復活 | ナノ


日本の文化ですね。



22.屋台は片っ端から制覇したい



衝撃の骸さん…ではなく、骸さんと衝撃の再会から早4ヶ月。
私が1年の内一番苦手とする季節、またしても真夏がやってきやがった。

並中夏服装備も二度目で学校の衣替えにも慣れたもの。去年もそうだったけど、汗でベタベタ…というより身体が危うく溶けかけてベタベタになりそうである。アイスの残骸を再現出来そう。

1年次は「夏休み中の補習(要するに解凍フラグ)なんか受けてたまるかァ!」と躍起になってたもんだけど、今年は普通にそんな心配は無用だった。
人間やる気になれば案外どうとでもなるもんで、一応悪目立ちを避けるためと将来の事も考えて勉強をしてきた成果が出てくれた。期末テストで中の下辺りの成績を修められた事が物語っている。
(それでもイマイチと言う事なかれ。これでもマシになった方なのだ)。

今まで生きるか死ぬかの瀬戸際、なんて勉強?(ホラ、体術とかはたまた魔術とかだから…)で必死だったから今の勉強内容は実に平和すぎて頭に入りにくかった。ホント、暗記モノとか鬼畜すぎると思う。

新しいクラスも慣れてしまえばどうという事もなく、去年より更にスルースキルも確実にレベルアップしてる気がする。てかこれが無いと授業なんてやってられんからね。
銃声とかいらんもん超拾うからね私のエルフ耳。

物凄く余談だが、このままいけば高校受験は何とかなるのではなかろうか。
まだどこ、と明確に決めたわけではないが私の家族がいるくらいなのだ、生前の友人がいる高校とかないのだろうかとフと考えたり考えなかったり。並中には残念ながらいなかったし。何でや。オタ話皆無とか地味につらいんだけど。

修業も程々に、忍術とか諦め入ってるけど案外今のままでも何とかなっているからあまり気にしていない。

趣味の時間も結構取れてるし不穏な影もナリを潜めてるしで、最近の精神面の調子は上昇中だった。


「名前、去年より大分成績上がったわね、偉いわ。と、いうわけで今年は海やプールにでも行ってらっしゃいな」


下降した。


「えー…焼けるからいいや」

「もう、今からそんな事言って!成績の事は置いといたとしても、貴方去年の夏休みも殆どお出かけしなかったじゃない。たまに出たかと思えば薔薇ばっかり買い込んでそれ以降部屋から出てこないし。たまには外で遊ばないとモヤシになっちゃうわよ」

「だって熱中症とか…」

「スポーツドリンク持ち歩きなさい。それに水に入って遊ぶんだからそこはあんまり心配ないでしょ?夏なんだし、それに1年の時からずっと保健体育で5取ってるんだから発揮したらいいじゃない」


今は居間で昼を食べている。去年あまりにもオタッキーでヒッキーだったせいか(何がどうしてと、いうワケに繋がるんだあれかご褒美的な何かか)蓑虫の蓑を剥ごうとするというか、私という中身を引き摺り出そうとする母上。因みに母も食べている。

成績は運動系は飛ばし過ぎなければ問題なかった私は保健体育のみずっと5。
他は1年次はアヒルや棒がチラホラ。今はその中にやっと3良くて4が混ざり始めた状況だ。
運動だけではダメなのだが、保健側のテストも頭を使うとはいえ治癒術に最低限必要な知識と同じ様なモノだったから苦労せず。

確かに水泳とか得意中の得意だよだって人魚の血入っちゃってるもの…。
だからといって真夏の遊び(=天敵)に活用する気にはならないけども。

当然、海やプール、という炎天下解凍フラグな単語を聞き雪女な私は思わず戦慄するしかない。


「水着だって可愛いの買ったげるわよ?」

「気持ちだけ貰っとくー…てかそれなら浴衣の方がいいや」


雪女の基本は着物だしな。


「じゃあ浴衣買ってあげる!名前ったらお正月も晴れ着とか着てくれないんだから、せめて浴衣姿お母さんに見せてちょうだい」

「えええ…」


高いよー。


「それならゲームとか薔薇とかに是非」

「それとこれとは話が別よ!丁度8月に夏祭りもあるしお友達とか誘って行ってきたらいいじゃない。あそこの花火見応えあるのよ?」


お祭り…なら、いっか。いやいいのか?
まあでも久しぶりなんてもんじゃないくらい行ってないのは事実だし。
何だか何かしら行かないとこの問答続きそうな雰囲気だし。


「そ、そこまで言うなら夏祭りには行こうかな。でも、さっきも言ったけど浴衣って結構高いと思うけど、急にどうしたの?」

「お父さんがボーナスも入ったし写真に撮ってって…あらいけない。コレ内緒だったんだわ」


父の親バカ説が決定した。


***


「わ、名前ちゃん浴衣似合ってるね!」

「京子ちゃんの方が百倍可愛いよー。あと……ハルちゃん、も」


うわーん!


