雲ひとつない晴れている空、太陽は眩しく光り地面を焦がして、空気はカラッとしてる。初夏だった。稽古がおわり森をぬけながらタオルで汗を拭く、結構喉が渇いたなぁ。ふーっ、なんてため息を零すと近づいて来た彼女がはい、っと水を手渡す。髪の毛は鮮やかな緑色、その髪は両端の上で二つに結ばれ、揺れている。幼い時よりも穏やかさを増している彼女は、もうすっかり成長していた。彼女の名前はハル。幼馴染というやつで、ハルも村を出てきたらしい。道中でバッタリ会ったのはびっくりしたけど。

「ありがとう」
「どういたしまして!それにしてもユメってば感心!お稽古なんてね、あんなに泣き虫だったくせに成長した」
「ちょっ、やめてって!」

成長していたのは僕も同じらしく、ハルは良かった、安心した。と僕に告げた。成り行きではあるが村を急に出て行くことになった僕を、内心酷く心配していたらしい。ハルとは兄弟みたいな感覚で、少しそれが嬉しかった。

「…ねぇ、でも本当に良かった?一緒に居ても」
「だから大丈夫だよ。2人も納得してくれたって言ってるだろ?クロは優しいし、ルネだって女の子がいた方が嬉しいんだから」

そう、何を隠そうハルは道に迷ってあの場所で立ち往生していたらしい。どこに行けばわからない、わかるのは街の名前だけだ、と。そう教えてくれたハルは一人、護身用のナイフを持っているだけだった。ただでさえ魔物が多い路中、戦闘経験がほとんどないくせに一人で旅に出て、あげく道に迷ったなんて僕はほっとけなかった。その街は僕達の目的地に近いところにあるので、かくして僕達は、ハルをそこまで送り届ける事にしたのだ。僕だけ行動を別にしても良かったんだけど、クロが旅は道ずれってね、これ僕のモットー。と笑って言ってくれたので、クロもルネも一緒にいる。

「ユメは大人になったね」
「同い年なのになに言ってるのさ」
「私は全然だよ、今だってこんな状況だし。ね、あの子達とは長いの?えっと…… 」
「クロとルネ?」
「そう」
「長いよ。」

僕が旅に出て最初にあった2人だから。今の僕が居るのは、まえより成長しているならそれは紛れもなく、クロとルネのおかげだよ。そう続けるとハルはあーっと声を出しながら背伸びをした。広い青空にハルは腕をうんと伸ばして、自由だ。

「ユメ幸せそう」
「そうかな?そりゃ…全体を見れば幸せだけど」「そうじゃなくて」

足元の夏草を蹴ってハルは僕を見た。そうじゃなくて、そう言ったハルは何だか真剣で、いつもみたいな軽口ではなかった。言葉の続きを待っていると遠くからルネが僕らを呼ぶ声が聞こえる。手短に言えば昼ごはんだから迎えに来た、と。ルネが駆け寄ってくるので僕はすっかり嬉しくなってしまって、ハルは言葉を飲み込んだままその場を後にした。






正直に言うと面白くない。別に道に迷っていた女性がユメの幼なじみだったからとかその子がユメにベタベタしているからとかそんな詰まらない話じゃない。ただ、準備をおこたって旅に出て、迷子になんかなって、ユメに会わなかったらどうするつもりだったのかと。その計画の無さに腹を立てているわけで。安全だから良かったものの手遅れになってたらどうするのかと説教したかったからであって。だから、これは、ヤキモチなんかでもない。なんでもないなんでもないなんでもない!!

「なのにどーしてこんなにイライラするのよ!!」

バンっと音が鳴るように机を叩き立ち上がった。わざとよ、そうよどうせあたしは物に当たるようなツマンナイ奴よ!目の前にいるクロックスは冷や汗を垂らしながらまぁまぁのポーズをとって動かない。あんたそれやってればいいと思ってんでしょ?

「イライラするのは、アレじゃない?ほら、それじゃない?」
「それってどれよ!アレってなによ!!」
なんでそばにいるの、なんで水なんか渡してるの、なんでユメは笑ってるのよ!なんでなんでなんでなんで!!!気持ちだけが先走って、整理できない。だからクロックス!
「答えなさいよ!!」
「そんな無茶な!」

もうっ!役立たず!!けどまぁ一通り吐き出したので、椅子に座ると、クロックスは胸を押さえ深呼吸していた。

「別にあの子と一緒に行動するのが嫌なわけじゃないわよ。村の外に出たのは初めてだってユメが言ってたし。わかるわよ、知り合いに会えた嬉しさだって。それにしてもね?ユメのやつデレデレしすぎでしょ?あたしといる時より楽しそうだもんねえ?」
「あれってデレデレしてるの…?大体ルネと反応が違うのは理由があって」
「理由ってなによ!!」
「……だから」
クロックスの口がごもる。ほら、答えられないんでしょ、変な慰めはやめてよ。わかってるわ、あたしは乱暴だし言葉だってキツイし何よりわがままで強情よ。

「ハルって子?可愛かったし、あんな子と小さい頃から過ごしてたんじゃそりゃ理想は高くなるわよね」
「ルネ、そんな事言わなくったっていいじゃないか。」
「えぇそうね、いいわよね。あんただってこんな面倒くさい女の愚痴なんか聞いてないで、清楚で大人しい子と一緒に居たいわよね」
「ルネ」
「なによ」

クロックスが私を咎めるように名前を呼ぶ。愚痴なんてほどほどにしろって?それとも本当にどっかいっちゃうのかな…。不安になって袖をぎゅっと握りしめた。クロックスの行動を伺っていると、クロックスが立ち上がる。

「泣きそうな顔してる」

息を呑んだ。クロックスがあまりにも真剣に見るものだから。クロックスの手が頬に触れる。あたしは泣きそうになんかなってない、なってないのに、クロックスそんな事いうから、的外れもいいとこなのにそんな事いうから。

「…自信ない」

俯いてしまった。クロックスに全部を見透かされているようで、怖い。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -