今鳴いた烏が笑える程、その感情は軽くない。 たった一枚が、本人にとってはその価値に釣り合わない程重い。 気持ちは重さではないから渡したお詫びはたまたま軽かったけれども、やはりお詫びにしては気持ちは軽い。 26.まだら模様のお友達、いちご模様のバスケット おいテメェシルフ、呪うぞゴルァ。こちとら呪術も極め(ざるを得なかっ)たんだぞなめんなよ。その前の不注意?勿論棚に上げちゃうのさ。 居たら逆に呪われるだろうがな。 「あのっ!ビーフシチューなんてたっかいのにしてもらっちゃって、ありがとうございました!」 「あっお礼!」という声に続いて背後から届けられたそれは言葉としては認識出来ても正直落ち着いて聞く余裕ないそして返事したくないそんな場合じゃないんだよね私!ゴメン!…ってあれ私割と最近似たようなコトなかったっけ…。 アリエッタをたずねて三千里。 どうやら彼女曰くその道中にて正面衝突したお嬢さんは『アニス』ちゃんと仰るそうなのだが、その名前が大昔(忘れ気味)のは勿論最近のフローリアン事情(名付けほにゃらら)なんてのもあって私の記憶あと良心にまで大いに揺さぶりをかけるもんだからおかげで中々振り向けない。オー、ワターシ氷属性ナノデ冷ヤ氷背中ポロポロデース。 …ていうか気づけよ自分。あのコ首の後ろになんかぶらさがってたじゃんええと何だっけアレ、確か名前あったよね?んー…、と、とく…トクダイ?え、違う? 「ナマエママ!アニスなんかと仲良くしないで!」 そして私の横っ腹にぎゅぎゅぎゅっとしがみついて珍しく噛みついてくるアリエッタに私は目が点だ。というかなんかて。 イオンがどったらー、とかも言ってたし…ホント一体マジ何事ね? 空腹以外の要因により胃がぐるぐるしてくる中、聞こえてないならいざ知らずあんな元気に言われて気づかないフリは使えないテなので本当にケツ向けっぱなワケにもいかずやや上体を後ろに捻って軽く会釈しつつ弁明を試みてみよう口振りからして最後しか見てなかったっぽいし。 アリエッタが私の所作に合わせてずりずり引きずられてんのはご愛敬。 何ていうか、何やら勘違い、というか曲解?されている。私そのコとはまだ会ったばかりだよしかも一期一会にする気満々だよ。 「あ、あー…いえ、むしろカレー売り切れてたから逆に申し訳ないです。…というかそんな、たかだか数百ガルドの違いですからそんな気にしないで下さ…」 「はぅあ!?ナマエ謡手ってばそんな考え駄目ですよぅ!一ガルドを笑う者は一ガルドに泣くんですよ!?」 なんか微説教されてしまった…そういやアニスってば守銭奴キャラだったな。そしてゲームでもちっさい割に別にがめつい云々抜きにしたってしっかりした子だなーとか私かつて思ってた気がするがその片鱗がもう既に見え始めている、だと?神託の盾にいるとこうも子供らしくなくなるのか…ってコレ前にも私どっかで思ったぞ。 アリエッタがナマエママと呼んだ事でか確証を得たようで名前+神託の盾階級で呼ばれる。ていうか、おお、おおお…!最初は独り言で数に入れないからたとえ関わりたくないとはいえ(アッシュは確かすんげー操作時間短かった&少なかった気がするので抜きで数えるとして)パーティメンバーに呼ばれんのは初だからちょい感動。 勿論そんな場合じゃないけども。 「あと私、ぶっちゃけビーフシチュー好きなんでむしろ嬉しーでー…」 「っナマエママ!!アニスなんて放っておいて早くあっち、席取れたから行く!です!」 「うわわアリエッタ、あんまぐいぐいされるとマーボカレーが…」 横っ腹から離れたアリエッタの華奢な身体のどこからそんな力が!?とツッコみたい両手に背中を押される。 「ちょっと根暗ッタ!言葉遮んないでよ!」 「アリエッタ根暗じゃないモン!」 …修羅場? 「お、なんだなんだ?」 「ケンカなら譜術は使うんじゃないぞー」 「おいおいいくら小さくたって俺等とおんなじ神託の盾だぜ?修練場ならともかくんなアホやらかすかよおめぇじゃあるまいし」 「んだとコラ!」 「ギャハハハ、違いねェな!」 「お前ら…囃すくらいなら止めろよ…」 つか、あんま気にしてなかったんだけど人の多さはここは並じゃないため人と人がぶつかった程度じゃ「あーまたか」くらいで皆気にも止めないんだよね実は。けどもこう言い争いが発展してくると流石に人目を引く。めっちゃ野次馬的視線集まってきてる。おっちゃんオニーサンら見物神託の盾ABCDE(多すぎ)の既に一杯引っかけちゃってるとしか思えない(俺は違うぞ!とか聞こえた)常識外れにも程がある冗談ソレ笑えないからねンな大惨事(という名の戦場)になろうもんなら確実におばちゃん達のお玉が火を噴く。まさに武器。まあホントに武器にすんなら包丁が飛び出しかねないワケですが。 …これは(かなりの)年長者である私が止める…べき?ですよねー。 