「エヘヘ、ありがとうございます!あ、向こうにチョコバナナがありますよ!二人とも行きませんか?」

「ホントだ!行こう行こう!」

「ウン…」


何が悲しくてぼっちで浴衣装備でめかし込みながらお祭りに行かなきゃならん、と今回ばかりは京子ちゃんを夏祭りへと誘ってみた。

彼女は実のところもう一人の友達と先約があったんだけどな。しかし「名前ちゃんから誘ってくれるなんて珍しいし折角だから三人一緒に行きたいな!」と世の男子はみなノックアウトされるんじゃなかろうかという満面笑顔でな。
ご遠慮して引き下がるという選択肢はちょっと消えた。

そうして「わかった」と特に深くも考えず返答した私だったがしかし、てっきり花ちゃんだと思い込んでいた私の予想は見事に裏切られた。

夏祭り当日、待ち合わせ場所にて京子ちゃんの傍らに佇むツリ目系少女にアレ?と疑問を抱き、自己紹介を始めた彼女の名とその敬語&ルー語装備な口調で確信を得た。

三浦ハルさんことハルちゃんと、顔見知りを一足飛びしお友達になりましたとさ。…ハハッ。

因みにお互い名前で呼ぼうZEってさ(勿論こんな言い方ではない)。…女の子の勢いって凄い。

っておおい前もなかったかこんなシチュエーションんん!


「チョコバナナくーださい!」

「あれっ京子ちゃんにハル!?それに苗字さんも!」


ほげぇ。


「1つ400円な。ホントはオマケしてやりてーんだけど、事情があってそうもいかなくてよ。わりーな」

「山本君ありがとう。気持ちだけ貰っておくね」

「おらよ、チョコバナナ3つだ」

「わあー美味しそうですー!」

「アリガトー獄寺クン…」


まさか屋台構えてるとは…盲点だった。

チョコバナナの店は、まさかのアサリーズ経営だった。何で、何でこう…!
まあ完全別行動だから今回は何ともなさそうだけども。

委細大概忘却の彼方だけど漫画では一コマで終わりそうなやり取りもこうして現地に来ると色んな面展開等いい意味で長引くよなーとか思いながら皆のやり取りを見ていた。…や、私にとってはいかんせん悪い意味なんだけど。接触過剰的な意味で。


「お店やってるんじゃ手が離せないですよね…残念です、みんなで花火見ようって言ってたんで」


ちょ、そうなのハルちゃんわたくし聞いてなくってよ!


「ショバ代を払えない屋台は風紀がつぶす」


ヒイイイこっちはコッチで何かいるし!背後が恐ろし過ぎて振り向けません隊長!




私だけ一人戦々恐々としながら、その場はアサリーズ三人組に声援を送りつつ離れた私達女子三人組。

…なんだけど。


「二人とも一緒にいるけど…私だけはぐれるとか」


私だけ一人(二回目)、京子ちゃんハルちゃん二人とまで離れてしまう事態に陥っていた。まあ要するに、迷子だった。中2にして。
…ちょ、実年齢とか考えたらもっといたたまれないんですけどォォ!?

チョコバナナの後、お腹は膨れないよねと満場一致で焼きそばを購入。そこまでは良かった。

しかし立ち食いはちょっと、という話になりどこかイイ場所探すべーと周りを三人でキョロキョロしてたらいつの間にか、という始末である。


「折角もってこいな場所発見したんだけど…よっこいしょ」


長い階段を下駄で制覇しなければならなかったがもしやと思いちゃっちゃと登ってみたところ、丁度運良く神社の境内に辿り着いたのだ。
昔なら慣れない鼻緒で呻いただろうけど、そこはホラ、雪女だし。傷が出来たとしてもすぐ治るだって、吸血鬼だし。

波動を探れば一発なんだけどいかんせん今夜は夏祭り。感知してもそこまで到達するのが一苦労。人の波半端じゃない。二人には申し訳ないが迷走中に程よく私向けに冷めたので焼きそばを平らげてから行動に移ろうと思う。実はお昼食べてからは買い食いで繋いでたから小腹が空いてたんだよねー。

携帯?行方不明設定の効果で中1の時点でってか地上に来てすぐ持たされたからお祭り用巾着内にポイしたけど二人のアドレス知らない以前に持ってるかどうかも不明と来てる。
授業もとい並中に不要なモンは持ってかないのが吉。よって休み時間やお弁当時アド交換しよーなんて会話がまず出ない。
つまり今は全く役に立たない。

とりあえず鳴り響く腹の虫を黙らせるべく、階段の一番上に腰掛け割り箸を割り(何かお祭り!って感じでイイよね)、勢い良くがっついた。


「ヘーイかーのじょっ!一人?オニーサン達と遊ばなーい?」

「…も?(はい?)」


すんげーもぐもぐやってたところ、頭上から何かいかにもー…な声がかかった。…やべー今時?
てかええと、私?しかいないか。周りには残念ながらおなごはおらなんだ。

焼きそばから顔を上げる。

まあ一人でナンパする奴も少ないとは思うけど、ありえないくらいの大量チンピラがニヤついた表情でこちらを舐めるように見ていた。
な、何と…。

何か人の気配多いなーとは思ってたけどお祭り故だと気にも留めてなかったのが災いした。急いで咥内を占めてる焼きそば達を嚥下し、やんわりやり過ごそうと口を開く。

…青のりとか付きまくってるだろうけどそんな場合ではない。


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