後任のシンク、だった。 (これでまた一歩原作に、) ただ殺人者、という概念はそもそもここが神託の盾もといオールドラントという時点で終わってるからそこらへんは問題はないのだろう。私怨だったら一応あるけども。でも、たとえそうであったにしても、きっといや十中八九そのへんはもみ消すのだろう。誰がとは言わん。 だから現に、事実ではあるから呼び方はアレでも他師団である彼等もすんなり受け入れてしまっている。 とはいえ、地球人として人一人殺しておいて…って、理解はしたくはないけれども。遠い昔に慣らされてるとはいえ普通という感覚はいつまでも失いたくないな。 失くしたら終わる気がする。 ただ、彼等も言ってるように、流石に第五師団の人達は受け入れるのに時間はかかるだろう。あの人は譜術マニアではあったけれども、それを抜きにすれば実は上に立つ者として厳格なところもあったし何よりきちんと部下思いな人だった。言っちゃ何だがウチの人(※ディスト)よりよっぽど。ごめんウチの人。でも確か、彼はあくまで自分の悲願のために神託の盾を利用している節があるからね…(原作参照)。今のところ私は一応無害ともしくはその価値すらないと判断されてるのかそのような振る舞いは適用されてないのが救いだ。それにすら私が気づいてないって可能性は置いておきたい。 それは、ってかそれも置いといてそんな事より新師団長の話。 ならば実力の面はどうなんだという話だが、総長曰くそれも師団長を殺せたくらいなのだからもういいだろう、との事らしい。もう、ってのはそろそろいいだろうって事なんだろう。まあそのへんのあれこれを知るのは(こうして)一部の人間だけなワケだが。いやあれこれって、生まれてウンヶ月でしかないとかうんたらかんたら。 因みに図らずも神託の盾の内情を知ってしまった人間として一応そこの名誉として記しておくが、新しく師団長になるためには前任を倒さなければならないなんて因習は勿論ない。というか、私怨はこの世界でも一応御法度なわけだから、意図的な殺人はあってはならんだろう。表向きだけどな。(ホラ預言とか預言とか秘預言とか)。 そして余談だが、重要とまではゆかずともシンクを図らずも(二回目)多少なりとも知っちゃってる人物として、プチ参考人としてイオン様の所に出頭よろしく呼び出しをくらってしまったりもしたけれども。 (因みに命じたのはモースで取り調べしてきたのはその部下さんだった)(あからさますぎんだろ何で場所提供のイオン様差し置いてるし)。 まあそれに(事件)関しては知らぬ存ぜぬを貫き通したけれど。 だってほんとに何も知らなかったしなあ。 「けどさ、ほんとに私怨じゃないのかねえ?」 「ちょっ…滅多な事言わないでよ」 因みに彼等とは数十メートルは隔てている。具体的にどのくらいかってーと修練場で言うと一階と二階くら…それ縦やん。 …でなくて、教会で言うなら入り口から礼拝堂前くらい。つまり片方の人はああ言ってはいるが別に私の方をチラチラ見る二人ではない。 でも聞こえちゃうっていう。 周りに聞こえてやしないか焦るB(今命名)(勿論もう片方はAである)は、しかしAがそう言った根拠は気にはなるらしく、更に声を潜めるようにして言った。 「…でも、何でそう思うの?」 「いや、何やらモメてたらしくてな。俺の友人が第五師団だというのは前言ったと思うが、そいつ曰く、ヴァン総長はそろそろ交替させたかったらしいが師団長が中々縦に首を振らなかったとかでな。その上、実力はあってもシンク奏長が新人な事に変わりはないだろう?だから」 ああ、そういえば師団長、私が訊いた時顔をしかめていなかったか。そうか、ラスボスに再三交代するよう言われていたからだったのか。あるいは、シンクと何か、例えば言い争いとかあった後だったのかも。 もうそれを確かめる術はないけれど。…当事者達に訊く以外には。 私が突撃するわけもないから実質迷宮入りである。 そういえば、お母さんがこの事を知ったら悲しむんだろうな。お母さんは師団長と少なからず面識があったのだから。 私的には大分昔になるけど(何度も言うがここは時の全てが2倍だ)、私の小さい頃うちまで来たわけだし。 