そして冗談の基準というか注意の仕方が神託の盾式という点。や、アビス式か? 「まあまあ二人とも落ち着いて。えっと…アニス、さん?喜んでもらえたなら何よりです。じゃあアリエッタ、行こうか。席はどこ?」 またねは言わん。まあ神託の盾騎士団約三万人、そう簡単に会う事もないと思うが。あー…いや、イオン関係でどうなるんだろか。 …まさかね。 というか二人ともこんな小さい内から既に仲悪いのか。 いやまあ、アリエッタは見た目が幼女なだけで一応もう13になるんだけども。 余談だが、かつてアリエッタをちゃん付けしてたのは出会った当初神託の盾かわからなかったのとその後アリエッタに呼び捨てにしてほしいと請われるまでだってあまりにも距離が近かったから。しかし一応彼女は制服で判明してるし仕事仲間なので子供扱いもどうかと思うのでさん付けで呼ばせて頂いた。 ホントは苗字+階級で呼べれば一番良いんだけど階級なんて知らないっつか覚えてないし(とゆか現時点じゃ原作時点での位階ですらない可能性大)苗字に至っては訊かないまま『タトリン』さん呼ばわりしたら…あ、誰か胃薬プリーズ。 こうして私は、言い置きながら些か強引に二人を引き離してアリエッタの案内の許夕食の席を目指したのだった。 アリエッタの言い草やアニスの根暗発言を注意しない私年長者として(しかもアリエッタに至っては仮にも第二の母代わり)どうなのって話なのだが、私が一刻も早くこの場を辞したかったというコトは、まァ言うまでもないだろう。 *** 確かに往診はフローリアンと出会ったあの日以来欠かしてはいない。 けれども、漠然とでも、時が近づいていると焦らずにはいられなかった。 しかしアリエッタの言い分を聞いてるようで目線を別の、恐らく全く話に関係のない一点に集中させる私は余程彼女に失礼だ。 席は四つ確保されていた。人以外、一つは私の荷物置き場にどうぞとアリエッタが気を利かせてくれたため。もう一つはアリエッタの動かないお友達つまりいつも両腕に抱えてるぬいぐるみのため。 そして私的にはそこに仲良く座らされたそのコ“達”が気になって仕方がなかった。まあ背が低すぎてテーブルから顔は出てないから下から覗きこまん限り視界にはイマイチ入んないのだが。 しかし今は全員アリエッタの腕の中にいるからチラチラ視界に入るという。 因みにアリエッタは豪華にもステーキだった。しかも野生の性が抜けきらないためか焼き加減レア。もっと因みに言えば焼き肉やすき焼き食べに行くとちょっと目を離すと生焼け生煮えむしろ生のままお肉をかっさらおうとするっていう。 そうしてそのアリエッタが案内してくれた席に差し向かいで座りつつ、食堂が開いている時間というのは限りがあるためあんまだらだらしてる訳にもいかないという事で行儀もクソもなく食事とアリエッタの訴えを聞くというのを同時進行させ只今食べ終え聞き終えたトコなのだ、が。 「……成る程。イオンが私…達、に会ってくれないのに出歩いてて、」 ギャ!私は密会してるもんだからヘンな間が空いたまずい。…アリエッタ相手だから何にもならなんだが。 素直な子。私の挙動不審をつつく程疑い深い子ではない。 私の独り言のような確認にアリエッタは「…はい、です」と頷いただけだった。 「しかも話しかけたら公の場でもないのに敬語で返された、と――そして何より別の女のコ…恐らくの導師守護役候補と一緒だった」 「…」 俯いて腕の中のぬいぐるみに顔をうずめるアリエッタ。さっきから私が気になっているそれらは今日ずっとそんな調子だったんだろう。沢山の痕跡が残ってしまっている。 私は別。私達、私とイオンは家族に近い関係なだけ、アリエッタも意識すらした事はないだろう。 そう、イオンは公式でもない限りアリエッタとは、私を除いた導師守護役の中でアリエッタとだけは本来の口調で話す。 そしてアリエッタはそれを自慢に思っていたようなのだ――自分はイオンにとって特別なのだと。そこまで明白な言葉として考えてはいなかったかもしれないけれども、薄々は感じ取っていた筈だ。だからこそのイオンのタメ口だったのだから。 それで妙に他人行儀という壁作られたどころか自分には会ってくれないのに別のコといるわ、落ち込んで食堂に来てみりゃ目に飛び込んできた光景はその昼間見たという別のコとは違うもののアニスというよりによってこれまた導師守護役を目指してる娘と私が一緒にいるわ、というモノ。 私もイオンのように離れていってしまうと、そう見えたのだそうだ。デジャヴってやつだろう。 しかしこれに関しては私徹頭徹尾アニスとは初対面であるため単にちょいと事故ってそのせいで駄目になったアニスの食券弁償してだけですからァ!としっかり誤解は解いたけれども。 …つか、今思うと彼女がちょいただならぬオーラを放ってきたのは、食べもんの恨みというよりそれにかかったガルドへの恨みだったんだろうな…道理で…。 |