深淵 | ナノ


…とりあえず、大体話はわかった。

結局、彼は覚えていたのだろう。
私の事も、私が彼の言うような周りの対応(極めて辛辣)を取る事もなくごく普通に礼を述べた事も、…ついでに(口を滑らせ)褒めた事も。…ついでなのにそれが一番マズかったっぽいってどゆ事?

…そういや、彼の周り(六神将)って彼に冷たかったような何なような。そいでもって、筆頭は…あー、誰だっけ?

それにしても…。


「あの、あの人形を壊しちゃったのも書類山(ざん)から救助して頂いたのも確かに私です。流石にあの人形を作られた方とは存じませんでしたけど…あの時の救世主と同じ方だろうというのは確信が持てなかったので(嘘)黙ってたんです、すみません。…ですが何故、私とお気づきに?当時からしてみれば私、大人ならまだしも子供で…って今も子供に毛の生えたようなモンですけど。でもあの時と比べたら流石に姿は変わってると思うんですが――この目、そんなにおかしいですか」


当時の担当の話と私の軍服で弾き出せる答えではあるのだろう。同一人物だと。言動は奇怪でも彼は確かに頭がいいのだ。譜業に音機関、……そして、フォミクリー。
まあ多少勘のいい人ならイケるのかもだけど。私?ムリ。

だけど彼はあえて目だと言った。そんなにこの目は異常だったか?11年前の、腹ヘリ誤魔化すための選択はここに来て間違っていたとでも言うのか。

カラフルな世界だからセーフだと思っていたのに――


「何言ってるんですかナマエ。おかしくなんてありませんよ――むしろ私の二つ名と同じ赤!美しい色じゃあありませんか」


…あり?


「…えと、ありがとうございます…?」


なんか褒められちゃったよ。いや血みたいとか言われるよりは良いとは思うけどね自分では言いまくりだけど。
しかし例えがまた…薔薇色ですか?私は灰色ですが何か(人生)。

心外だ、と言わんばかりに叫んでくれたディストさんなのだけれども、しかしヤツは声のトーンを少しだけ落としたかと思いきやあらぬコトを口走っていた。
(格下げ?下記参照だごるあああ!)。


「しかし……その色の方を再び見る事になるとは思いませんでしたけどね」

「再び?」

「ええ、親ゆ……いえ、にっくき猿が一人、知り合いにおりまして」

「(ウッキー)」


おい今親友って言おうとしただろそれってもしかしなくとももしかするだろ。


「まあ後天的なモノでしたから元はただの薄茶…ヘーゼルだったんですがね」


へー、髪と似たよーな色だった、と。
それは流石に知らなかったなあ、まあ時が経ちすぎて単に忘れたのかもだけど。
とりあえずそれってあれだよね、教団に来たばっかの頃ここについての勉強ついでに色んな本見た中になくもなかった…なんてコトはない。だって(この世界の常識に於て)フツーに考えて禁術レベルでしょうそんな何かスゴそうなの。“ソッチ”の国の宝でしょう神託の盾に居て知れる筈もないのだ。
まあ要するに原作知識として、あえて見ずとも頭の片隅になら辛うじて引っ掛かっておりましたと。ぷらーんと。

でも実のところ普段頭ビミョー発言が板についてる(?)私からしていかにも読書なんてそんな頭の良さそうな行為からはとても縁遠そうな自分だが、本つまり読書についてはあながち嘘でもなかったりする。…何で見たって?いやいや…だってさ折角この世界に来たんだもん目につく色々、見たいじゃないですかあ!んであわよくばなめ回すように見た上で触っちゃったりしたいじゃないですかああ!…ってコトで教会だの神託の盾だのブラついてた(けして徘徊ではない)時期が私にもあったんだよねー直ぐ様激務が開始されたからそれもドナドナで大抵強制終了させられて終わったがなまあそれでも懲りず(めげず)にスキを見てたからこその写真集(極めてぶ厚め×∞)だったワケですけれども。
…話が逸れたが、結局は私は知ってた事になっちゃうワケで。

だからまあ、つい言っちゃったんだな。


「あー…譜眼ってやつですか?」

「!!知ってるんですか!?」


間違えた。ディストじゃなかったわ濡れ衣ごめん。

ネタフッたの私だったわ。




「あくまで譜眼のみですよ!ねえちょっと聞いてます?ねえええ!?」と答えたむしろ叫んだにも拘わらず、聞いてたんだか聞いてないんだか結局譜眼、もとい発案者である猿――ではなく、彼曰く『陰険ジェイド』とやらの愚痴やら思い出やらむしろしまいにはノロケか?と疑わざるを得ない彼のエターナルトークに付き合わされて憐れ私の数時間。周りの人間から耳栓は外れたものの段々視線が哀れみから生暖かいもしくは酷いのだとヒソヒソ話に変わっていったとか信じたくない。誰だよ「ディストにも春が来たな…」とか呟いたの話よく聞こうよついでに「人形をぶっ壊した手腕を買いたい」とか言われてたんだぞ譜業人形がどの程度譜術に耐えられるか実験に協力してほしいとかキューピッドの愛の矢どころか下手すりゃ矢の雨だぞ(譜術)。何で恋バナがそんなデンジャラスなんだよまあ断ったけど。ごめん総長(つまり極秘任務(=フローリアン)を盾にした)。

てか何で微妙にワクワクした表情してたの普通『壊された!』ってキレるトコじゃないのなんかあの時を…譜(魔)術炸裂時彷彿とさせられたんだけど。
一応会話内容抜粋しとくと「譜術士への対抗策等改良点がわかりますからねそれにより私の超ウル(略)も更に進化を遂げようというものですうんたらかんたら…」ダッテサ…。んでついでに言っとくと「それに初めて死神などと言わず私へのまったき感謝を表してくれた、それどころか私の椅子を褒めちぎってくれたナマエの譜術も見られますしね!」って……ってお前もかよ!

てかおい、段々お主的にムカマーク幾つもだろういやいっそ譜術か?…な方向に進化してってるぞジェイド。最後なんていつの間にか金の貴公子とか言われてたぞソレ私みたいなの(=知識アリ)と違ってなんも知らん人間が聞いてたらとか思うと……ププッ(んでこれがバレたら私が今のなんか煙出てるディストの3倍くらいに黒コゲにされそうだよね…)。
どこからか「おい聞いたか?ジェイドってかの死霊使い(ネクロマンサー)とおんなじ名前だよな…」「まさかソイツだったりして…」「金…」「一体…」とかちょっと聞こえちゃった気がするのはたぶん気のせいだと思う。

…ああ、因みに彼が黒コゲてたのはあれねえ、こないだ浴室ぶっ壊した(飛ばした)のね、彼だったんだって。
んであれから一応4週間程、つまりは地球的に言えばひと月は経つからとりあえず修理は完了したものの、懲りずに今日も今日とて超(略)を取り付けようとしてね、しくじったんだって…。

勝手に業者だと思ってたからね、完全に盲点だったよね…そういや邪悪な気配を付近で感知ー、とかシンクんとこ行く時言った私だったけど、アレがそうだったのね…。初対面が昔すぎてイマイチ自信は…、ってのが普通っしょ、と思われるやもなのだが神託の盾にいる以上全く感知しないワケにもいかなかったし何より詳しくは後述。
でもまさかね、ソコ(医務室)から浴室に向かって『ぶっ飛べ!浴室!』するとか誰が予想出来んだよ預言かよ。

そして波動は一度会えば次に勘づくための条件を満たすからね、私ってさ、物覚えは可哀想なレベルだけどそーゆーのは血のせいか忘れなかったんだよね…もっと別の方向にその記憶力を活かしたい今日この頃。でもソレが無ければ無いでとっても困る事態になるのは自明の理だから葛藤だよねまああってもツメがお砂糖漬けなせいで全く役に立ってないけどね!(例:シンク)
だがしかし談笑(片方が)中ポロリしてたのだが、なんとコノ席はきゃつのお気に入り(という名の定位置)だったとかで明日にしたトコで波動への注意が散漫状態では結局無意味に終わったんだろうという点。

…そしてその肝心のディストさんだが、何だか「数年ぶりに人とおしゃべり出来てますよ!」ってくらい(…実際そうだったりして)楽しそうな彼を前に気が引けて(けして日記につけられたくなかったワケではない)結局無下にするコトは出来なかった。…ら、どんだけ嬉しかったのか「こんなに私の話を聞いてくれた方はアニス以来ですよ!今の私は気分が良いですからね、さあ好きなだけ頼むと良いですよ!」とデザートコーナーに連れてってくれたから多少(だいぶ)変人入ってるとはいえ、私の中で彼はいい人認定されたのだった。まあヒーローだしな。
しかし何か聞こえた謎。

ここで突然だが、他に誰がいるのかと言えば当然私の食生活(偏食むしろ冷食気味)を知るイオンやアッシュなどである。アリエッタはこう言っちゃ彼女に悪いが幸い人間界の常識に疎かったためそうでもなかったんだけども。
何って、うっかりケーキなど定番ではなくここ数週間そして今日により悪化した胃痛に勢い余り、実は少し考えて頂ければわかってもらえるかもしれんが(話せる相手いないけどね!)、私にゃ逆にお腹に優しくなるアイス(数種類)だのソフトクリーム(数しゅ以下略)だのパフェ(アイス付き)だの、しまいにゃ流石にメニューに無かったしかしお得意さん(=位階それなり以上)には言えば作ってくれる隠れメニューその13辺り(適当)・「おばちゃーんかき氷ないー!?」と叫んでしまっていたのだった。
そして余談だが、あまりの種類の多さに脇に積まれたデザート皿。そして器。『ほにゃららボトルー(青狸風)』等のアイテムがある時点でこの世にもありまくりであるガラス因みになんか無駄に洒落ている。しかしけして派手ではないのに目を引いてだがしかし地味ではないとか流石教団なのか何なのか。

そして私だが、無いモノを大量に作ってもらうのは流石に気が引けたため既にメニューにあったそれに最終的に狙いを定めた。

気づけばわんこそばの如く脇に追加されていたアイスクリーム。

気づけばまさかの彼にまでドン引かれていた。


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