先生さようなら、だとか、また、だとか複数の別れの挨拶を耳に留めて、俺はペラペラのトートバッグを汗ばむ手でぎゅうと握りしめた。
教室の出入り口を見れば、ドアの横に立ち、生徒を見送っている長身の大人の男の姿が目に入る。
髪は銀色、鼻と口は白いマスクで覆っており、素顔は不明。唯一、表情を窺える目許は、瞼が半分落ちたようなやる気のない印象だ。
他の生徒の陰に隠れ、俺はどさくさに紛れるような形でその前を通り過ぎる。……と、

「ナルト」

すかさず、目敏く、呼び止められた。
声をかけてきたのは、ドアの傍に立っていたその男。
怖々とそちらに目をやれば、ほんの少し冷めた目線を向けられた。
俺は観念して足を止め、肩を落とした。



呼び止められた理由は、多分、テキストの内容についていけなかった俺が授業中、問題を見つめて固まっていたからだ。

目が合った彼は呆れた顔をして、困ったような眼差しを俺に寄越した。
呼び止めたこの――怪しげな男は俺の講師であって、俺が通う『木ノ葉塾』の塾長でもある。
少人数制で規模は決して大きくはないが、受験生の合格率はお墨付き。名前も知られていて入塾したがる者は後を絶たず、高額の受講料を支払い、且つ、面接を行い、塾長が可とした者のみ入塾出来るシステムになっている。
元々、名門大学を目指す学生を後押しする内容を中心としてカリキュラムが組まれており、通うのは偏差値が高い生徒達ばかりだ。
……唯一、俺――うずまきナルトを除いては。


「分からないなら分からないで、分かろうと努力すればいいでしょ。どうしてそれをせずに逃げるわけ」

他の生徒が皆帰り、一人取り残された教室で、俺の前の席の椅子に腰掛け、長い足を組んだ塾長――はたけカカシに気圧されて、俺は「……うす」と俯いた。

「うす、じゃなくてさ。俺が呼び止めなければ、帰るつもりだっただろ?」

「……」

カカシ先生は俺に対してだけ話し方が馴れ馴れしくて、俺のことだけ下の名前で呼ぶ。
だって、と二言目には発してしまいそうな言葉を、俺は飲み込んだ。俺だって、好きで塾になんか通ってるわけじゃない。

勉強なんか大嫌いだし、学校のテストの成績だって、いっつも下から数えた方が早いくらいだ。
俺の父ちゃんは賢くて、元々学校の先生だった。今は第一線を退いて、もっと偉い教育機関関係の仕事に就いていて、母ちゃんはそんな父ちゃんを尊敬している。
それでも「成績が全てじゃない」と俺の出来の悪さを大目に見ていてくれた二人だが、俺が高一の最後に叩き出した赤点オンパレードのテスト結果を受けて、父ちゃんは苦笑いし、母ちゃんは髪を逆立てるほど怒り狂った。
だから学年が上がり、二年生になってすぐ、少しは平均に近付けと、この人――カカシ先生のところに連れて来られたのは、或る意味、俺自身の失態の果てだ。
高額の受講料と、塾長との面接……は俺に限っては適用されなかった。
何故なら、カカシ先生は父ちゃんが中学教師をしていた時の教え子であったらしい。
今でも交流があり、父ちゃんの頼みということなら特別に、と特例のような待遇で俺は入塾を許可された。カカシ先生が俺に対してだけ話し方が馴れ馴れしくて、俺のことだけ下の名前で呼ぶのは、その為だ。
そんなわけで……俺は望んでこの塾に入ったわけじゃないし、目指す大学なんてものもなくて、正直、卒業したらすぐ就職でもいいと思っている。でもそれも、母ちゃんに「バカ過ぎると雇ってくれる会社もない」と叱られた。
入塾してそろそろ一ヶ月。入る前から想定していたけど、入ってから、自分には場違いな場所だと骨身に染みて実感した。
でも――……。

