炎獅子の咆哮 後編

「コロナックル!」

 戦いは、陽の一撃によって火蓋が切って落とされた。しかし相手は成熟期、成長期である陽の一回の打撃では倒れない。ドクグモンは、反撃だと言わんばかりに毒牙で陽を穿とうとする。

「危ない!」

 陽は身を捻ってそれを躱すが、別のドクグモンが陽を捕らえようと糸を伸ばす。

「プチプロミネンス」

 全身に炎を纏い、蜘蛛の糸を焼き払う。蜘蛛糸を使う戦法は得策ではないと判断したらしいドクグモン達は、牙や体当たりで戦う戦法に切り替えた。陽は、直接ドクグモンを焼き払うために火の威力を強めるが、それでもドクグモンは怯まない。奴らは敵に触れる事でその恐ろしさを発揮するからだ。ドクグモンは触れたものを腐食させる能力を持っている。奴らに長く触れられていたガルルモンには何も起こっていないため、能力のコントロールが出来るらしい。しかし、殺すべき相手である陽には力を全開にして襲って来るだろう。パートナーであるマチにも襲い掛かってくる可能性はある。

「マチ……マチ! 危ない!」

 今、正にマチを守りながら戦う戦法に切り替えようとした陽は、そのマチの背後に1体のドクグモンが忍び寄っているのを目にした。

「え? キャア!!」

 陽の声に反応したマチの横を、黒い塊が掠めた。今のはマチが躱したのではなく、ドクグモンがわざと外したようだ。命を弄ばれている。こんなにも不快で怖い事は初めてだと陽は感じた。
 自分が持っている技は殆どが打撃技で、唯一の遠距離攻撃であるコロナフレイムは体力を消耗するのであまり使いたくない。今の所、唯一有効に使えている技がプチプロミネンスだが、奴らは黒い剛毛に防火処理でもしているのか攻撃面では全く使えなかった。
 完全に、詰んでいる。同じように数で攻めてきたゴキモンはその辺にいるごろつきで、魔王軍として訓練を積んでいるドクグモン達は格が違った。そもそも、あの時のゴキモンは数のみで戦っていたため、まともな成熟期であるドクグモン達にあの時の経験は通用しないのだ。陽は成長期の限界をつくづく感じさせられていた。

「ソロソロ、オ前二良イモノヲ見セテヤロウ」

 ドクグモンが天を仰いだ。陽とマチがつられて空を見上げると、なんと、屋根と屋根の間に巨大な蜘蛛の巣が張り巡らされていた。

「……!?」

 同じ太さなら鋼鉄よりも強い天然の糸が、レースのようにきっちり編み込まれている。一種のアートの様だった。だが、陽達が驚いたのは魔性の魅力を持つアートを目撃したからではない。

「皆……何であんな所に……」

 緻密に編まれた巣の僅かな隙間から、糸でがんじ絡めにされた何かが吊るされていく。その何かとは……ジジモンの家に置いてきてしまった仲間達だった。

「コレヲ見テ、オ前ハ何ヲ思ウ?」

 これは明らかに人質に取られている。今までの奴らの様子からして、陽が苦しむのを楽しむためにやっているのだろうが、こちらが下手な事をすると何の躊躇も無く殺すかもしれない。

