「片想い?」

素っ頓狂な声に、そう、と神妙に頷くと、ぷっと吹き出す声が返ってきた。

「……笑うようなことじゃないでしょうよ」

恨みがましく睨んだ目に肩を竦め、わりぃ、あんまりにもカカシ先生に似合わねー言葉だったから、と取り直すその子は、世間的にはもう「子」の範疇を超えて「男」と言っていいだろう。
事実、十八歳となった今は大人扱いで、居酒屋にて自分の隣に肩を並べている。



夜曲
―セレナーデ―






うずまきナルトは、カカシが担当上忍としてついた三人の教え子達の中で、一番手がかかり、不器用だった。
片や化け狐と罵られ、片やドベと馬鹿にされ――……
今となっては、一番活躍が目覚ましく、里の期待を一身に背負っている。

こんなこと、誰が想像しただろう。
誰もが夢にも思わなかった。

人々は口を揃えてそう言った。
そんなやり取りを耳にするたびにカカシは思った。

そんなことはない。
昔から期待していた――俺は。

期待、とはもしかしたら違うかもしれないが、あの子は昔から強い眼差しで前を見て、決して諦めない心を持っていて、あんなにも眩しかったじゃないか。
……今だって違いない。


今となっては班さえ別で、滅多に会うことがなくなったナルトとは、数日前、上忍待機所で久々に顔を合わせた。

「カカシ先生! 俺ってば、この間、誕生日だったんだってばよ!」

久々の顔合わせで、第一声がそれで。
何よ、プレゼントでもたかる気? と冗談めかして返したら、違った。

「今度、飲みに行こうってば、酒、飲める齢になったから」

木ノ葉では十八から飲酒は許可されており、ナルトは、それをいつか先生であるカカシと嗜むのが夢だったそうだ。
随分可愛い夢である。

数日後にはその約束は実行に移され、カチャンと互いのグラスをぶつけて、ナルトが大人の仲間入りをしたことを乾杯した。

「カカシ先生ってさあ、付き合ってる人とかいねーの?」

恋愛に関するところに話題が及んだのは、それから一時間ほどしてからだった。



店を出て、ごめんってば、とナルトは小首を傾げてカカシを見た。

「別に、バカにしたわけじゃねえってばよ。カカシ先生、意外と可愛いところあんだなーと思って」

「……その言い方がもうバカにしてるんだよ」

「だから、バカになんかしてねえって。……片想いってさあ、何で? 言えばいーじゃん、カカシ先生なら、大抵の女は落ちるだろ?」

「そう簡単じゃないの」

夜道をひたひたと歩きながら、ナルトは頭の後ろで指を組む。

「ふーん。意外と男らしくねーんだなぁ……」

「……」

言葉に詰まり、カカシは会話の糸口を探した。

男らしくない。
それはきっと、そうだ。

でもそれは、ナルトの為でもある。
聞いて、嫌な思いをするのは、ナルト。
その反応を見て、胸を抉られるのは、カカシ。

誰も得をしない。
だから、お前には言われたくない。
大体、大抵の女が落ちたとしても、ナルトは男じゃないか。





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