「ん……。あれ……、俺、寝てた?」 「寝てた。疲れてんじゃねーの?」 瞼の重い眼を開けると、ジャージを引っ掛けてファスナーをあげているナルトが目に入った。 まだ裸のままのカカシと違って、通常の任務時のスタイル。 乱れた髪を、フルフルと頚を横に振ることで整えようとしている。 「俺、もう帰っから。先生もさ、夏だからって腹出しっぱなしで寝てると風邪ひくってばよ」 「……うん。いや、泊まってけばいいんじゃないの?」 「また今度ね」 じゃーな、と少し笑って手を振って。 カカシがナルトの家に出入りする時とは違い、ナルトは玄関からカカシの部屋を出ていった。 「……」 バタンとドアが閉まる音を聞き、のろのろと身体を起こす。 ベッドサイドに腰掛けてカカシは項垂れ、小さく溜め息をついた。 お互い恋愛感情など皆無で、つかず離れず教師として部下として良い距離を保っていた、あれはもう五年も前だ。 ナルトは幼く、その身長はカカシの肩ほどにも満たなかった。 今だって、きっと恋愛感情はないに違いないのに――…… 関係が崩れたのは些細なきっかけ。 ナルトは里を抜けたサスケのことで精神的に参っていて、カカシは長年付き合っていた恋人と別れたばかりで空虚だった。 各々がそれぞれの理由で、求める温もりの意味は違ったというのに、悲しみを紛らわせてくれる誰かを欲したタイミングが一緒で、不運にもそれが重なった。 慰め励ます手が別のものへと成り代わった時、ナルトは否定も肯定もせずカカシを見つめただけで。 『お前が辛いのは、俺が一番良く分かってるよ』 カカシの言葉に、堪えきれず唇を噛み涙を溢した。 堪えるように細い肩を震わす様子にカカシの胸は騒ぎ、俺だって辛い、と思った。 誰だっていいから受け入れて欲しいと思ったそのタイミングで、誰かの手を求めているナルトが目の前にいた。 『――慰めてあげる。一瞬でも全てを忘れたいでしょ?』 慰められたかったのは、多分自分の方で。 そう……、今となって考えれば不運でしかない。 全てを忘れさせるどころか、その一時でカカシは二度と忘れられなくなった。 ナルトを。 お互い存在しなかったはずの恋愛感情が、それをきっかけにカカシの側にだけ生まれた。 訳が分からない様子のナルトを抱き、揺さぶりながら、それでもナルトは泣いていた。 その痛みに、だけではなくて ――俺が、もっと強かったら…… ――先生、サスケは…… 情事には到底相応しくない言葉を並べて、苦しいと泣きじゃくった。 『ナルト……』 聞こえる? ねえ、俺が見えてる? 今、お前の前にいるのは俺だけで、他の何者でもないんだよ。 そんな顔、するな。 しゃくりあげる声が耳元から離れず、そんなに悲しそうな顔をするなら、本当にいっそ全てを忘れさせてやりたいと思い、 『俺が傍に居る』 と抱き締めた。 皮肉にも、元恋人の存在は忘れ、そんなナルトを愛したのはカカシの方。 前へ 次へ戻る2/6 |