200文字SS
赤葦『朝』
「んっ、」とくぐもった声が聞こえてゆっくりと瞼を開ければ、向かい合って寝ていた彼女が背中を向けてしまった。高校時代、部活中に着ていた俺の黒色のTシャツを寝間着にしているおかげで、ダボダボとした首周りから綺麗な項が見えてしまうのは目に毒である。
カーテンの隙間から差し込む陽光や、朝から元気に燥ぐ小学生の声や、小鳥の囀りなんかよりも神秘的に見える情景に気持ちが昂り、誤魔化すように項に噛みついた。
「けい……じ……?」
 寝惚け目をぱちぱちと蝶の羽のように羽ばたかせてこちらを見据える瞳に、もう一度キスを落とす。




孤爪『朝』
 炬燵で寝てしまったせいか体は痛いしなんだか寒い。手元には充電の切れてしまったゲーム機が転がっており、そこでやっと目が覚めた。急いで昨日の記憶を辿ってセーブ不要のブロックをパズルのように嵌めて消すゲームをしていたことを思い出しては、安堵の息を漏らす。
「研磨くん、おはよ」
 すると、くすくすと控えめな笑声が耳を掠って顔を上げればエプロンした彼女がキッチンからおれを見詰めていた。なんだか恥ずかしくて炬燵の布団を引っ張って顔を隠した。






木兎『朝』
 大抵俺よりも彼女の方が起きるのが早い。俺が目を覚ました時には、キッチンからトントンとまな板の音が響いているし、良い匂いも漂ってくる。その香りが俺は大好きだ。そのままジッと待っていれば、彼女が起こしに来る。近づいてきた彼女を布団の中に引きずり込むのが俺の朝のルーティンである。(ちなみにルーティンって言葉はあかーしから教えて貰った単語! 使い方はよくわかんねぇ!)
「もう!! 光太郎!!」
 と頬を膨らませてぷんすかする彼女が可愛いので、後頭部を抱き寄せてぎゅうっと胸にしまって幸せを噛み締める。





黒尾『朝』
 緊張してなかなか寝付けなかった身体は僅かな怠さを含んでいるものの、やはり気持ちは軽やかである。
祝福するような煌々とした陽光がカーテンの隙間から差し込んでいて、思わず口許を緩めてしまった。昨晩、
「今日こそは頭を挟んで寝ない!」
と息込んでいた、隣で寝ているであろう鉄朗に視線を移せば、私が好きになった顔はやはり枕の間に挟まっている。結果、あの寝癖で結婚式を迎えてしまうことになったわけだけれど、あの寝癖を含めて私は好きになったのだ。
 なので私は、起きて早々落胆するであろう鉄朗にかける言葉を思案することにする。