「……むにゃ……みんな、おはよー……わあ凄い! 私、ネフェルティモンに進化してないのに飛んでる!」

「うるせえな猫……おお本当だ。飛んでる」

 クラリネと村正が、緊張感が全くない口調で喋りだす。気絶させられたと思っていた仲間達は、実は寝ている間に捕らえられ、今の今まで目が覚めなかっただけらしい。

「どうしたんだよ二人とも……ええ!? 何これ!? 何これ!? 何だよこれ!?」

 パートナーの話し声で目が覚めたタツキは、当然の反応と言うべき慌てっぷりを見せる。タツキが暴れたために振動が糸を伝わり、残りの仲間達も次々に目覚める。

「これはいけませんね〜。関節が固められてますね〜」

「うさを見てよ。耳まで纏められてるよ」

「すげえ……俺、世界を見下ろしてる……こんなの初めてだぜ! 最高だ!!」

「落ち着きなさい聖次! 本気で喜んでいるのか恐怖でおかしくなっているのか分からないけどとりあえず落ち着きなさい!」

 彼らが動いたり叫んだりする度に巣が揺れる。蜘蛛糸はそう簡単には切れないだろうが、心配性の陽は気が気では無かった。

「お! 陽っちにマチちゃんじゃん」

「おーい!」

 愛一好達が、陽に対して朝、学校に行くときに通学路で友達を見かけた時のように呼び掛ける。

「おーいじゃないです! おーいじゃないです!!」

 緊張感が無い彼女らを諌めるべく、空に向かって叫ぶ。

「そうだよ何だよおーいって! 陽! 今行くぞ!」

 タツキは自力で拘束を解こうとするが、上手く力が入らない。

「もし解けたとしても、これはデジヴァイスを置いてきたパティーンですね〜」

「しかも、今これがほどけたら真っ逆さまパティーンですね〜」

 愛一好と跳兎はお手上げだと言って首を振る。

「陽ー! マチー! なんとかして脱出する方法を見つけるからー! それまで堪えてくれー!!」

 頭上からタツキが叫んだ。しかし、陽からの反応は無かった。

「陽……?」

 どうしよう。もし皆が殺されてしまったらどうしよう。僕が殺されてしまったらどうしよう。僕がへまをしたせいで世界が魔王の物になってしまったらどうしよう。いろんな人の大切なものが僕のせいで無くなってしまったらどうしよう。あいつらは無表情だけど、きっと僕の事を嘲笑ってる。僕が仲間を殺させてしまう所を見て楽しむつもりなんだ。怖い。皆が無くなるのが、僕が無くなるのが怖い。嫌だ、こんなの嫌だ。でもどうしよう。怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

「陽!」

 他の誰の声も入らなかった陽の耳に、暖かみを感じる少女の声が届く。振り向くと、ブロンドの髪の少女が驚くドクグモンの間を縫って自分の元へ走って来るのが見えた。厚手のコートを着た彼女が、陽を優しく包み込む。

「マチ…マチは怖くないの?」

「勿論怖いよ。だけど……」

 マチは陽の肩を握り、陽としっかり顔を合わせてこう言った。

「陽と……陽と一緒だから、陽がこんなに一生懸命だから、私は大丈夫。……ねえ陽、私が一緒にいることで、貴方の恐怖、減らせないかな?」

 ……そうだ、マチだって怖いんだ。こんな戦いに巻き込まれて、命の危険に晒されて。でも、僕を信じてくれていると言うのなら、僕を支えてくれると言うのなら、それに応えなくてどうする?ジジモン様が言ってたじゃないか。「幼い者は、まだ親元にいて良い」って。僕は僕が思ってるより子どもで、一人では出来る事が少ないし怖いことも多いけど、だからこそマチと支えあって戦える。
 ……そうだ。あの時僕は村正に、偉大な戦士と戦わせてほしいって言ったじゃないか。あの時の僕は何処に行ったんだ。戦うんだ陽。君は一人で戦っている訳じゃない。皆を信じるんだ。そして、自分も信じるんだ……!

 無表情のまま固まっていたドクグモンの顔が、一瞬目映い光を感じて、そしてすぐに恐怖を感じて歪んだ。マチのテジヴァイスから、陽の体から、ほのかに熱を持った光が溢れてくる。

「マズイ……」

 ドクグモン達は軍に被害が出る前に退散しようとする。しかし燃えるような獅子の目に射竦められ、動く事が出来なかった。

「コロナモン、進化!!」

 二人の声が同時に響いた瞬間、陽の身体から今まで光と熱を発していたであろう炎が、勢いよく吹き出し始める。コレハ本当二マズイ。ドクグモン達は進化しきる前の、今この無防備な状態の陽を倒そうとする。自分達が殺される前に、このコロナモンを何としてでも殺さなくてはならない。しかし、人間の少女とコロナモン自身を守る炎が行く手を阻む。やがて、炎の渦の間から2枚の翼が現れる。

