…油断していたつもりはないのだ。

任務の中で、敵の忍に投げつけられた煙玉。
上手く避けたつもりだった。
いや、実際避けれたのだ。

その後で砕け散った煙玉はとても目に染みて、
恐らく催涙効果のあるものだと思っていた。
まさか、視神経を麻痺させ視覚を奪う程のものだなんて思っていなかったのだ。


「…ダメだな。当分任務は無理だ」

綱手が溜め息をついて立ち上がる。

「ダメって…、そんな言い方ねえってばよ」

「当たり前だろう。そんな状態で任務ができるか?」
「……」

まあ、間違いなく無理だ。
任務どころか、正直ナルトは日常生活をまともに過ごすのだって危うい状態だった。

今のナルトの視界は殆ど真っ白で、
例えば誰かが目の前に立ったり、物が目の前にあったりする時にそれがぼんやりと霞んで見える。
だが、それすらも色の判別も微妙なくらいで。
誰かいるのかな?とか、何かあるのかな?とかその程度のもの。

…トイレ、一人で行けるだろうか。
どうでもいいような、だが結構何よりも重要であろう問題が頭を過ぎる。

「…とりあえず、身の回りの世話は病院の者がやってくれる。今はとにかく休め」

綱手に言われ、その後で

「ナルト。ちゃんと大人しくお医者さんや看護婦さんの言うこと聞くのよ」と言うサクラの声や、
「また来るよ」と言うサイの声。

全て、目が見えないから声で判断するしかないが。

…けれど。

「…カカシ先生は?もう帰ったってば?」

カカシだけが何も言ってくれないので、聞くと、クシャリ、とナルトの頭に…恐らく手が触れた。

「…いるよ。…きっとすぐ見えるようになる、頑張れ」と言う、低い、穏やかな声。
カカシの声だ。

ナルトはそれに少しホッとして「おう」と答えたのだった。



…目の見えない生活は思った以上に大変だった。

スプーンやフォーク、皿を持つのさえままならず、食事も一人では満足に食べれない。
心配していたトイレもやはり誰かに付き添ってもらわずには無理で、結局その位置までは看護師に導いてもらう必要があった。
外の風を浴びたいと思っても、窓の位置がわからない。

そんな生活は想像以上にストレスで、日に日に塞ぎこんでいく自分を自覚しながらも、どうしようもなかった。



「…看護婦さん」

ベッドで横になっていると、カタ、という音がしたのできっとそうだと思った。
すると、「何?」とやはり女性の声がする。

「わりぃけど、窓開けてくんねえかな…。外の空気吸いてーんだってば」

「わかったわ」

そんな声と同時にカラカラと音がして、スウ…と涼しい風が部屋の中に入ってくる。
それが頬を撫でて、ナルトは目を閉じた。
目を開けていても、閉じていてもあまり変わらない。
どちらにしろ見えないのだから。

「……ありがとってば」

呟くと、パタパタと音をさせて看護婦は部屋を出て行ったようだった。









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