深淵 | ナノ


……てかさ、もうコレ逃げた方が良くね?
総長には『あのコ怖すぎマス!』をゴリ押ししてさー…。代診頼みゃ良んじゃね?もう。

そッ…そそそうだよゲームだけじゃ絶ッ対に拝めなかったであろうコスチェンジをそれも生で見られたのだカメラがないのが痛恨のミスだけど(懐から頭が覗いただけで私もろともブッ飛ばされると思われる)私は今この目に焼き付けた今日の収穫はこれで充分だよ悔い無いよだから私おいとまするね!(逃走ゼリフ)――


「…ま、入れば」

「お邪魔します…」


…とは、いかんわな。うん。

口を割らん私に飽きたのか業を煮やしたのか(勿論前者だとありがたい)。促されて中に入る。
一人部屋であるコトがそこはかとなく危険を感じるが(=助けナシ)、それを除けばごく普通の病室だった。ただ神託の盾の建造物に属すため日の光はなく普通なら気が滅入りそうだけれども。…んでもそこはシンクだからな、気にしなそうだな、うん。むしろ良いとか思いそうだ(偏見)。
…これでもちっと寒ければ私の独擅場なんだけども…って何で戦うの前提にしてんだ私。


「…何?」

「い、いえいえ何もッ!」


あるけどね!

ベッドに戻るシンク、それに続いて脇の椅子に「失礼します」っつって座る私。勧められちゃないが立ったまんまじゃ色々無理だからね。
そしてついガン見してしまったシンクさんなのですが(そしてガン飛ばし返されたワケですが)、世界の違いか多少デザインは違うものの黒のワイシャツ的なタイプのモノをお召しだった。…ぐっ、アレは見えないけどもなーんで首筋またビミョーに開いてるかな…!なして私の欲望の耐久力試されてんのコレ。
多少(かなり)性癖のバレてるイオンならまだしもまだ二(三)度の対峙…間違えた対面なんだから知る由もクソもないためどーしようもないんだけども。因みにフローリアンはまだセーフ(だと思いたい)。

しかし改めてこうして眺めて考えてみると生ッきにくいコだよねえ、周りの人間つまりは預言かぶれとか全員爆発しろ通り越して死ねばいいのにとか思っちゃってるでしょそうなんでしょ?んで私が実は驚異の預言記録一回なんぞ知るハズもないのだから私ももれなくカウントされちゃってる感じだよねそうだよね?まあアレはフローリアンのために仕方がなかったのであってつまりは真実対象者は自分でもなければ自身の欲望のためでもなかった訳だけど。
流石にアノ計画のコトは言わんだろうけどもかなりの確率でイヤミは混じりそうだから誰彼構わず反感買いそう。んで私原作知らなきゃ怯えてそう。
…ま、知ってる今も果たしてビビってるワケですが。今日もチキンは絶好鳥。間違えた絶好調。


「どこか痛い所とかありませんか?」

「別に。ムカつくくらいどこも痛くないよ、アンタにぶん殴られた腹もね」

「…あー…そこも昨日手当てしときましたからね…」


ついでと言っちゃ何だったが昨日の内にササッとセットで治癒術っといちゃったからね、譜陣前にね。


「全く、女のクセにボクより腕力あるんじゃない?アンタ、ホントに女?」

「はは…」


ここで「アナタも随分とカワイらしいお声でらっしゃいますけどホントに男ですか?」なんて言おうものなら結果は目に見えている。
いやま、昨日に引き続き今もしっかり上半身拝見させてもらってるからね、れっきとした男の子なんだってのはよくわかったけどね。大体、キミの元となった子がやはりれっきとした男の娘…じゃなくて男の子なのはある意味この世の誰よりも知っちゃってるからね私。それこそ、隅々ま…おっとどっこい。うを、そこまで緊急でもないせいで目の前の御仁とのダブルパンチで鼻血が…。勿体ね。
まさかの風呂デートまたの名をランデブー。まさに裸の付き合いとっくのとうにやっちゃってたかんねそれも○千回。…ココの一年は長ェーんだよオオ!

それにしても、容姿に声色は勿論そしてこのツンケンした言動……あああやっぱ好みなんだ大好きなんだだがしかし彼の敵(しかも六神将)なポジションだとか実はレプリカ(それも廃棄の事まで熟知)だとかに私の中にのみ許される『知っている事』への後ろめたさは確実に萌えを妨げる――ハズなんだけども、自身の抗えぬ欲望に極めて忠実なオトメ脳と何よりご馳走に違いない予感にハートはハッスルマッスル止まらない。
…しかしどんなに見た目が極上であっても前述の知識は前者の六神将云々はいずれ公然となるからまだいいとしても、後者のは私やレプリカ云々への加担者以外に知れるコトではないのであって。てゆか改めて考えるに仮面とか、ムダに威圧感与えるだけだよねえ…本人にも周りにも絶対言えないけど。後者はどこから話がいくかわからんし。