「ファイラクロー!」

 炎の渦は、より強い炎と、日の光の色に染まった翼の羽ばたきと、近くにいたドクグモン1体の断末魔を合図に弾けて消えた。

「ファイラモン!」

 渦の中から現れたのは、翼を持ち、子獅子だった頃よりも熱い炎を纏う雄獅子だった。

「オオオオオオオオ!!!」

 この世に新たな姿で再び誕生した炎の獅子は、蜘蛛の大軍に向かって咆哮する。

「やったね陽!」

 マチが大きくなった陽の胴に抱き着いた。

「ありがとうマチ。マチのお陰だよ」

「凄いよ陽、かっこいいよ……声も低くなっててかっこいいよ」

「えへへ……」

 二人は喜びを分かち合った後、怯んでいるドクグモン達に鋭い目を向ける。

「平和な町に現れて、罪の無いデジモンを傷付けた貴方達を許す訳にはいかないわ」

「覚悟しろ!」

 陽はマチを背に乗せ、地を蹴って敵軍へと飛び出した。

「ファイラクロー」

 超高温の爪が、ドクグモンを毒ごと変性させ、燃やし尽くしていく。攻撃が届いたとしても、陽の背に掴まっているマチが瞬時に傷を治していく。

(マチが僕を信じてくれるなら、僕もマチを信じる。僕が君を絶対に守るから、僕の背中を君に預けて良いだろうか)

(ええ、勿論よ)

 心配性で怖がりだった陽の心に、今は少しも迷いは無かった。陽は自分やマチに飛び掛かってくるドクグモンをひとしきり倒すと、次は上空に向かって羽ばたいた。狙いは天を覆う糸のアーチ。自分を驚きの目で見つめる仲間達が下方に見えるようになった時、爪に宿る炎を燃えたぎらせながら急降下を始めた。

「ギギ……」

 巣を見張っていた数体のドクグモン達が、文字通り蜘蛛の子を散らすように逃げていく。陽はそれに目もくれず、タツキ達の真上辺りを焼き切った。

「おっ!? 落ちるーっ!?」

 重力に負けて次々に落下していくタツキ達。しかし、途中でふわりと受け止められた。

「陽!」

 彼らは自分達を救った頼もしい獅子の名を呼んだ。

「待っててね。今ほどくから」

 マチが仲間達の拘束を解いていく。粘つかない縦糸で作られた縄は、堅く結ばれていたものの、人の手で解くことが出来た。

「ありがとうマチ、陽!」

 タツキ達は口々に礼を言い、進化した陽の姿を見つめる。

「ごめん、流石に重いから降りて良い?」

 今、陽の背に4人の人間と4体のデジモンが乗っている。そりゃそうだと皆が頷き、陽はゆっくり地面に降りて行った。地面は当然ドクグモンで埋めつくされていたが、陽が炎で威嚇すると場所を開けてくれた。

「よくもあんな情けない姿にさせてくれたな!」

 愛一好が手をゴキゴキと鳴らして前に出る。

「ドクグモンは触れば腐る毒を持ってやがるから、人間の出る幕はねえぞ」

「ちっ」

 村正に言われ愛一好は渋々下がった。

「さて、どうしたもんか……」

 タツキ達が出方をうかがっている時、上空を誰かの影が掠めた。

「ジジモン様!?」

 なんと、魔女が箒に跨がって飛んでくるように、ジジモンが杖に跨がって飛んで来た。

「全く、家の周り中ドクグモンだらけで骨が折れたわい」

「ジジモン様! ご無事だったのですね!」

 陽がジジモンを見上げると、ジジモンはVサインで返した。

「伊達に究極体はやっておらんわい。年じゃから大分力は落ちたがの」

 そうは言うものの、ジジモンが疲れている様子は見られない。

「お主らの忘れ物を届けに来たぞ! ほれ!」

 ジジモンが何かを投げた。それはタツキ達のデジヴァイスだった。子供達は各々のデジヴァイスを受け取ると、ジジモンに礼を言った。

「儂は負傷者を救護所に連れていく。ここはお主らに頼んだぞ!」

 ジジモンは杖の方向を変え、倒れている用心棒達の方を向く。そして、おもむろに陽に声を掛けた。

「……恐怖に打ち勝つ方法を見つけた様じゃな」

「……はい」

「恐怖を無くす事は出来ないが、誰かと共にいる事で少しでも心を軽くする事は出来る。おっとそろそろ行かねば」

 ジジモンは、来たときと同じように真っ直ぐ、蛇行せずに飛んで行った。

「ジジモン様……」

 陽はジジモンを見送った後、ドクグモン達に向き直った。仲間は皆、戦闘体勢に入っている。

「反撃開始だ!」

 タツキの声を合図に、デジモン達は一斉に進化を始める。

「ムーンナイトボム!」

「ロゼッタストーン!」

 身体を構成するデータが変化すると同時に、遠距離攻撃が可能なクラリネと跳兎が技を繰り出した。本人達には毒が届く事なくドクグモンを倒していく。彼女らの動きを止めるべく、ドクグモン達が糸を吹き出し始めた。それらが跳兎とクラリネを絡め取るかと思われたが、村正とヴェロニカの見事な剣技で切り刻まれていく。

「チッ。刀が蜘蛛の巣だらけになっちまった」

「文句言わないの」

 文句を言いながらも仲間の援護をする村正と、それを諌めながら飛び回るヴェロニカ。そして、先陣を切るのは陽とマチだ。

「何処かに司令官がいる筈だけど……」

 司令官さえ倒せば、統率力を失った軍は容易く崩れる。しかし、ドクグモンだけで構成された軍の中から目的の個体を探し出すのは困難だ。陽はドクグモンにかすらない程度の低空飛行をしながらそれらしき個体を探し続ける。

「ファイラボム。」

 額から火炎弾を発射し、炸裂させる。 こうやって広範囲攻撃をしている内に倒してしまっていそうな気もするが、未だに軍の統率が取れている所を見ると、まだ司令官は倒せていないのだろう。このまま全滅させるという手もあるが、その場合は体力を激しく消耗するし、無用な殺生もしたくない。

「どこにいるのかしら……」

 自分が陽の背中に乗っているのは何の為だ。陽を手助けする為だ。襲い掛かる敵に対処している陽の代わりに広く周りを見渡し、司令官を見つけなければ。

「司令官は安全な場所、又は周りが見渡せる場所にいる筈よね……」

「うん。若しくは情報を伝える係がいて……マチ?」

 マチはある一点、ある個体を見つめていた。他のドクグモンに比べてあまり動かず、周りのドクグモン達はその個体から指示らしい何かを聞いてそれぞれの持ち場に散っていく。そしてその個体がいるのは、周りを見渡せる安全な場所――

「いた……見張り塔……!」

 ターゲットは町で一番高い見張り塔にいた。先程の警報はあそこから出ていたようだが、番人は真っ先に敵を発見して、真っ先に倒されたのだろう。用心棒がやられるのも早かったので、同時に侵攻する作戦だったのかもしれない。いや、今はどうやって攻められたかを考えるのではなく、どうやって倒すかを考える時だ。

「しっかり捕まってて!」

 しばらく低空飛行を続けていた陽は、勢い良く高度を上げて、蜘蛛の糸による追跡を振り切った。びゅうびゅうと風を切る音が聞こえ、冷たい空気が顔に当たる。そう考えている間に陽とマチは蜘蛛の大将と対峙していた。塔の天辺では見張りと思われるデジモンが倒れており、申し訳程度についた屋根からはドクグモンが3匹吊り下がっている。恐らく真ん中の一回り大きい個体が司令塔だろう。

「さて、どうやって倒そう……」

 狭い足場では小回りの効くドクグモンが有利だし、このまま火を吹けば塔ごと燃やしてしまうだろう。

「どうにかして塔から離せないかしら?」

 ポイントは、ドクグモンを吊るしている糸だろう。あれを何とかすれば塔から引き離せるし、奴等がこちらを攻撃する手段はあれしかないので何か上手い作戦があればこちらに引き寄せる事が出来るかもしれない。

「良いかは分からないけど、思い付いたわ。ゴニョゴニョ……」

「ええ!? 無茶だよマチ!」

 しかし、このまま膠着状態が続いた場合、下で戦っている仲間達が先に力尽きてしまう。迷っている暇は無い。

「……危なくなったらすぐに作戦中止してね!」

 陽は旋回し、ぐるりと塔の裏側へと回った。ドクグモンが振り返る前に塔へと近付き、タイミングを見計らってマチが塔へ飛び乗った。

「ギギギ……」

 ドクグモンが「しまった」と言いたげにマチの方を向く。しかし、マチの出方を伺っているのか直ぐに飛び掛かることはしなかった。

「どうしたの? かかって来なさいよ」

 マチが挑発する。しかし、ドクグモンはそれに乗らなかった。時々歯をガチガチと鳴らしながら、マチの事を見つめている。

「あなた達が何もしないなら、私は私の目的を達成するまでよ」

 マチは不意に駆け出すと、床に伏していた見張り役のデジモン、ララモンを素早く抱き上げた。ふわふわと飛べるほど軽い体のララモンは、人間のマチにも軽々と持ち上げられる。このララモンは見た目に似合わず勇猛果敢で、自ら進んで真っ先に敵に狙われる見張り役に志願したのだが、3体の成熟期の相手は荷が重かったのだろう。

「マテッ!」

 ドクグモンは、獲物を奪われるものかと本能で反応した。 急いで糸を放ち、マチを絡め取ろうとするが、その糸がマチに届く頃にはもう彼女は飛び降りていた。

「陽! お願い!」

 陽はマチに言われる前に彼女の下で待機しており、数多の糸が絡み付いたマチとララモンを受け止めた。そのまま陽はスピードを上げながら前進する。

「ギッ……!」

 糸が強硬であることが災いして、ドクグモンは陽に引っ張られる。更に陽は直接糸に手を掛けて引っ張り、追い打ちを掛ける。

「作戦ニモナラナイ作戦ダ」

 司令塔のドクグモンは直ぐに糸を切った。しかし、自身を吊るす糸は大きく揺れたままである。それを見逃す陽ではなかった、いや、それが陽とマチの狙いだった。敵以外誰もいなくなった塔に近付き、揺れて塔から身体がはみ出したドクグモンを、吊るしている糸ごと陽の爪が切り裂いた。

「ギシャアアアアア!!!」

 マチの作戦は、ララモンを救い出すついでにマチ自身を囮にし、ドクグモンに糸を吐かせてそれを引っ張り塔から引き離すというものだった。実際には引き離す事が出来なかったが、塔ごと燃やしてしまわない程度には外へ飛び出させる事が出来たので結果オーライ だ。自身を支える糸も力も無くなったドクグモンの司令塔は、もんどりうって地面に落ちていく。しかし――

「グルギャアアーー!!」

 突如黒い悪魔竜が飛来し、瀕死のドクグモンを掴んだ。そして、拡声器の様な物を用いてこう言った。

「総員に告ぐ! 本部からの指令だ! この作戦はデーモン様の命によるものではなく、部隊長ドクグモンの独断による軍規に背いたものだ! よって、総員直ちに帰還せよ! 尚、この作戦を指揮したドクグモンは、セラフィモンに選ばれし者によって殺害されたと報告せよ!」

「え? まだ僕達、こいつを倒してな……」

 次の瞬間、マチと陽は驚くべきものを見た。

「役立たずめ」

 悪魔竜、つまりデビドラモンはそう言って、瀕死のドクグモンをむしゃむしゃと食べ始めた。

「ひっ……!」

 毒をものともせずドクグモンを咀嚼しているデビドラモンは、陽とマチを一瞥すると虚空へ飛び去って行った。二人が呆然としているうちに、下では黒い絨毯の大移動が始まっていた。

