屋上@



屋上へ通じる扉の向こうでは激しい喧騒が沸いていた。鬱屈とした思いを呑み込んで足を踏み入れると、予想通りの光景に溜息を吐く。
「イーグル…」
「真央じゃないか」
非行を良しとする生徒達と一戦交じえている恋人は、状況を鑑みることもせず此方に向けてゆったり手を振った。肌がぴりぴりとする緊張感の中に居るにも関らず、イーグルはあくまで朗らかな笑顔を浮べている。視線はまっすぐ真央へ向けられており、他は眼中にない様子だ。
その様子に隙ありと不良生徒の一人が殴りかかるが、しなやかな筋肉の纏う拳を即座に突き出されれば、ストレートに入った顎が天を向く。舞い上がった赤い飛沫に、生徒達の目が剣呑なものへ変り、一対大勢の乱闘は激しさを増した。雄臭さの強い咆哮が耳をつんざく。
渦中のイーグルはあくまで優雅に立ち回り、四方八方から襲い掛かる男たちを川の如く受け流している。だが急所を突いて意識を奪う事は忘れない。そのギャップに心奪われそうになり、かぶりを振って自身を取り戻す。
「今回は何がどうしてこうなった…!」
絹の黒髪をがしがしと掻き乱して酔狂な男に投げ掛けると、イーグルは呑気な心情を表すような動作で屋上の隅を指差した。落下防止に張り巡らされる柵の角には服装を乱され、がたがたと震える細身の生徒。
なるほど彼もまた閉鎖された男子校の性処理人形よろしく生贄となった哀れな男なのだろう。全く以って、同情に値する。
しかし、こういう荒事は此方に火の粉が降り懸らない限り風紀に任せれば良いのだ。何も火中の栗を拾って事を荒立てる必要などない。それも満面の笑みで。
こいつはいつもこれだ、と呆れる真央が通報するべく携帯端末に手を伸ばしたと同時に、最後の一人が倒れ伏す。タイミングの良すぎるそれに目を据わらせると、イーグルの口角がにやりと上がった。
この男は何故か自分が風紀に関るのを悉く忌避する。以前、木戸と雑談に花を咲かせていたところを見咎められ、それ相応のお仕置きを喰らったことがあった。
そう…お、おしおき…を…
「顔が赤いぞ、真央。風邪かい?」
顔を上げれば、いつの間にか近づいていたイーグルの顔が視界いっぱいに広がり真っ白になる視界。頬の火照りを隠したくとも至近距離で見つめられているので動きようが無い。
鼓動が速度を増して早鐘を打つ。開け放たれたシャツから覗く鎖骨に目を奪われた。目の前の男は涼しい面貌をしているが激しい運動後の余韻か、うっすら水玉が浮かんでいる。汗の匂いが鼻腔を掠めた。
みるみる内に赤みは全身へ染み渡り、いわゆる茹蛸状態に差しかかった頃、イーグルの背後にあるものがゆっくり動いた。
その手には鈍い光を放つバタフライナイフ。
今の今まで体を震わせていた被害者の生徒がイーグルの背中に向かって、それを振り下ろそうとしている。
その殺気立った眼光を見た瞬間、真央の体が本能的に動いた。
金色の瞳が開かれる。
「イーグルッ!」



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