一楽を先に出て家に向かうナルトは再びふて腐れ、一人ぶつぶつと不満をこぼしていた。

「カカシ先生のアホ。やっぱ、普通はするんじゃねーか……何であんなどうでもよさそうな態度なんだってばよ」

イルカに話した、恋人と一緒に居る時にキスの日云々というのを訊いたらどう思う?という話。
ナルトは今日、実際に体験していた。

任務帰りにカカシ、サクラ、サイ、ナルトというメンバーで里に向かって歩いていた時、サクラが「ねぇねぇ」と声を弾ませた。

「いの達がこの間言ってるの聞いたんだけど、今日、キスの日なんですって」

「そうなんですか?聞いたことありませんが……それに、何で今日なんですか?」

真顔で訊くサイに「知らないわよ、詳しい由来なんて。でも、何だかちょっとロマンチックじゃない?恋人がいる人はきっと今日……」などと言って何らか妄想したのかサクラは頻りに照れている。
ナルトは斜め前を歩いていたカカシをちらりと見て、そわそわしながらカカシの隣に並んだ。

「カカシ先生、今の聞いてた?」

「んー?」

答えるカカシは片手に愛読書を持っており、目線も紙に落ちていて、

「いや……だからさ、そのー……今日、キスの日なんだってさ」

多少の恥じらいを見せつつも、多大な期待を込めてカカシを見つめるナルトに本から目を離さぬまま「へぇ」と一言言った。

「……こっ、恋人同士だったら、多分、するんだろうな」

「ああ、そうかもな……」

「……」

興味なさげで他人事のようなカカシの態度を受けて、ナルトはそれ以上何も言えなかったが――……。




「ぬぁーにが、『ああ、そうかもな』だよ!んじゃあ俺達はどうなんだってばよ!」

現在、鬱憤を溜めて地団駄を踏みながら頭を掻きむしっている。
道を通り過ぎる人々が驚いたように避けて行くのに気付き、ナルトは鼻息を噴出すると、土を踏み鳴らすようにして歩き出した。

……以上から察することは出来るかと思うが、実は、ナルトはカカシと少し前から付き合っている。
しかしながら、カカシは何とも癖のある男だった。

元々、カカシを仄かに慕っていたナルトがカカシには長年恋人が居ないというのを耳にし、「しょうがねぇから俺が付き合ってやろうか?」などとナハハと笑いながら冗談で言った時、カカシが「じゃあ、よろしくね」とあっさり答えたのが付き合うことになったきっかけだ。
ナルトはあまりに驚いて「マジで言ってんの?」と口をあんぐり開けたが、カカシが「ん?冗談だったの?」と聞き返すものだから、「いや……」と濁してそのまま付き合うことになった。
始まりですらそんな感じだったから、カカシが何を考えているか分からないことなんてしょっちゅうで、たまに、からかわれているだけなんじゃないか?と思う。
だって……、

「一ヶ月だってばよ……一ヶ月……なのに、手すら握らねぇとか、何なんだってばよ。こんなん、付き合ってるって言わねぇだろ」

独り言をこぼすナルトはカリカリし、目が据わってしまう。

付き合うようになってからもカカシの態度は付き合う前と少しも変わらず、見事に師弟関係の延長だ。
ナルトが言ったように手さえ握らず、肩を抱くなんてことは更に有り得なくて、キスなんて以っての外だ。エッチなんて、宇宙の彼方ほどに自分達には縁遠い話。
カカシにはさっぱりその気がないと見える。
ナルトだって、ヤりたいのかと言われたら実は正直微妙だ。
身体の関係についてはカカシとそういうことをするのは想像がつかず、未知の世界過ぎて恐れを為しているところもあり、急がなくてもいいかなとも思っている。
だが、この一ヶ月間、あまりにもほんの少しも恋人同士の付き合いがなかったから、少し踏み出してみようと思った。けれど、

『今日、キスの日なんですって』

サクラからのそんなニュースに一歩踏み出すチャンスだと思い、切り出したナルトにも、

『へぇ』

『ああ、そうかもな……』

カカシはそんな淡々とした返事で、普通に帰って行った。

「ああもう、俺がアホみてぇじゃねーか!……っつーか、単純に好かれてねぇのか、遊びか?」

叫んだ後でテンションを落とすナルトは感情の起伏が激しくなるくらいに混乱を来たしており、ぴたりと足を止めると、「……決めた」と低く呟いた。
顔を上げ、通りを歩いている人々を跳ね退ける勢いで駆け出す。









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