「カカシせんせェ」

目は据わっているが、確かにカカシを見ている。
自分を囲ってくれるはずだと信じて疑わないナルトに手を伸ばされ、カカシが仕方なく腕を差し出せば、ナルトはしがみつくようにカカシの身体に抱き着き、肩に頭を預けてきた。
カカシは体裁を保とうと空笑いした。

「ハハ……」

痛いほどの周囲の視線を感じる。
誰も彼も、そこに事の経緯を見出だしたような顔付きだ。

カカシは、もう一年近く前からナルトと付き合っていた。
しかしそれは、周囲には内密のことだった。
想いを告げたのはカカシの方で、ナルトは照れながらカカシを受け入れてくれたが、そこに出された一つの条件が、皆には交際を内緒にすることであった。
男同士だし、異色。色物を見るような目で見られそうだから、という理由で、カカシは少し淋しく思いながらも、もっともだと思い、承諾したのだ。
けれどナルトは現在泥酔して、自分自身が突き付けたそんな条件も頭からぶっ飛んでいるようである。

「せんせー……チュウ」

「な……何言ってるの、お前。……あ、じゃあ、オレはこいつを送って帰るからこれで……」

正体を失くしてキスをねだってくるナルトと、それに伴い、突き刺さるしらっとした周りの視線に堪えられず、カカシは追い立てられるような心境でナルトの肩を抱いて立ち上がった。
今でさえ関係を怪しまれているかもしれないが、このままここに居たら言い逃れも出来なくなりそうだ。

「気をつけてー」

いのが愛想笑いを浮かべて言う隣で、サクラは呆れた顔になっており、その向かいでシカマルは顔をしかめた。
席が離れている為、状況を把握していないガイが「もう帰るのか、カカシ。ん?ナルトはどうかしたのか」と目を丸くする、その対角線から、「ハー……もう胃の中空っぽだぜ……」と幾分かげっそりしたキバがトイレから戻って来た。

「……あ?ナルトは?」

飲み比べをしていたナルトが居なくなっていることにキバが気付いて眉をひそめると、シカマルは「あそこだよ」と握った拳から親指を差し向けた。
親指の先を追えば、ちょうどカカシに支えられるようにして店を出ようとしているナルトが居る。

「カカシせんせェ、チュウは?」

「……家に帰ったらするから」

しつこくキスをねだるナルトに声を低くしたカカシが小声で返し、店を出て行くのを見送って、サクラはうんざりして首を左右に振り、シカマルに言った。

「カカシ先生……あれで関係を隠せてるつもりかしら」

「……あそこは、あんまり隠す気ねーだろ」





『ナルト、オレはお前のことが……』

『すげーうれしいんだけど……一個、条件があるってばよ』

本当のところ、実は、カカシがナルトに告白する前から、カカシやナルトに近しく勘も働く人間――サクラやシカマルなどはナルトに対するカカシの気持ちに気付いており、二人が付き合うようになったことも、関係が進展し、より親密になっていく感じも肌で感じ取っていて、

『付き合うこと、皆には内緒にしてェ』

ナルトが突き付けたそんな条件は、最初っから意味を為していなかったのが実情だ。

言い逃れ出来る段階なんてとうに越してしまっているのだが、知らぬは本人達ばかりなり。
送ってくれるのはカカシがいいと喚き、カカシを目の前にした途端、抱きしめてくれると確信したように手を伸ばすナルトの反応や、当たり前のようにキスをねだる様子から、カカシが普段如何にナルトを甘やかしているかというのを目の当たりにし、ナルトの同期連中は揃って砂糖を吐きそうになっていた。
客観的に見れば、我慢の利かない大人が溺愛する教え子に手を出した結果の集大成である。








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