「お、ちょ、待ちやがれ!」

 村正が引き留めようとしてもそれは止まらず、町を埋め尽くしていた黒い絨毯は、あっという間に綺麗さっぱり無くなっていた。



「何か、相手の自滅というか何と言うか、勝ったのかこれは……?」

愛一好は小首を傾げ、跳兎がそれを真似する。

「あいつらもやりたい放題じゃなく、規律を守っていたって事ですかね……?」

「いや、そりゃあそうしねえと組織として成り立たねえだろ」

 タツキと村正の会話が終わるとそれきり、誰も何も話さなくなり、彼らの間に重苦しい空気が流れ出す。

「……マチちゃん?」

 マチと陽は、二人だけで戦っていた時、そして上空で何があったのかを全て話した。

「それは……気分悪いな」

「ごめんなさい、私達が遅れを取ったばっかりに……」

 聖次とヴェロニカが二人を気遣う。陽はいえ、いいんです。と言って首を振った。

「ねえ、あのドクグモンたち、また来るのかな……?」

 クラリネが不安気に訊ねる。今回あの部隊は独断でここにやって来て、普通は「はじまりの町」を襲わないとしても、自分達がここにいる以上はまた魔王軍が襲って来るかもしれないし、逃がしたドクグモン達が別の場所を襲うかもしれない。

「そもそも何でドクグモン達は俺達がここにいる事を知ってたんだ……?」

 タツキが誰も気付かなかった謎に気付く。しかし、それに答えられる者は誰もいなかった。

「ええ〜い!! 考えても仕方がない!!!」

 突然、愛一好が大声を上げた。隣にいる跳兎は驚いて跳び跳ねていた。

「今あーだこーだ悩んでてもどうしようもない! それより、これで皆が成熟期になれるようになった! 1つ良いことがあった! 成長した! それで良いじゃん!?」

「この猫は元から成熟期だろ」

 村正が横槍を入れる。

「うるせっ! これで……」

「愛一好さん……!」

 年長者らしく皆を奮い立たせようとする愛一好に、皆が羨望の眼差しを送る。

「これで……あのドゥルなんとかモンに一泡吹かせられる!!」

「は?」

「さっすがメイちゃん! この流れでどうやったらそうなるのか分からない、好戦的な台詞だぜ!!」

 一気にしらけた空気と、跳兎の同調するように見せ掛けた毒舌なツッコミが場を支配する。

「よーし……このまま完全体になれるように特訓だ!!」

「無茶ですよ愛一好さん! 少なくとも今は無茶です!」

 暴走する愛一好を止めるべく、タツキが急いで走り出した。……そして、そんな様子を見ていた陽とマチは二人、お互いの顔を向き合った。

「…………ありがとう! 陽/マチ……!」

 二人の言葉が重なり合った。

「……うふふふふっ」

「…………あははっ!」

 二人の太陽の、暖かな笑顔が確かにそこにあった。



 ダークエリアの外れ、魔王さえも見向きもしない場所。そこにある小さな城に、その堕天使は座していた。身体に不釣り合いな大きな手をゆっくりと前方に持っていき、そして再び王座の肘掛けの上に置いた。

「天使も魔王も……そしてあちらも、動き出したか……」







次回予告!!
ジジモン「今回は儂が大活躍じゃ!」
タツ村聖「かっけ〜!!」
陽ヴェロ「流石はジジモン様!!」
愛兎クラリネ「素敵!結婚して!!」
???「ちょっと待てーい!!」
爺「もしやお主…強欲のバルバモン!」
強欲「トラウォ一有能な爺と言えば儂以外におらんわー!」
爺「『強欲』の名の通り、出番と人気まで欲するとは…ならば勝負じゃ。」
強欲「フン、望む所じゃ。」
メラメラッ!バチバチ!
摩莉「何か、本編ではまだなのに二つのチームを巻き込んだ戦い始まったんですけど。」
ドゥル「ジジイが…っ!ジジイが…っ!ジジイ同士で戦ってるっ!…ひひっ!腹痛い…!」
風峰次女(ドゥルさんは人間で言えば何歳なんだろう)
バアル「遂にこいつまでキャラが崩壊したのか…」
勇&シグ「他に誰かしたのかよ。」
バアル(てめえらだこのヤロ)
ダリア「ねえねえ!あの戦いに混ざってきても良い?」
羅々「貴女はご老人の戦いにちょっか い出さなくて良くってよ。」

風峰三女「ってなわけで次回のお話は!」
ぶるぁ「第9話ぁぁぁぁぁ!人間界ぃぃぃぃ、行こうぜええええええ!!!!」
風峰長女「次は私のターン、ドロー!」
フレイヤ「長い予告コントだね!」


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