「……ナルト」

カカシ先生が切れ長の眼で、見据えるような視線を俺にくれる。俺は目を伏せて畏縮し、ごっくんと喉を鳴らした。
塾が自分に似合わない場所だと分かっているが、でも……それ以上に俺が苦手とするのは、この先生自身だった。

「今日、お前が固まってた箇所だけどね……」

カカシ先生がそう言って開こうとしたテキストを、俺はぐっと押さえ込むことで阻止する。

「きょ、今日は、もう帰るってばよ。その……ダチと、会う約束してっから」

「……」

帰らないといけないから、今から勉強をするつもりはないという意図を込めて言い切って、心臓がバクバクと逸った。
そんな甘い考えだからダメなんだと怒られるだろうかと肩を竦めてカカシ先生の返しを待ったが、予想に反して「そ」とカカシ先生は口にした。

「後で損するのはお前なんだから、それでもいいならいいんじゃないの」

言外にチクリとしたものを感じたけど、立ち去れるなら何でもいい。
俺はテキストを鞄の中に押し込むと、頭を下げてその場から逃げるように立ち去った。



平日の、しかも夜ともなればファーストフード店はすいている。店の奥の人気のない席で、俺は盛大に、深い溜め息をついた。

「うーん……」

テーブルを挟んで向かい合う男友達がしかめっつらで、そんな唸り声をこぼす。

「怖ぇとか、お前にしちゃ、珍しくねぇか? 怖いもの知らずのくせによ」

「……そう、だよな」

「そうだろ。ガッコのイルカ先生にいくら叱られても、拳骨食らっても、いつもしれっとしてるじゃねぇか」

食い終えたハンバーガーの包み紙をグシャグシャにして、眉をひそめる。
元々約束をしていたわけじゃなくて、塾を出て携帯で連絡し、出て来てくれた友人のシカマルはガキの頃からの腐れ縁で、今も一緒の高校に通っている。
馬鹿な俺と違って頭がいいから、勉強ならシカマルに教えて貰った方が良かったかもしれないと思う。

「……その先生に、何かされたのか?」

探るような眼で見られて、俺は息を飲み、顔を上げてぶんぶんと首を勢いよく横に振った。

「まさか! 何もされてねぇってばよ!……っつーか、カカシ先生とは、あんまり話したこともねぇし」

カカシ先生は、怒っても怒鳴るタイプじゃなさそうだし、手をあげるようなタイプにも見えない。
シカマルの言うイルカ先生は俺達の高校の担任だけど、直情的で、俺が悪さをしたらすぐ怒るし、反省したらすぐ笑ってくれる。とても分かりやすい先生だ。だからか俺はイルカ先生にいくら叱られても、拳骨を食らっても、怖いと思ったことはなかった。

「じゃあ、何でだよ」

「それが分かれば、俺だってこんなに悩んでねぇよ……。ああもう、塾、行きたくねぇってば」

何故なのか分からないけど、カカシ先生の前を通るだけで手汗びっしょり、背筋は伸びるし、二人きりにされようものなら眼も見れない。カカシ先生に向けられる視線や、告げられる声色に緊張する。
蛇に睨まれた蛙、といった表現がぴったりな様態になってしまうのだ。
テーブルに突っ伏しそうに頭を垂れた俺に、ふうと息をつき、シカマルが自らの頚の後ろをガリガリと掻いた。

「あまり話したことねぇんなら、逆にそのせいで構えてるだけじゃねぇのか。人間、知らないものには警戒すんだろ」

そうなんだろうか。確かに俺は怖がる以前に、カカシ先生のことをよく知らない。
マスクで隠された素顔と同様に、性格も好き嫌いも知らないし――笑った顔すら見たことがない。
そっか……と頷くと、まあ分かんねぇけどよ、とシカマルは上体を椅子の背に凭れた。

