな視線の先には、銀色の犬カカシが金色の子犬ナルトの背に乗っかり、一生懸命腰を振っている姿がある。

「……まぁあれは交尾っていうよりじゃれてるだけだよ。去勢してもマウンティングする時はするし。雄同士でそうする場合は力の誇示の為だって言うけど、カカシはチビが大好きだからそれはないだろうし」

「うーん…、でもチビが来てからするようになったわよね」

「気のせいだって。チビが来るまでカカシもほとんどガラスケースの中だったから気付かなかっただけじゃない?」

ほっとけばいいよ。と話を完結させ、それより…と仕事に戻った。


一方、こちらは犬側の話。

まだ成犬とはいかないナルトは、カカシが背に乗っかって腰を振っている間中、大人しくしていたのだが、一頻り腰を振ったカカシがやっと背中から下りるとホッとしてそちらを振り向いた。

『大丈夫だってば?』

『ん〜…、なんかたまに堪らなくなっちゃうんだよね…』

言いながらカカシはちょっと赤くなって出てしまっている自分のモノを治めようと舐める。
少し痛い、と鼻筋に皺を寄せているカカシをナルトはしげしげと眺めた。

ヤンチャで悪戯好きな性格のナルトは、あまりそういった行動をとらずマウンティングも普段からしなくて、カカシの言い分に頚を傾げるばかりだ。
精神身体共にまだ幼いので、ミナトやクシナもナルトの去勢は先送りにしている現状である。

訳が分からないが痛いというカカシが可哀想で、赤くなっているそこをナルトが一緒になって舐めてやると、カカシは驚いて佇まいを直した。
ふるりと尻尾を振った後、ウゥ、と唸り、なんか変な気持ちになるからダメ、と言ってナルトを鼻で押して遠ざける。

…やっぱりさっぱり分からない。


『ナルトももうちょっとしたらそういうことしたくなると思うけど、その時は俺にしてね』

『う〜ん…?』

カカシに嫌がられたのでそこを舐めることを諦め、身を伏せていると逆にベロベロと鼻先を舐められて、でもやはり分からないナルトは頚を傾げた。

ナルトとしては難しいことは考えたくないし、カカシが傍に居れば何でもいいという話。
しかしそのカカシが頬を舐めながら
『返事は?』と訊くので、

「ワン!!」

ミナトやクシナが振り向くほどの大声で、元気良く返事をしたのだった。













END(20100617)






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