■金縛り
【金縛り】
「お前ねぇ……」
深い溜め息だけで、それが何を意味をするか察するのは簡単だ。
迷惑。呆れた。なんてまた突拍子もない。
意外性ナンバーワンの忍者。
何と言われようとも構わない、とナルトは瞳を潤ませて己の師であるカカシに抱き着いた。
「いくらでも罵倒してくれて構わねえ!俺をカカシ先生の布団に入れてくれってば!!」
***
夜も十時が回り、さてそろそろ寝ようかと布団に潜り込んだカカシの部屋のドアを叩いたのは、枕を持参したナルトだった。
呆気にとられ、口をあんぐりと開けたカカシに、ナルトはさめざめと事情を説明した。
「ここ最近、しょっちゅう金縛りにあうんだってばよ。寝てても胸の上が重くなって、大抵仰向けの時になるからいつも横向きで寝るんだけど、昨日はそれでも金縛りにあって。もう怖くて一人で寝てらんねえだってば。俺んち、幽霊いんのかもしんねえ。それに、誰かと寝てたらさすがに幽霊だって空気読むだろうしさ、金縛りになんかならねえんじゃねえかって思うんだってばよ。最近すっかり不眠症で、寝たくねーけど寝ねえと任務がやべえし、だからカカシ先生、お願いだから俺と寝てくれってば」
よく口が回るものだ。
息継ぎなしでまくし立てるナルトの話をカカシは口を挟む間もなく聞いたが、「お願いだから」と言うわりに、ナルトはカカシが了承する前にカカシの布団に潜り込んで、今に至る。
自分の寝場所を奪われて、かといって颯爽と布団に潜り込む気にもならず、カカシは腕を組んで眉を寄せた。
「……なあ、ナルト。何から突っ込んでいいのか分からないけど、まず……金縛りっていうのは霊の仕業じゃないでしょ」
「つまり……どういうことだってばよ?」
カカシの布団から、目から上だけ覗かせてナルトが尋ねる。
「睡眠の質の関係だよ。体は寝てるのに脳だけ覚醒してるから、体が動かず意識だけがあるわけ。最近、任務も不規則だったからそのせいじゃないの」
「難しいことは分かんねえけど、とにかくこええんだってばよ。先生一緒に寝てくれってば」
「お前、俺の話聞く気ないでしょ」
ナルトと一緒に寝たことは任務の上で何度かあるが、布団を一緒にして寝たことはない。
気の進まないカカシはナルトに掴まれてベッドに引っ張り込まれた。
それでもって抱き着いてくるのだから、辟易もしようというものだ。
胸の上に誰かが乗ってるように感じることがある。
息苦しいこともある。
だから絶対幽霊だ。
それがナルトの言い分だったが、カカシはやはり呆れるしかない。
そして物申した。
「いいか?ナルト。寝ている時に、例えば自分の腕が枕の下敷きになったとするだろ?」
こくこくと、カカシの肩に顔を押し付けたままでナルトが頷く。
随分温くて、子供のようだ。
「まあ、例え腕が枕の下敷きになったところで、実際には全然重くないよな。それが寝ている時にはその倍、もしくは何十倍の重みに感じたりするわけ。意識がないものだから物理的な実際の重みとは違った重みに感じるわけだ。分かる?」
少し時間をあけて、またこくりと首が振られた。
「だから、お前が上に何かが乗ってるとか息苦しいって言うのも、実際には寝ている位置が悪かったり、布団が偏って掛かってたりするのを錯覚して……」
「すー……」
「やっぱり全然聞く気ないな」
カカシの声をお伽話を聞くような気分で聞いていたのか、返ってこない反応に顔を覗き込むと、ナルトの瞳はもう閉じていた。
淡い桃色の唇はうっすら開いている。
自分の身体に回っているナルトの腕を引きはがすと、意識のないナルトはあっさりと手放した。
その手をシーツへと押し付けて、カカシは見下ろす。
「分かってないねぇ……ナルト。霊なんかより、生きてる人間の方がよっぽど怖いんだぞ?」
表面上見せている優しい顔と、裏にひそめている顔は違ったりする。
……自分のように。
「『一緒に寝て』なんて……誘ってるようにしか思えないよ、先生は」
***
翌朝、やっぱり金縛りにあった、重かったし息苦しかった、とナルトは半泣きでカカシに言ってきたのだが、
昨晩の金縛りだけは、カカシがナルトに伸し掛かり、キスしたことによる人為的なものだったと――知っているのは、もちろんカカシだけだ。
FIN