「今度、残れって言われたら残ってみてもいいんじゃねぇか? 案外、普通の人かもしれねぇし、問題ありゃそれこそ親に言って辞めればいいんだから」

なるほど、全くその通りだ。
「そうする」と言って萎びたポテトをかじった。



高二になってすぐ、カカシ先生のところに連れて来られた――俺はそれをカカシ先生との初対面だと思っていたけど、両親によると違うとのことだった。
俺が中二の時……今からちょうど三年くらい前に塾を立ち上げて、その報告がてら、カカシ先生は家に挨拶に来たらしい。父ちゃんが言うには、学校から帰って来たばかりだった俺はカカシ先生に話し掛けられて、一言二言、笑顔で話してたって。
そんなの、全然記憶にない。
一緒の空間に居るだけで緊張するような相手なら、その存在は時間が経ったとしても頭の片隅に留めておいても良さそうなものなのに、さっぱりない。
不思議な話だ。


カカシ先生ってどういう人なのか、と父ちゃんに訊くと、「んー」と父ちゃんは顎に手を当てて、斜め上に視線を流した。

「優秀なやつだよ。教え子だった時も手がかからなかったし……ただ」

「ただ……?」

「他人に壁を作る方だから誤解されやすくてね、昔はそこが少し心配だったかな」

今はどう? と父ちゃんに問われて、俺は息を詰めた。お前は誤解してない? と言われているような気がしたからだ。 
そして、俺はその誤解ってやつをしているのかもしれないと思った。よく知りもしないのに、カカシ先生が苦手だって避けてる。

「……うん」

気まずい思いで肯定でも否定でもない返事を返すと、それだけで分かったみたいで、父ちゃんは眉尻を下げてハハと笑った。

「カカシはいいやつだよ。今度、機会があったら話してみたら?」

髪をクシャリと撫で付けられて、恥じ入る気持ちで、おう、と頷く。
まあ……それもそうだ。父ちゃんが信頼して俺を預けるような人なんだから、まともな人のはずなんだ。



その次の塾の日、俺は塾の近くにあるコンビニの外で時間までの間、シカマルと暇を潰していた。
シカマルの家がこの辺にあるおかげで、ちょっとの時間潰しも呼び出しも臨機応変に対応してくれるから助かる。……たまにちっと迷惑そうな顔されるけど。

「――そんなわけでさ、やっぱ俺の考え過ぎかもしんねぇ。何たって、父ちゃんの知り合いだしな」

平然と言った俺が頭の後ろで手を組むと、シカマルがさっき買ったばかりのペットボトルの水を飲んでから、呆れた顔をした。

「単純なやつだな……」

「シカマルだって『話したことないせいで構えてるだけだ』って言ったじゃねぇか」

「『構えてるだけだ』とは言ってねぇよ。そうなんじゃねぇかって言ったんだ」

「それ、どう違うんだってばよ?」

「断定と推測の違いだろ」と話しているシカマルの手元を見て、手を伸ばす。

「あ? お……」

喉が渇いたから単純に拝借しただけなんだけど、胃におさめた水分を返す当てはない。シカマルの水を半分ほど飲んでから「サンキュー」と容器を返せば、中身の減ったプラスチックを見下ろして「お前なぁ……」と恨めしそうな顔をした。

「いいじゃん、ちっとくらい。ケチケチすんなってばよ」

「そっちじゃなくて、口つけんなって……」

「口つけなくてどうやって飲めっつーんだよ」

尤もな言い分を唱え、苦々しいシカマルの表情を尻目に、俺は、ははあと口の端を上げた。

「間接チューに照れてんのか? 男同士だろ、シカマルはガキだなー」

「ガキはお前だろ」

ばつが悪そうに言ったシカマルはひとつ溜め息をつくと、「まあ、解決したんなら良かったじゃねぇか」と口調を和らげた。

「本当は、ちっと考える部分もあったからよ」

車道を行き来する車を眺めて、続ける。

「よく知らない人間だから構えてるだけだとは言っても、その先生だけ特別に警戒するってのは、見えない何かを動物的な勘でお前が察知してるんじゃねぇか……なんてな」

最後は揶揄するような言い方をして視線を寄越したシカマルの冗談を受けて、「ホラー話かよ」と俺はカラカラ笑った。



塾は、いつもと同じ時間に始まって、いつもと同じ時間に終わった。終わる時刻には、外はもう真っ暗だ。
少人数制の個人塾は一人一人に向き合おうとする姿勢が強く、本当なら分からないことがあったら率先して声をあげ、学ぶことで学力の向上に繋がる。
分からないことが多過ぎる上に、カカシ先生を苦手としている俺はそれをしていなくて、先生が声をかけてくれても頼ろうとしなくて、学力は向上するはずもなかった。
いつもなら塾が終われば他の生徒に紛れてそそくさと帰るけど、今日の俺は、留まった。

