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『好きです』

ただ一言。
小さな四つ折の紙に書かれている文言を見つけたのは、いつも通り欠伸をしながら自宅のポストを開けた時だった。

封筒に包まれているわけでもなく、便箋でもないノートの切れ端のような紙に無造作に書かれ、無造作に投げ入れられていた。

差出人の名前も書いていない。
ゆえに誰からかも分からない。
ただ、手紙の筆跡が如何にも女の子というものではなかったことが印象に残った。



そして、それが再び頭に蘇ったのは、それから少し経った頃、所用で寄った部屋のテーブルの上で、書きかけの任務報告書を目にしたからだ。
奥から巻物を数点持った部屋の主がやってくる。

「一応、これ簡単なやつだけね。難しいのだとお前失敗して厄介なことになりそうだし。……報告書がどうかしたのか?」

報告書に問題はない。
問題は、その筆跡。
あの手紙のものと、よく似ている気がする。

「この報告書、カカシ先生が書いたんだよな?」

「そうだけど……それが何?」

「……」

まさか。
いや、それはないだろう。
カカシなら手紙なんて乙女チックなことをせずに……仮にもしナルトを好きだった場合でも口頭で言うはずだ。
そもそもその前に、カカシならナルトに恋愛感情は抱かない。
男だし、一回り以上年上だし、先生だし、上司だし。

一方で、あの手紙の送り主からはあれ以来、何のリアクションもなかった。
何がしたかったのか分からず、何の確信もないが、相手は身近な人物ではないかと思った。

「……ナルト?」

カカシではないだろうかと思う気持ちが強くなった。



意識し始めてみれば、随分、自分に対する目は優しい気がする。
口調は柔らかい気がする。
頭を撫でられて、肩を竦めた。

「ほんと、お前はいくつになっても世話がやけるよ」

数日、数週間と時が流れるうちに

『カカシ先生じゃないだろうか』

という気持ちが

『カカシ先生だったらいいのに』

というものに変化した。



確かめたくて、我慢出来ずに一楽からの帰り道に訊ねた。

「……手紙?」

「そっそう!カカシ先生かな〜って何となく思ったもんだから!いやっ違うなら別にいいんだけど!名前、書いてなかったからさ……どうかなって」

「手紙ねぇ……。それ、何て書いてあったの?」

流し目でこちらを見るカカシに、笑顔が固まる。
試しているようにも、本当に知らないようにも見える。

「それは……」

『好きです』

「ま、いいけど、俺じゃないよ。用件なら口で言うし。他のやつだ」

「……、そ、そっか」

「ああ」


その日、家に帰ると玄関の前に知らない女の子が立っていて、告白された。
その子は、随分前に手紙を書いた、勇気がなくて名前を書けなかった、と真っ赤になって言った。

女の子に告白されたのと同時に、カカシにフラれた気分になった。
気付かないうちに惹かれていたのだと知った。




「……お前、最近元気ないね」

それから数日経って、一楽のカウンターで肩を並べている時にカカシが言った。

「この間、手紙がどうこう言ってたけど、その関係?」

「……」

肯定も否定もせずにいると、肯定だと捉え、整った眉がひそめられた。

「よくないことが書かれてたのか?」

脅迫か何か。
違う、と慌てて頚を振った。
ナルトが勝手に期待して、傷付いただけだ。

「好きです、って、書かれてたんだってばよ。この間、告白された。可愛い女の子だったってば」

動きを止めたカカシは箸を置き、口布を上げた。

「それ……俺が書いたんじゃないかってお前が聞いてきたやつだよな?」

「あっ」

何も考えず言ってしまっていたのでマズイとばかりに声を上げる。
もう後の祭りだが。



一楽を出てからはすっかり気まずくて、いっそカカシが笑い飛ばしてくれればいいのにと思ったが、そうはしてくれなかったのでナルトが自分で笑い飛ばした。

「なんつーか……字が……。そうそう、字が!似てたんだってば、その手紙の字と先生の字と」

「はぁ……。字が似てるくらいで、俺なわけないじゃないの」

だよなー!と笑いながら、すっかり傷の深堀だ。
お前を好きになるわけないじゃないの。
そう言われている気がする。
痛くて、熱くて、疼く。

「俺は、言いたいことは口で言うよ」

お前が好きだよ。



言われたのは直後だったが、理解したのは数分後。

きっと、言霊ってやつなのだ。
手紙より、声の方が何十倍も重みがある。





FIN
ss 2014/02/25 23:23
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