ナルトの身体が普通とは違うことは、出会って割りかしすぐに気付いた。
九尾の力だ。
治癒力が強く、軽傷なら瞬きする間に、重傷でも見る見るうちに治っていく。
ナルト自身はそのことを気にも留めていないが、そのぐらいでいいのかもしれない。
傷の治りは遅いより早い方がいいに決まっているし、そのことで弊害があるわけでもない。

……だが今、必ずしも弊害がないわけじゃないという事実をオレは目の当たりにしていた。
林の中、オレの二、三歩先を行くナルト。
頬が赤く、眉をひそめて背中を丸め、発汗しているが、それは重症だからではないし、重傷だからでもない。
恐らく、オレのせいだ。

元々は、裂傷だった。ツーマンセルでついた任務でナルトは敵の攻撃を受け、首を負傷した。
場所が場所なだけにそれなりに出血したが、しかし、やはり驚異的な治癒力がある。
傷口は見る見るうちに塞がっていき、乾きかけた血液を拭うと、残っているのは最初から何もなかったかのようなつるつるの肌だけで。
オレは無事に治った様を見て安堵し、血が出て行った分、増血丸を取った方がいいとナルトに勧めた。
増血丸は、文字通り、体内の造血及び増血作用を促進させる丸薬だ。
ナルトはあまり飲みたがらなかった。

「オレ、それ苦手だってばよ……。前に一回飲んだら、すげー身体が熱くなったってば。それに今は、別に貧血とかにもなってねーし」

増血丸で副作用なんて聞いたことがない。
「薬なんだから我慢しろ」とオレは飲むように促し、ナルトは渋々と丸薬を飲み込んだ。
そうして、徐々に頬に赤みが差してきたかと思ったら、そう時間も経たないうちにナルトは今のような状態になっている。ハタから見る限り、火照りをつらそうにやり過ごそうとしている興奮状態。
もしかしたら、傷の治りが早いナルトは失った血液以上の血液量を増血丸によって得て、血気に溢れ、こういった状態になるのかも知れないが、詳しいことは分からない。
確かなことは、増血丸を飲んでからナルトの様子がおかしくなったということ、そして、この丸薬で変調が起こったと言ったナルトの言葉をオレが受け流し、ナルトに薬を飲むよう促したということだけだった。

「ナルト」

余裕がないのか、若干ふらついているナルトの腕を掴むと、ナルトはハッとしたようにオレを振り向いた。

「お前、熱があるんじゃないの」

「え、……」

ナルトが答えるのを待たずに腕を引き、金髪に指を差し込むと、案の定、体温が高く、汗で湿っている。更に確かめるように赤い頬を指の甲で撫でれば、ナルトはびくりと肩を揺らして身を退いた。

「だ、大丈夫だってばよ!ただ熱いだけで……」

「さっきから動きも鈍い。それに、お前らしくもなく猫背になってるしね……本当は具合悪いんでしょ?」

「……」

「頑張り屋なところはお前のいいところだけど、頑張り過ぎるところは悪い癖だよ。……ホラ、負ぶってやるから」

覚束ない歩調で行くナルトに付き合うより、負ぶって里まで戻った方が早い。
しかし、オレが背を向けて腰を落とし、乗るように促すと、ナルトは顔を引き攣らせて首を横に振り、「いいってばよ」と後退りした。

「平気だって……マジで普通に歩けるからさ」

「歩けてないから言ってるんでしょ、いいから早く乗りなさいって」

オレがナルトを負ぶることは初めてでもないのに、なぜか不自然なほどに遠慮している。乗る乗らない、で押し問答することが時間の無駄に思えたオレは、ナルトの腕を掴まえ、強引に自分の背に乗せようとした。その途端、

「うっ……」

ナルトが上擦った声をもらした。
硬いものが腰に当たったのは同時だったか。それが何なのかは、振り向いてすぐに分かった。
頬を染め上げたナルトが、自身の股間を押さえている。
オレの腰に当たったのは、反応しているナルトの一物だ。
何か言おうとして一旦は口をつぐんだナルトだったが、やがて泣きそうな顔をしてオレを見上げた。

「……っオレ、さっきから……。カカシ先生……、どうしよう」



生い茂った木々の葉がさわさわと揺れている。
山深い林の奥に他に人の気配などあるはずもなく、都合が良かった。

「あ、っ……で、でも、せんせい……!」

「……大丈夫だよ、気にするな」

数分後には、一際目立つ巨木の下、オレはその太い幹を支えにするようナルトに手をつかせ、背後からナルトの身体に触っていた。
男の生理現象の迅速的確な解決方法は、言わずもがな、人為的な方法で吐き出すことだ。
けれど、オレと一緒に居るナルトは羞恥から自分でそれをすることが出来ない。そうかと言って勃起している状態では負ぶることも出来ず、連れて帰るにも歩調が遅いとなると、そうするのが一番手っ取り早かった。
ナルトも頭ではそれを分かっているようだったが、一般的な良識が頭を過るのか、それはダメだとかぶりを振った。男同士でそういったことをすること自体に抵抗感があることは勿論、カカシ先生にそんなことはさせられない、と逃げ腰になっている。