「お前ねぇ……」
深い溜め息だけで、それが何を意味をするか察するのは簡単だ。
迷惑。呆れた。なんてまた突拍子もない。
意外性ナンバーワンの忍者。
何と言われようとも構わない、とナルトは瞳を潤ませて己の師であるカカシに抱き着いた。
「いくらでも罵倒してくれて構わねえ!俺をカカシ先生の布団に入れてくれってば!!」
***
夜も十時が回り、さてそろそろ寝ようかと布団に潜り込んだカカシの部屋のドアを叩いたのは、枕を持参したナルトだった。
呆気にとられ、口をあんぐりと開けたカカシに、ナルトはさめざめと事情を説明した。
「ここ最近、しょっちゅう金縛りにあうんだってばよ。寝てても胸の上が重くなって、大抵仰向けの時になるからいつも横向きで寝るんだけど、昨日はそれでも金縛りにあって。もう怖くて一人で寝てらんねえだってば。俺んち、幽霊いんのかもしんねえ。それに、誰かと寝てたらさすがに幽霊だって空気読むだろうしさ、金縛りになんかならねえんじゃねえかって思うんだってばよ。最近すっかり不眠症で、寝たくねーけど寝ねえと任務がやべえし、だからカカシ先生、お願いだから俺と寝てくれってば」
よく口が回るものだ。
息継ぎなしでまくし立てるナルトの話をカカシは口を挟む間もなく聞いたが、「お願いだから」と言うわりに、ナルトはカカシが了承する前にカカシの布団に潜り込んで、今に至る。
自分の寝場所を奪われて、かといって颯爽と布団に潜り込む気にもならず、カカシは腕を組んで眉を寄せた。
「……なあ、ナルト。何から突っ込んでいいのか分からないけど、まず……金縛りっていうのは霊の仕業じゃないでしょ」
「つまり……どういうことだってばよ?」
カカシの布団から、目から上だけ覗かせてナルトが尋ねる。
「睡眠の質の関係だよ。体は寝てるのに脳だけ覚醒してるから、体が動かず意識だけがあるわけ。最近、任務も不規則だったからそのせいじゃないの」
「難しいことは分かんねえけど、とにかくこええんだってばよ。先生一緒に寝てくれってば」
「お前、俺の話聞く気ないでしょ」
ナルトと一緒に寝たことは任務の上で何度かあるが、布団を一緒にして寝たことはない。
気の進まないカカシはナルトに掴まれてベッドに引っ張り込まれた。
それでもって抱き着いてくるのだから、辟易もしようというものだ。
胸の上に誰かが乗ってるように感じることがある。
息苦しいこともある。
だから絶対幽霊だ。
それがナルトの言い分だったが、カカシはやはり呆れるしかない。
そして物申した。
「いいか?ナルト。寝ている時に、例えば自分の腕が枕の下敷きになったとするだろ?」
こくこくと、カカシの肩に顔を押し付けたままでナルトが頷く。
随分温くて、子供のようだ。
「まあ、例え腕が枕の下敷きになったところで、実際には全然重くないよな。それが寝ている時にはその倍、もしくは何十倍の重みに感じたりするわけ。意識がないものだから物理的な実際の重みとは違った重みに感じるわけだ。分かる?」
少し時間をあけて、またこくりと首が振られた。
「だから、お前が上に何かが乗ってるとか息苦しいって言うのも、実際には寝ている位置が悪かったり、布団が偏って掛かってたりするのを錯覚して……」
「すー……」
「やっぱり全然聞く気ないな」
カカシの声をお伽話を聞くような気分で聞いていたのか、返ってこない反応に顔を覗き込むと、ナルトの瞳はもう閉じていた。
淡い桃色の唇はうっすら開いている。
自分の身体に回っているナルトの腕を引きはがすと、意識のないナルトはあっさりと手放した。
その手をシーツへと押し付けて、カカシは見下ろす。
「分かってないねぇ……ナルト。霊なんかより、生きてる人間の方がよっぽど怖いんだぞ?」
表面上見せている優しい顔と、裏にひそめている顔は違ったりする。
……自分のように。
「『一緒に寝て』なんて……誘ってるようにしか思えないよ、先生は」
***
翌朝、やっぱり金縛りにあった、重かったし息苦しかった、とナルトは半泣きでカカシに言ってきたのだが、
昨晩の金縛りだけは、カカシがナルトに伸し掛かり、キスしたことによる人為的なものだったと――知っているのは、もちろんカカシだけだ。
FIN
ss 2014/02/06 22:48