本気になるだけ馬鹿を見る、とはまさにこのことだろう。

ギランの酒屋にて、女性達を相手に浮ついた言葉を並び立てて笑う男を眺めながら、ぼんやりとナマエはそう思った。

ギランには60ヶ国の美女がいるという、1日に1人訪ねても世界を巡るのに2ヶ月かかる、とか何とか言っていた気もする。あのギーヴとかいう男は1人の女を大事にするタイプには一生なれないんだろう。歳を重ねてからもああやって女達にいつまでも言い寄ってそうだし、歳を重ねてからも女たちは彼を放っていなさそうだ。

酒をあおり、もう1度ギーヴを見る。飲みに行かないかと誘ってきたのはあちらだというのに、帰ってやろうか。半分睨みながら見ていると、バチッと目が合って、ギーヴは女性達に何かを言うとこちらに近づいてきた。



「随分と御機嫌ななめだなあ、ナマエ殿」

「……私にはかまわなくていいから、さっさと世界の美女巡りでもなんでもしてきなよ」

「いやいや、ナマエ殿ほど美しい女を目の前にして、他の女の元へと行けようか」



どの口がいうか、と悪態をつきそうになるが堪える。どうせあそこでまだギーヴを見つめている女達にも似たような言葉を言っているのだろう。私はじとりと相変わらず可愛げも何もない表情でギーヴを見上げた。



「そう思うなら今後一切私以外の女に口聞かないでね」

「…おや、悋気ですかな」

「違うわ、あんたの言葉がどれだけ本当か試してみたくなって」



どうせあんたは他の女が悲しむのは見過ごせない、とかなんとか言い訳を並び立ててすぐにここから去ってしまうんでしょうけど。

ただ見た目がどこの男よりも優れているだけだ。ダリューン様も、ナルサス様も、ジャスワントも、もっといえばエラムも、恐れ多いことだが殿下もみんな綺麗な顔立ちはしている。それでもギーヴほど色気を纏い、女を惑わす表情を浮かべる男はどこにもいなかった。

確かに頭も切れるし腕も確かだが、こんな口にする言葉は全て薄くて軽い女好き男のどこがいいんだか、あの女達も、私も。

簡単にこの男にコロッと落ちてしまった自分が心底情けないと同時に、彼に想いを募らせれば募らせるほど、たった1人の相手など作ってくれないだろう彼への嫉妬に最近疲れていた。



「…ふむ、ナマエ殿がダリューン卿やナルサス卿と今後一切口を聞かないというのなら考えてやってもいいが」

「…………は」



呆けてしまった。口を半開きのまま彼を見れば、綺麗な笑顔を浮べているが、目は笑っていない。



「昨日ナルサスと2人で飲んでいたな。その前はダリューンと」

「ギーヴ、」

「俺は本命には嫉妬深いんだ、覚えておけ」



つん、と人差し指で額をつつかれて、反応出来ないでいるうちに彼は再び女達の待つ店の奥へと行ってしまった。

唖然とすることしかできない。

それって、つまり、そういうことなの??

ふふん、と憎たらしい笑みを浮べて流し目でこちらを見てきたギーヴに、私はボンッと一気に頬を赤くした。
160917
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