『今度、残れって言われたら残ってみてもいいんじゃねぇか? 案外、普通の人かもしれねぇし』

『カカシはいいやつだよ。今度、機会があったら話してみたら?』

信頼する二人にそう言われたから気が大きくなっているところもあり、勇気を出してみようと思ったのだ。
一人、また一人と帰って行って、最後の一人が出て行くと、出入り口でそれを見送っていたカカシ先生が、やがて静かに俺に視線をくれた。

「……帰らないの?」

やっぱり、何故か緊張する。向けられた目線にじわりと汗が滲んだ。けど、ここを乗り越えて歩み寄ればきっと、このよく分からない恐怖心は打破されるはずだ。

「あの……分かんねぇところ、教えて欲しくて」

強張っている面差しだろうし、固い声だろう。それでも口にすると、カカシ先生が眼を見開いた。

「あっ、も、もし、今日忙しかったら、また……いつでもいいってばよ」

手に汗握り、俯く。しばらくして「いいよ」と声を聞き、顔を上げて、俺はバクンと心臓を弾ませた。
笑った顔を見たことのないカカシ先生が、その時、ほんの少し眼を細めて笑ったように見えたからだ。

「じゃあ……ちょっと待ってて。出入り口に鍵をかけて来るよ」

「え?」

「万が一、他の生徒が戻って来て、本人達や親御さん達に知られたら都合が悪いからね」

「あ、ああ……」

そうか……。高額の受講料を支払わなければ、本来なら通うことが出来ない塾。
俺はそれを免除されて通っているし、塾の後も個人的に指導を受けている生徒が居るなんて知れれば、出し抜き合いの世界で非難は免れないだろう。
カカシ先生は正面玄関の鍵をかけ、裏口の錠を確かめて教室に戻って来た。加えて、教室の窓にかかっている厚めのカーテンを引いて、窓までも覆う。
全てのカーテンを引き終えたカカシ先生がこちらを振り向いて、俺はぴんと居住まいを直した。
密室となった空間で緊張が増し、何か喋らなくてはと焦って口を開く。

「あっ!……その、カカシ先生って、この塾に俺が来る前も、俺と会ったことあるんだよな。家に来たって……俺、全然覚えてなくて。き、記憶力、ねぇからさ」

ゆっくりと寄って来た先生のリアクションは「そう」と短く相槌を打つだけに留まった。
多分、こういうところが学校のイルカ先生と違うんだ。
意図の読めない沈黙が苦手な俺は、会話を軌道に乗らせようと尚も畳み掛ける。

「カ……カカシ先生は、家に来た時のこと覚えてんの?」

「……覚えてるよ」

俺の目の前まで来たカカシ先生は、足を止めた。

「俺が塾を立ち上げたことをミナト先生から聞いて、『おめでとうってばよ!』って言ってたっけな。初対面なのに嬉しそうに『塾長なんてすげぇ』って」

「え」

一言二言話してた、というのは父ちゃんから聞いたけど、会話の内容までは聞いていなかったから初耳だった。
驚いたのは、三年も前の、一瞬しか会っていないような俺との会話や印象を、カカシ先生が鮮明に覚えていたことだ。塾を立ち上げてしまうほど優秀な頭脳は、日常の何気ない出来事を鮮烈に記憶するのだろうか。