そこへ来ての性格に難アリ。君、預言賛否抜きにしたって…いや流石に預言否定派ならば多少は違うのか?や、六神将(=同志)への当たりも中々に微妙だったような…それはさておきとりあえず目についた預言狂信者(獲物)は勿論、ピンキリ関係なく胆のある人からやっぱり反感買い占めてこぞって要らん敵作りそうだ。実際敵だ。私から見ても。まあ今は昨日のラスボス然りでお仲間なんだけども。てゆか私も預言詠みませんけど。
とりあえず、現実的に見れば長生き出来そうにはないな、うん。

……思い出して、目を伏せた。


「さっきまで騒いでたクセに急に黙って、何?」

「…いえ、」


原作で、彼は。
見た目に合わない――詳しい長さは忘れてしまったけれど、長いとはお世辞にも言えなかった筈――短さで。

だからといって火山に走った辺り私はたとえ無に帰すとわかっていても、……というか、原作から著しく逸脱されるのはやはり困るのであって。能動であれ受動であれ大分私が実践してきちゃった訳なのでつまりは執行人がちゃうわァ!って事なんだけれども。言うまでもなくその部分が『著しく』に値しなければ万々歳な訳だけれども……無理だよねえ、やっぱ。
この手を止めたりなんかはしない訳だけれども、いざその時が来た時私は何もしないのだろうに一体私はこんなとこまで来て何をしているのだろうか……。

そもそも、私はあと何回このコに対し、『これっきり』という言葉を使わなければならないのか。


「…うん、発色良好。色も強いし、定着もしてるし…」


考え始めてしまうとキリがない。しかし考えたところで答えは出ない。出したくもない。悪循環の無限ループ。
今は考えるのをやめよう。何より目の前にいる子は今この時は確かに私の患者に違いないのだからと、容体だの譜陣だのをまとめ始めてるカルテのスケッチと睨めっこしたり描き加えたりなんかして、目の前の彼の髪と似た色を持つ絵柄に異常がないか、集中した。

…何度も言うようだが、間違っても「キミの瞳とおんなじ色だねえー」なんて言ったら破滅への道が最短距離なのね。今は見えないけど最初火山で見たし、…何より、イオンのそっくりさんな訳だし。波動で見分けはつくから全てが同じとは言わないし言えないけれども。
つまりは意識せず。いつの間にか、とっくに確認済みだった事になるのさ、ハハ……。




総長からは譜陣の調子を診る事だけを頼まれている。つまり体調管理は他の医師や治癒術師がやるからと。来た時私が感知した人間がそうだろう。
そして何より、シンクにもそう伝えておくとの事だった。

オイオイ仮にも体調診る治癒術師バラしていいのかよと思わなくもなかったけど、確かに私がシンクの異常に勘づく機会をあらかじめ奪われてるって事には違いないため総長のその指示は素直にありがたかった。第七音素の数値しか示さない診断書ーとか、うっかり視界に入っちゃ事だし。


「あのー…もしやあの一撃、怒ってます…?それとも私が女だから…とか?」


…だから今、彼が私を威嚇する意味がわからない。

とりあえず先に言ったように、譜陣に問題はなかった。
なかった、んだけども。

胸も背中も見させて…間違えた診させて頂きましたクッハァごちそうさま!…なんだけど、診察中最初っから最後まで殺気だだ漏れで今も猶継続中とかおかげで私殺気の筵。イオンにはよく音素の筵にされたモンだったけど、ぶっちゃけ今ではそんなイオンが可愛く思えてくるよ。何、そんなに気配隠し隠し(ややこしい)が気にくわんのかコラ。しかしスルーして部屋に入れてくれた辺り違うと思われる。そこでこの質問。

喧嘩両成敗どころかあれ訓練でしょ違うの?まさかマジで昨日危惧してた系?あくまで施術は手当の一貫なんだしまして女が男に見られるんなら恥じらいもあろうモンでしょうけどアナタ男でしょう顔は女の子みたいに可愛いけれども。言ったら殺されそうだし何よりジ・エンドだから、疲れるけど本音ポロリンしちゃわんよういつも以上に肝に銘じておくけれども。


「別に昨日の対戦の事は関係ないよ。どうだっていい」

「はあ、そら良かったです」

「…そもそも、アレをよけきれなかったのは単にボクが弱いからだ」

「エーでも、その歳にしちゃあ随分強い方だと思いますけど…」


睨まれたぽ。怖い。


「じゃあ訊くけど。アンタ、幾つ?」

「へ?16ですけど…」

「ふうん…」


なんか見られてる。…ああ、コレは実年齢より若くね?的なアレか?アッシュ然り。

そして便宜年齢も実年齢も知ってる訳だけども流れ的にここはあえて言うのが花ですよと、そういうコトだね?


(2/3)
[back] [top]
- 98/122 -
×