「どうしようってさっき、お前が言ったんだろ……?すぐに済ませるから、身体の力を抜いて」

「んっ……う、……」

耳元に囁きながらズボンのボタンを外し、ジッパーを引き下ろしてやると、ナルトは俯き、こらえるような声を出した。
ウエストのゴムの隙間を縫って手を差し込み、下穿きを押しのけるようにして触ったナルト自身は、すぐにでも達してしまいそうなほど硬く張りつめており、先走りに濡れている。
首を捻り、オレを振り向いたその顔は涙目になっていた。

「カカ……カカシ先生、お願いだってばよ。こんな……こんなの、誰にも言わないでくれってば」

息を震わせ、懇願の表情だ。
それは、こんな状態になっている自分をということか、それとも、オレにこうやって触られたことをか。或いは、そのどちらともか。
オレは「言わないよ。オレ達だけの秘密だ」と言い含めてなだめ、手甲を噛んで引っ張り、素手になってからナルトの茎を扱いた。

「こんな状況なんだから、引け目に思わなくたっていい」

安堵したのか、ものを考える余裕がなくなったのか、声は途絶え、ハァハァという吐息がひっそりとした辺りを支配し始める。
後ろから身体を抱きしめて横顔を窺うと、ナルトは目を瞑って俯き、オレの手が与える感覚に感じ入っているようだった。
時折、耐えかねたように腰が動き、ん、とか、あ、とか喘ぐような声がもれる。
さっきの、懇願するような顔も、今のような顔も、考えてみれば初めて見た。
体温が高く、伝った汗が顎から落ちている。
オレは強弱をつけて手を巧みに動かしながら、片手を、額当てを押し上げるようにしてナルトの額に当てた。そこも汗でしっとりと湿っている。

「身体が熱いな……。……気持ちいい?」

「……っん、ん、き、もちい……」

額を押さえられ、顎を上げてこちらを見たナルトは少しだけ視線を揺らし、ハァ……と熱をもった息を吐いてまた感覚に集中し始めた。
揺れた視線は戸惑いを意味しているが、こんな状況だからきっと流されただろう。
ナルトの身体を背後から抱くようにして施しをしているオレの陰茎もまた、ナルトと同じように勃起していること。尻に当たっているから気付かないはずもない。

「あ、せんせ、っ、も、もうイキそう……」

「いいよ……。イく?」

陰嚢を揉み、上下する手を速めて先端のくびれを掻いてやると、ナルトは予告に違わずびくびくと背筋を震わせた。

「う、あっ、んん……、っ……!」

白濁が迸り、切なく押し殺したような声を喉元からもらす。
ハァ、ハァ、と息を切らし、ナルトが気持ち良さそうに顔を歪めて、ずれた額当てがぽとりと落ち、その汗ばんだ首にかかった。



「……大丈夫か?」

事が済んだ後、ざくざくと土を踏んで歩きながら、オレは、オレの背中ですっかりだんまりになっているナルトに声をかけた。
一度の射精でおさまらず、結局、二度付き合ってやり、吐き出したら吐き出したで精気をなくしたのか脱力したナルトを負ぶってやり、里に戻る途中である。

「……」

返事は戻って来ず、寝たのだろうかと背後を振り向けば、ちゃんと起きているナルトと目が合って、ナルトは赤い顔を拗ねたような顔付きでぷいと背けた。
照れくさいのか、もしくは怒っているのか。
拗ねたナルトを深追いすると余計に激高してしまうのが常な為、おとなしく前に向き直ると、しばらくしてナルトが「なんであんなこと出来んの」と口を開いた。

「何が?」

「何がって……だっ、だから、さっきの!」

「だって、お前、苦しそうだったじゃない」

「だからって、フツーあんなことしねーだろ!?」

耳元で怒鳴るナルトの顔を見ようと首を捻ろうとすれば、「こっち見んなってばよ!」と頭を掴まれて前を向かせられる。
照れているだけのようだ。

「……ま、そうだなぁ。可愛い教え子が苦しんでたらどんなことでもするよ、オレは。……楽になったでしょ?」

茶化すでもなく言うと、ナルトは、うん、と、しおらしく頷いてオレの首に回している腕に力を込めた。


様子を見る限り、増血丸は恐らく、ナルトにとって媚薬のような効果をもたらすものだ。
興奮は体温の上昇や発熱だけに留まらず、局部の反応までを引き起こす。
オレがナルトに飲ませたのだから、責任を取ることは或る意味、当たり前だ。

だってオレは、そうなるかもしれないことを分かっていて飲ませた。
本当は知っていた。

前に一度、ナルトが丸薬を飲んで身体が熱くなったというその時、傍に居た。
その時は、サクラやサイも一緒に居て、二人はナルトの様子がおかしいことに気付かなかったようだが、オレは気付いた。
丸薬がナルトに常にそういった効果をもたらすものかは知らないが、状況を見る上では、たいして失血していない状態で飲ませてそうなった。
なら、同じような状況下で飲ませたら、もしかしたらまた……。
オレは、そう考えたのだ。
今回のことは、策の上。弊害は、オレにとって好機だった。
ナルトに触る為の、近付く為の好機。

「……カカシ先生、マジで、オレ達だけの秘密だってばよ」

ナルトが、オレがさっき言って聞かせた台詞を真似て小さな声で言う。

「ああ、約束ね」

口外するわけがない。
共通の『秘密』は二人の関係を深める為のものなのだから。

振り向き微笑んでやると、ナルトは安堵したように目を細め、紅潮している頬をオレの肩にぎゅっと押し付けた。





FIN(20140412)





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