深淵 | ナノ


上京中の出来事を帰宅直後一刻も早く親に知らせたい子供の心境、そんな高陽感。そしてそれを邪魔された事への怒り。

あと。それらでのちょっとした、気の緩み。



9.母娘と、



アリエッタをイオンと私で一人前にしちゃおうぜ!作戦は(不本意でありながらも)順調で、奔走し始めてから結構な歳月…と言っても数ヶ月なのであくまで地球脳な私から見てであり、この世界の人にとっては然程でもないのだろうが――流れていた。

私も魔物と会話可能と知ってるのは現在イオンとアリエッタは勿論、アッシュをイオンに紹介してからは四人揃って食事する事も増えて行動を共にする機会も多くなっていたので、彼にも話してある。
皆、口は固いから他に知ってる人は多分いない。ハズ。…アリエッタのお友達であるライガやフレスベルグと戯れる事もしばしばあったから何とも言えないが。壁に耳あり、障子に目あり然り(後者はこのオールドラントじゃとんと、終ぞ見かける筈もないがな)。

アリエッタが呼び捨てになっている点は、「ナマエママはアリエッタのもう一人のママだから、アリエッタの事は呼び捨てで呼んでほしい…です」とお願いされ今に至ってたりする。
彼女は魔物に育てられた、つまり親代わりであるライガでクイーンなママがいる訳で――因みに私も対面した事があるけど概ね仲は悪くはないむしろ良好。やっぱ意思疏通って大事だわな――紛らわしいからと、そして第二の母認定として“ナマエママ”呼びっていうね。

や、しかしだな…実は、ですわよ?んもォーちょっと奥さん聞いて下さいますー?
ウチの娘普段もさる事ながらそんな風にお願いしてくる時なんて特にモジモジして超可愛くてだね…!ってアレ、親バカ?しかもアレレ、私こんなキャラだった?…のは否定できんがしかし、原作的人物(しかも敵側)だとかは?
…彼女に休日にでも着せちゃおっかな。私の、どこのお姫様ですかみたいなお下がり(母からの仕送りさ…フッ。因みに新品同様なのは推して知るべし=ヒントは暇と羞恥さ!)抱えて萌的欲望と現実的絶望にくるくる回りながら項垂れるしかない。そして視界の端でイオンが「大丈夫かコイツ…まあ今に始まったコトでもないか」ってカンジの視線をぶつけてくる。しかも器用だね、と微妙に嬉しくない感想付き。
だがしかしそんなイオンも彼女をひたすらキャワユく仕立てあげちゃうのに異は唱えないという、むしろもっとやれ状態だったりするという。…もしかしなくともイオン何か私に感化されちゃってる?原作本来の性格は知らんと言うか覚えてないがまさかの中身改変という名の改悪だ、と…やばくね?…いやいやここはよしもっと染まろう(染めよう)かぐへへ。あと仕上げにこの猫耳とかどうかな桃毛仕立てなんだけども…あ、コレはダメなのね?残念だにゃーしかもおめーキモスな視線胃が痛いにゃー。でもチラチラ興味隠しきれてないその視線もどうかと思うにゃー。

…とりあえず、未だに部屋は私と同室だ。でも正直、上記の通りと言うのはアレだけど何かイオンとアリエッタが最近いいカンジなので、そろそろ彼女も一人部屋にしてもいい気がするんだが(イオンの力=権力とかで)、アリエッタ曰く「ナマエママと離れたくない…です」らしいので当分はこの調子でいくと思う。そして動く通り越して蠢く私の食指+普段なら音素無双にて止める御仁もまさかのノリノリ状態。しかも一番重要なのが、アリエッタが嫌がらないという点むしろ喜んで着てくれてるという点。
加えてそんな非常事態(笑…えなくね?)の原因とも言うべきか、物事を教えたり稽古を付ける度彼女の私への懐き度はじわじわ上昇していたようで、今は当初からしてみればかなり大人しいというか落ち着きのある子に成長したんだけど(食事とか…)、ぶっちゃけ最初の慣れてきた頃はそりゃあもう、

“アリエッタ、ナゼ私(とイオン)から、離れない”

だった。
どっかで聞いたような句だって?うん私もそう思ったもんよアハハ、ハ…。ハァ…。

…ってな事で、めでたく(ん?)私のコは二人になったのである。
あんれー平穏とか私の辞書の第一項目だったハズなんだけど。ハァ…。


***


それはさておき、ある日の昼食時の事。
アッシュから、キムラスカへラスボスまたの名をヒゲな(立派になってたし…あとマユゲでも可)ヤツと、そこの首都であるバチカルへと向かい王女様――つまり『ナタリア』を、休日を使って一目見に行くという話を自室にてスプーン片手に聞いていた。そして内心少なからず動揺した私は力んだせいで、手にしていたスプーンの柄を微妙にひしゃげさせてしまっていた。…一応、彼には気付かれずにだったが。金属だったからこそそれで済んだけど、木製や瀬戸物だったら折れるか最悪粉砕されていたに違いない。
因みに、この時はイオンは会議でアリエッタもお友達に会いに行っており、アッシュとは一対一だった。

唐突だけど、実のところこの神託の盾騎士団生活約10年間、ぶっちゃけ休みはお世辞にも多いとは言えなかったけどそれでもそれを取れた日は、なるべくダアトにある私のこの世界での実家、つまり母の許に帰っては土産話をしていた。
その私の母とはキムラスカ出身並びに元王妃の女官にして名をシルヴィア、要するに言わずと知れた…とまでは言わないがまあプレイしたお方ならわかると思うがナタリア――メリルの実母だったりする。そしてそんな私の肩書きは双子の妹。無論メリル姉さんの。

母はメリル姉さん――ナタリアの事は諦めはついていると口では言ってるんだけど、そう言葉にする事により自分に言い聞かせてるだけで、実際まだ心の奥底では結構認めきれていないんだと思う。
…と言うのも、私に仕送り(と趣味?)としてよく洋服(フリフリ特に総レース系が多くてだね…趣味決定?ハハハ…だっよねー)を贈ってきてくれるんだけど(それ以外は教団の設備で間に合うので大丈夫と伝えてある、故におシャレ関連がメインになってしまう)、大体二着ずつ色違いで購入していたのだ。勿論いつもではないんだけど、むしろ色違いの服を狙って選んでる気がしないでもなく。白と黒、ピンクと水色ーとかだったし。

そして、私とお揃いの服が母の部屋のクローゼットに保管されてるのを運悪く発見して彼女を問い詰めたのが最初…とかではなく、きちんと母の方から実はね、と悲痛な心境を語ってくれたのだ。

――ごめんなさいね、ナマエ。あなたには未練がましく見えてしまうでしょうし申し訳ないとわかってるのだけど、ナマエが元気に逞しく(!)育ってくれるのを実感する度、本当ならもう一人私には同じように…愛せた筈の可愛い娘がいたのだと思うと、どうしても忘れられなくて。つい、お揃いの服とか着せてあげたかった等と思ってしまうの。
あ、勿論ナマエが毎月稼いでくれてる仕送りはそれらには充ててないから、そこは安心してね――。

…と、涙ぐみながら訴えられてしまったのである。可哀想だった。冗談や――ナタリア=原作から来るしがらみ云々を抜きにして。
私はそれらの言葉に対しまず、いや私の稼ぎだとかそこは気にしないよと苦し紛れに返しただけで、そして気持ちはわかるからお母さんの好きにしていいと思うよ、あと私の貯金あんま使いどころ(と暇が)ないからお母さんの自由で使ってとも伝え、他にあまり気の利いた事も言えずこの話は幕を閉じたのである。
…それ以上の事をまして責めるような台詞なんて私には、弱った心を隠し持ってそれを恐らくこの先も踏ん切りがつかない限り抱き続けるであろう母に、言える訳がなかった。

しかし、その話がどうアッシュのそれと繋がるかといえば、つまりはこうである。

私はつい、母の心境を想ってしまい、バチカルの話をしてくれたアッシュにペラペラベラベラとビバ!王女殿下!状態さながらに捲し立ててしまった。
…そう、もし、もしも一目でも見れたら母もさぞ喜ぶだろうと、そしてそれを私がする事によって土産話的に元気そうだったと伝える事ができたなら、とふと考えてしまったからである。…あくまでそう思っただけで他意はなく、アッシュに私もあわよくば行ければと匂わせたつもりはなかったのだが。
しかしながらそうして、アッシュがどう感じたかは謎なんだけど、私も連れていってくれる約束になったのだ。…いや多分、ナタリアファンとか認識されたんだと思う。
まあ、何というか…複雑の一言だった。

その上気を利かせてくれた彼には非常に申し訳なかったのだが、母は純粋な未練で私にも全くそう言った気持ちがないと言えば嘘になるのだけど、原作知識故にやっぱり正直なところ関わりたくはないのだ(=主要人物コワイ。ん?イオン?六神将?ね、どうしたもんかね…)。これに尽きた。
そして折角の好意に対し不審がられないよう演技の混じった喜ぶフリをしてしまったワケだけど、原作での怒りっぽいイメージだとか関係なく何だかんだで優しい彼を騙すような結果には違いなかったから、この時は本当にもうこんな真似一生御免だと泣きたくなった。
母のために、という意味では真に喜べたからこそそんな私の水面下の底意がバレはしなかったのだと自分で自分を推測できてしまうからこそ、余計に私の保身第一の性分が汚く思えてならなかった。
…考えナシにはしゃいだ私が悪いとしか言い様がなかったのだけども。

アッシュにしか私の変貌っぷりを見られなくて済んだのは、一応の幸いだったのかもしれなかった。――そのふっと頭を掠めた考えすらも、私の性根が澱みきってる証だろう。
それこそ今更、としか言い様もないのだが。




そうして約束の日、アッシュの心境とかつい朧気ながらも原作の記憶もあってナタリア姫とルーク――アッシュのレプリカを見ながらまーたペラペラベラベラやらかし(アッシュがガン見してきたから誤魔化したけど)、母のそれもぐるぐる考えながらだったから私は私で終いには思わず半ベソかいたりしつつも、その出来事は概ね無事に終了したのだった。

因みにアッシュとのちの主人公である“ルーク”が、見た目や声が似ているのは知識的にわかりきってるし似てないとは言わないんだけど、私からすればやっぱりというか――別人だった。


(1/2)
[back] [top]
- 19/122 -
×