「あら?カカシ、遅かったじゃない。任務、夕方頃には終わるかと思ってたのに」 店に入ると、既に少し酔いが回っている様子のアンコに言われて「ああ…」とやる気のない返事を返した。 「ちょっと知り合いのところに寄っててね」 「知り合い?」 「って言ってもナルトのとこだけど、忙しかったみたい」 元々上忍連中に誘われていて付き合いでの飲みなのだが。 カカシが少し項垂れ気味に隣に座ると、「うずまきぃ?」とアンコが笑い飛ばした。 「一ヶ月ぶりに里に帰ってきたかと思えば一番最初に寄るのが男の部下のところなんて相変わらず淋しい男ねーカカシ。色恋はないわけ?」 「ほっといてちょうだいよ」 アンコに言われても言い返す言葉はなく、通りかかった店員に「すみませんビールを一つ」と声をかける。 実際、カカシには軽く五年くらい彼女と呼べるような存在がいない。 尤も、それにはそれなりの理由があるのだが…… 少し不満げに思っていると、離れたところで飲んでいた紅が「バカね、アンコ」と話に割り入ってきた。 「あんた、知らないの?」 「は?何を?」 「紅、余計なこと言わなくていいから」 言ったのに。 「カカシってうずまきと付き合ってるのよ。陰では結構有名な話なのに」 ……言いやがった。 「はぁあ!?」 案の定、アンコが声を裏返して叫ぶ。 (あーあもう…) カカシは頬杖をついて溜め息をつく。 そう、なのだ。 カカシとナルトは付き合っている。 元々ナルトが何かと理由をつけてカカシの家に来ていて、一緒に過ごす時間が多くなったのがきっかけだ。 「付き合い」の始まりは数年前にも遡り、自発的な告白によるものではなく偶発的な成り行きによるものだった。 よって、正しくはカカシには「彼女」と呼べる存在は軽く五年は居ないものの、「恋人」と呼べる存在はもう二年以上は居る。……ナルトという存在が。一応は。 「いやー驚いたわ、カカシ。あんたがまさかそんな嗜好だったとは」 一頻り叫び、「何の冗談だ」と笑い転げたアンコは「いや、マジだから」と他の上忍に複雑そうな顔で再度繰り返し言われ、漸く冗談ではないと信じたらしい。 笑い過ぎて涙を湛えた目を向けられ、自分の方がよっぽど複雑な気持ちのカカシはそんなアンコを睨むように見る。 「あのねぇ……人を変態みたいに言わないでくれる?」 「充分変態よ。男に、しかも部下に手を出すなんて。息子傷物にされて今頃絶対四代目あの世で泣いてるわよ」 「うるさいな……。大体最近はそんな色っぽい関係でもないよ」 溜め息をついてグラスを手にとると、その台詞が引っ掛かったらしい。 今度は紅が興味津々と身を乗り出してきた。 「そういえば、一ヶ月ぶりに会ったのに『忙しい』って言われたんだっけ?」 「シカマルと約束があるってさ」 「へえ……」 「……何だよ、その顔は」 ほくそ笑むような紅の微笑に嫌な予感がする。 長年の付き合いで分かるが、こういう時はろくなことは言わないのだ。 前へ 次へ戻る2/7 |