住居の手入れをしようと提案したのは意外にも彼女の方だった。
確かに黒薔薇達が騒がしくするので、掃除を疎かにしていたと思う。それに礼拝堂とは言え捨てられた場所、元々痛んでいた所もある。

「セフィリアはあの子達に構いすぎなのよ。此処は言わば私とセフィリアの愛の巣!勝手に汚されちゃうしいい迷惑だわ!」

愛の巣…。

確かに、レルクと過ごすのは此処が最初で最期になるかもしれない。それは永遠に夢の中にいると言うこと。この礼拝堂を大切にする事は、彼女を大切にする事なのかしら。

「そうね、そうしましょう」
「ふふ、ありがとうセフィリア。私一生懸命やるわ! あんた達もやるのよ?!」
「「えーっ?!」」

影に隠れていたであろう使い魔達は悲鳴にも似た声をあげた。



わたしは礼拝室の奥にある物置を見ることにした。古びた机と椅子が並び、本棚とアンティークが並べられた部屋へ足を運ぶ。

右側に窓があるので部屋を見渡すには充分だった。月明かりが腐敗した窓を抜け光を零す。昼の明かりよりも美しい光は、愛しいあの子を思い出させる。暗い夜を照らしてくれる。あの子は月光。時には雨月。変わりゆく季節のように激しい子。彼女となら、千の夜も楽しく過ごせそうね。

そんな事を想いながら窓に手をかけると、ふわっとホコリが舞い散る。ここは掃除しなきゃ。
窓も少し補強した方が良さそうね。ついでにカーテンを……でも、そうしたら月が見えなくなっちゃうわ。カーテンを付けるのはやめとこう。

周りを見渡すと、所々ガタがきているようにみえる。気になる所全てを片付けるとなると骨が折れそうだ。想像だけで疲れてしまう。
気を抜こうと空を覗けば星が瞬いている。いつもならレルクがセフィリアの方が儚げで美しいわ、なんて呟いてくれるのに。


…レルクは今どうしているのかしら。
そういえばレルクは黒薔薇に対してとてもやきもちやきだった。自分もかまって欲しい、そばに来てほしい、と。
少しわからなかった。彼女たちも大切だけれど、レルクは特別だから。レルク以上に愛しているものなんてこの世のどこを探したってないというのに。言葉にしても、行動にしても足りないのかと思ったけれど今わかったような気がする。

寂しい。

レルクが隣に居ないのが。

静寂が支配するこの空間は、私が今感じている日常とはあまりにもかけ離れすぎていた。
襲いくる孤独、あってほしいものが欠けている、満たされていない気持ち。この隙間を埋めてくれる人を私は知っている。

あぁ、レルク。貴女だけなのね。

そう思ったら行かずにはいられないわ。


「レルク!」

彼女がいるであろう玄関へのドアを開ける。
ほうきをもってほこりを弾く彼女は驚いたのか口をあんぐりとあけた。
「セフィリアっ!?」
「大好きよ」

飛びかかるように彼女に抱きつく。
重みに耐えきれず、床に身体をつけてしまうレルクをよそに、きつく抱きしめる。
身体の熱が上がるのが分かった。それどころか何なんだろう。先程感じていた孤独が無かったのように心が満たされる。じんわりと感じるレルクの体温にまるで心が温められているようだ。
そう思っていると戸惑いながらレルクの腕がわたしの身体を包み込む。

「セ、セフィリアどうしたの?嬉しいけれど、唐突よ…」
「レルク、私、今とても幸せよ」
「わ、わたしだって!貴女といるのが最高の至福よ」

腕をほどき、顔を見つめ合う。
レルクの瞳がキラキラと光って、綺麗。貴女が月なら、瞳は星で出来ているのね。

「セフィリアお掃除はどうしたの?」
「お掃除も大事だけどレルクのそばにいる方がもっと大事だわ」
「甘えんぼ」

くすりと微笑むともう少しで終わりそうだからと、肩をすくめる。
「ひと段落したらお茶にしましょう」
「えぇ約束よ」

楽しい時間はあっというまに過ぎてしまうもので、長い夜は終わりを告げる。
愛の食事を終えた後、レルクはそのままベットへ倒れ込む。

今日は、気分がいいわ。
香薬を焚こうかしら。彼女が休まる香りがいい。
「アロマを焚こうと思うのだけれどレルクは何が好き?」
「セフィリアの香り」

レルクに手を引かれ私もベットへ包み込まれる。レルクの香りが身体いっぱいに流れて、思わず顔を埋める。

「わたし達ずっと一緒よ」
「勿論よレルク。どんな事があったって、私は貴女を手放したりしないわ」
「私が私じゃなくなっても、また一緒になって」

勿論。という言葉が喉をつっかえる。
本当に、転生しても巡り合える?魂が消滅しても、尚一緒にいることはできる?
もし出来たとして、彼女はまたわたしを愛してくれる?
答えは分からなかった。愛しい貴女、今はそうかもしれないけれど、記憶や存在がなくなってしまったら、貴女も私を憎むのかしら。


「また会えたらその時ちゃんと言うわ」

声が震える。唇の端を強く噛んだ。眠りまなこのレルクはくすくすと笑う。

「意気地なし。かわいいひとなんだから」

彼女の腕に抱かれて、そっと瞳を閉じた。



===あとがき===

という事でTwitterで企画しました、「お互いのCP交換して小説書こうぜください」でした。
黄昏様の子セフィリアちゃん×レルクちゃんの小説でしたが如何でしたでしょうか?
本家のお二人は色気のある絡みでちょっとドキドキしてしまいますが、ちょっと弱い所を見せつつ相思相愛なお二人を書かせて頂きました。
解釈違いがめっちゃ怖いですが、両思いでラブラブな2人をえがけて良かったなと思います。
ありがとうございました!

prev|next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -