深淵 | ナノ


アリエッタがびっくりしたのは、イオン様やナマエママから勉強を教えてもらう間にいつの間にか知っていたから模造品って言葉の意味に対してじゃなくて、物だけしか作れないってその意味から思い込んでいたのにイオン様やナマエママのお話では、ヒトの事を指していたから。

アリエッタ、ヒトもお友達もみんなみんな、生き物はパパとママがいるから生まれてくるってママ、ライガママに聞いていたからそれこそ教団に来る前から知ってたのに…。それなのに、その筈なのに、レプリカはそれを飛ばして新しい命を持って生まれてくるって……そんな、絵本やナマエママが昔話してくれたおとぎ話とかに出てくる…えっと、魔法?みたいな事、あるの?って…。
イオン様やナマエママの言葉じゃなかったらアリエッタ、きっと信じられなかったと思う。

……でもアリエッタ、一回その人の事、見てる。もう会ってた。

レプリカが良い事なのか悪い事なのか、はナマエママの話し方から、物は別としてヒト相手だからあまり良い事じゃないんだと思う。代わりの人が作れるなんて、って言いかけたら、ナマエママ、「同じ人間なんてこの世にはいないよ。アリエッタにとってのイオン、それにライガママ達だってただ一人でしょう」ってちょっと怒ったように言ったから。…すごいねって続けようとした言葉は、ちゃんと飲み込んだ。
ナマエママは滅多にアリエッタを怒らないから、どんなにか言っちゃいけない事だったんだって、気づいたから。

でも、レプリカを考えた人ってそれはそれですごいとも思ったからごめんなさいって謝ってからそれだけは言ったら、ナマエママはすぐ笑顔になってくれたかと思ったら、何故かその後、目が泳いでたんだけど……。

今、教団にはわかっているだけでも、二人のレプリカ――イオン様の、レプリカがいるとイオン様は言う。
三人作られた、生み出されたから。因みに、イオン様は作られた、ナマエママは生まれたって言い方をする。イオン様とナマエママのレプリカに対する気持ち?考え方って言うのかな、それが違うからかなって、何となく思う。

一番目のコはフローリアンってお名前で、そのお名前もナマエママがプレゼントしたものなんだって。その上ナマエママがアリエッタに色々教えてくれたのとおんなじように今、先生役をやってる最中だって聞いた。
アリエッタも今度会ってみたいな、言ったら、イオン様には止められちゃったんだけど…。でも、ナマエママは良い子だって言うし…。

二番目のコはイオン様もナマエママ、はまた目が泳いでた気がしたけど……とりあえず、行方も生死すらもよくわかっていないって聞いた。
死んじゃうのはやっぱり悲しい事だから、生きていてほしいなって思う。だって何より、イオン様と同じ血が流れてるんだもん。…って言ったら、イオン様はふてくされちゃったけど…ごめんなさい、イオン様…。

三番目のコは――イオン様は死ぬ筈だったからその代わりとして、選ばれたって、聞いた…。
……だから、少し前アリエッタが見たイオン様はイオン様であってイオン様じゃなかったんだって、イオン様とナマエママの説明でアリエッタ、やっと気づいたの。

こうして本当の事を知って考えてみると、きっとすごく優しいひとなんだろうなって思う。イオン様はあまり良く思ってないみたい、というより自分のレプリカっていうのがイヤみたいだったけど、アリエッタがいつものイオン様じゃないって泣きそうになった時、ぎこちなかったけど、必死に慰めてくれたから。
いつもアリエッタとお話してくれる時のと話し方も違うしどうして初めて会った人みたいにお話するのとか訳のわかんない事ばっかりであの時はますます混乱しちゃってたけど、そういう事だったんだなあって、答えのわかった今ならアリエッタ、わかる。

――だって、アリエッタの事をよく知らないから。

だから、アリエッタとだけは他の導師守護役の子達と違うお話の仕方をしてくれてたって事も勿論知らないから他の子と変わらずおんなじ。いつもと違って当然だったんだ。
それにレプリカってばれちゃいけないから。イオン様をよく知ってるアリエッタに自分はほんとはアリエッタの好きなイオン様とは別人だって気づかれたら大変だってきっと焦って、あんな反応されちゃったんだろうなって、わかったの。
レプリカだってばれちゃうって事は、イオン様はもう……死んじゃうんだって事がばれちゃうのと、おんなじ事だから。

イオン様、本当は……1週間と朝ご飯に毒を盛られたっていう、今日。イオン様がダアトから逃げる日から数えた8日前に死んじゃう筈だったって聞いた時はアリエッタ、物凄くショックだった。涙が溢れて溢れて止まらなかった。
きっと本当にそんな事になってたら、アリエッタも跡を追っちゃったかもしれない。
でもそれだとナマエママ、それにライガママやお友達が残されちゃう事にもなる。
……だから実際どうするかはアリエッタにも、よくわからない。

でも、今はナマエママのおかげですぐ死んじゃうような事もなくなったんだって聞いたから、本当に嬉しかった。

アリエッタ、前からナマエママの事そう呼んじゃうくらい大好きだったけど、イオン様の命の恩人にもなっちゃったから。だから、ナマエママを狙うやつが来たらどんな相手でも倒してみせるの。アリエッタ、ナマエママに譜術だけじゃない、戦い方たっくさん、教えてもらったもん。絶対、負けないんだから。
イオン様のお願いがなくってもアリエッタ、きっとそう誓ってたと思うよ。

――あと、最後。
アリエッタのこれからで、一番大事な事。

とっても難しくて大変な事だってわかってる。だけど、頑張ってアリエッタ、あのイオン様がアリエッタにとってのイオン様じゃないって実は知ってる事、誰にもばれないように――。最近ヴァン総長、アリエッタがお友達と会話出来るのは元からだけど色んな譜術を使えるようになったからってよく声かけてきてた、でも、部下の六神将、それに大詠師モースとかも敵だって聞いたからその人達には特にばれないように、演技するの。

何も知らないのって顔をしながら。怪しまれないようにするためにも、例えば嫌いなアニスに向かってつい言っちゃうような言われた人が嫌な気分になるような言葉は絶対使わないように注意しながら。
ヴァン総長達に頼まれた仕事もきっちりやるようにしていつまでも、演技するの。

……たとえ、アリエッタの一生が、ずっとずうっと、そんな苦しい道として、続くとしても……。

イオン様は勿論、ナマエママを守る事にも、繋がる事だから。


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