「あの時は今より身体も小さかったから、再会した時はでかくなったなって懐かしかったよ」

マスク越しの声をくぐもらせてそう言ったカカシ先生の手が、俺の肩にそっと触れた。瞬間、その柔らかな触れ方に反して身体にはビリビリと電流のようなものが走り、俺は驚いた。静電気でも起こったのかと思ったけど、違うようで、先生の方に変化はない。
少し、自分の肌が粟立っていることに気付いた。


席に着くと、カカシ先生は真摯に俺に付き合い、難解な問題の解き方を教えてくれた。

「……こういう時は一回考え方を変えてみるといいよ。ここでの設問は……」

シャーペンを長い指で持ち、ノートにすらすらと綺麗な数字や符号、アルファベットを書き付けていく。
囁くような声にやっぱり緊張して集中力を欠いていた俺は、何問かそれを繰り返すうちにやっと慣れたのか、雑念を消して集中し、問題に向き合うことが出来た。

「……これは?」

「これもさっきと同じ。Xを求めよって言ってるから……」

紙に描かれた問題を睨み、少し前のカカシ先生のやり方を思い出し、見様見真似といった感じで式を書き連ね、「こういうこと?」と首を傾げる。

「正解」

久方ぶりに真剣に勉強に向き合い、その成果を見た俺はカカシ先生のその声を聞いて、嬉しくて弾かれたようにカカシ先生の方を見た。
カカシ先生は、俺が先生を見る前から俺の顔を見ていた。
そして、今度こそ明らかに見て分かる様子で、にこりと目元を細めた。
怖くない、優しい人。――だけど、笑ったカカシ先生とは反対に俺は眼を瞠り、笑顔を消した。
横に腰掛けているカカシ先生が、不意にマスクを外したから。
目的が何なのか分からなかったし、何より、その素顔は驚くほど端正だった。

「……、え……」

どう反応していいか混乱し、言葉を詰まらせている俺の頬にカカシ先生の手が触れる。

「……お前は、やっぱり笑うと可愛いね」

「は……」

動物は、唐突過ぎる出来事に対応出来ない。それは進退を迷うからだろうし、脳が下す指令が身体に伝わるまで時間がかかるからだろう。

微動だに出来なかった俺の唇には、カカシ先生の唇が触れていた。
俺は何が起こったのか理解出来ず、眼を見開いたまま、間近で伏せられた銀色の睫毛を凝視し、一瞬してビクリと反応した。

「……あ」

混乱状態に陥り、身を退こうとする。頭の中にガンガンと警鐘が鳴り響くのを聞いた気がした。
汗が噴き出し、背筋にぞくぞくと激しい痺れが走る。
それは、これまで俺がカカシ先生と居て感じていた身体の反応が数十倍になって襲ってきたような感覚だ。

「こうやって二人きりになれるのを待ってた」

そう告げるカカシ先生に、俺は硬直したままで抱き竦められた。近すぎる距離に、先生の匂いを鼻腔が拾う。
他人の体温や感触、匂い、声を、初めてそんな風に密に感じた。
この人は――……。

「初めて会った時、おかしいくらいお前のことが印象に残ったよ。再会して……成長したお前を見て、欲しくてたまらなくなった」

耳元で囁きながら先生が愛しげに俺の髪に頬を寄せる。
シカマルの声が脳裏に蘇った。

『その先生だけ特別に警戒するってのは、見えない何かを動物的な勘でお前が察知してるんじゃねぇか……』

「……ナルト」

背筋のぞくぞくは心臓のバクバクと一元化し、論理的に考え、判断する能力は壊れてしまいそうだった。普段、口数が多い方だと自負している俺は、物も言えない人形みたいになっている。
カカシ先生は大事なものをそうするみたいに俺の肩を抱き、真っ赤に染まった俺の耳に口づけた。



――父ちゃんの言う通り、カカシ先生は悪い人間ではないのかもしれない。
……でも、今、俺に『悪いこと』をしている。
先生が俺を『そういう対象』に見ている。俺の身体が警鐘を鳴らし、カカシ先生を警戒していた理由はそれだったのだと、やっと気づいた。








FIN(20130316)





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