「まあ、第五師団師団長といえば譜術研究に命かけてる事で有名だったもんね。そう簡単には手離したくないよね。六神将だけが使える研究施設や閲覧可能な資料も、俺達の想像もつかない程あるんだろうし」 Bが言った。 「そうそう、未だに『情熱衰えぬ!』だもんな。六神将になってそれなり長いだろうに。昔なんて、初めて見たっていう少女譜術士の見知らぬ譜術で簡単には言やあやる気…つまりは情熱が再燃したとかでな、『まだまだこの世には自分の知らない譜術が溢れてる!』とか叫んでるの見て俺も笑っちまったし」 は? 「知ってる知ってる、俺もそれ聞いた時は思わず噴き出したっけ、懐かしいな…。で、それがさ、ちょうど…ああ、いたいた。あそこにいるナマエ謡手の事でさ」 言いながらこっちを示してきてるっぽいB君。つられて見てるっぽいAさん(B君に比べ30近くと実はけっこう歳上なのでとりあえずさん付け)。ぽいぽい言ってるのはここで視線を合わせたらまずいのと、しかし無駄に良い五感が視線を向けられてるのを感じるから。無意味に飲んでたライフボトル(…の中身は光の速さで潰えたので今は泉の水100ガルド払って突っ込んでみた)を私も噴き出しかけた。噴き出すの意味違うけど。 そしてどうでもいい違いだが、一応冷取り+体力回復は兼ねてる。ぬるいけども。さっき買ったばっかなのにね砂漠マジバルス。 じゃなくて。 今A&Bはなんつった? 必死に気づいてないフリをしながら聞き耳を立てる。うっかり気を抜くと耳だけ元の耳に戻りそうだ。シャキーン。 「そんなナマエ謡手がウチに入ってきたんだから…何ていうか、世界って狭いよね。まあ世界と言っても神託の盾内だけど」 「そういえばなんだかんだでそこから辞表取り消しての六神将まで昇りつめたってコト、本人は知ってるのか?」 「え、どうだろうね。ちょうどいいじゃん、ナマエ謡手に直接訊いてきてよ」 「俺かよ!?」 ブツブツ言いながらAさんがこちらに来て今私が聞いてたまんまの質問をしてくるのに適当に返事をしつつ、私は一つの可能性に行き当たった事を悟り暑さとは別の汗が背中を流れるのを感じていた。 かなり、まずい事を私はしていたのではないかと思う。 師団長とこれといった接触が今までなかったせいで気づかなかったけれども。 師団長は、権力に固執するタイプでないのはわかる。てか興味ないだろう。彼はただ譜術が好きで、それの研究に生きてただけなのだから。同じく過去ゲームや漫画に人生費やしてた私だからわかる。彼とは同じニオイを感じる。繰り返すようだが、現代で言うならいわゆるマニア、オタクタイプだ。 そして、そんな彼の性格的にその立場や権力を惜しむとすれば、それは偏に研究がしづらくなる事に於いてでしかないだろう。 ……そして、そんな彼はある時限界を感じていた。 けれど……それを偶然あの10年以上前、私を見てしまった事により譜術の可能性を再確認した。自分で言うのも何だけど。 それからきっと譜術の研究、そしてそれの研究者は本人も優れた譜術士であったり、なる事が多いから、 結果、六神将まで昇りつめた。 あの買い出しの日。偶然私を発掘しなければ、彼もいいとこまで行ったにしても、つまりは六神将にまでは行く事もなく、そしてなってしまったからにはその素晴らしい環境にしがみつく事もなくてシンクや総長ともこじれなくって、 彼の運命は変わっていたのだろうか。 私がこの世界に来なければ。 彼も死なず、に? ……。 ……イフを考えても仕方がない。原作でシンクは六神将なのだから、きっと私がいなくてもいつかはこうなったはずだ。それがこの世の逆らえぬ流れであり、はっきりと言ってしまえばストーリーなのだから。 でも、とやっぱり思ってしまうのは――。 「生きてはいたんじゃ、」 私に関わりさえしなければ。 引退なりあるいは強制退去であったにしても、 命を落とす事は、なかったのでは? 少なくとも、こんなに早くには。 ……ああもう、これ以上考えると頭がおかしくなりそうだ。ドツボにはまる。鬱になる。 考えるのをやめよう。 |