ただの見落としか意図あっての事なのか、“今の”自分にわかる筈もなく。 17.出逢い、そして 「なっ!あいつにわざと会わせたァ!?」 「キケンな賭けではあったがな。スリ傷だけで済んだのはラッキーだったぞ。……ツナだけ打撲のオマケ付きだがな」 「はあ!?何だよソレ!つーかお前何か顔笑ってるぞ!」 「お前達が平和ボケしないように組んだ実戦トレーニングだ。鍛える為には実戦が一番だからな」 「(無視かよ!)何やらせてんだよ!!」 学校に来るなと何度注意しても効き目のないリボーン(の脅し)に負け、苗字さんを屋上に連れてくるようにっつー命令に渋々従い結局その指定場所に山本と獄寺君含む四人で集まったのは良いものの、ファミリーのアジト作成だか何だか知らないがそれの為に向かったリボーン曰く絶好の物件だとかいう応接室もといそこに巣くっていた(?)謎の危険人物から命からがら逃げてきた後。 オレと山本と獄寺君の三人は屋上で今回のアジト作成の本当の狙いをリボーンから明かされていた。 しかし、ここで異議が一つ。 「あのな、山本と獄寺君だってあのアブナい人にやられたんだからかなりの怪我負ったんだぞ!?それなのにスリ傷って…オレだけじゃないよ!」 「申し訳ありませんでした10代目!次こそは必ずヤツをぶっ飛ばしてみせます!」 「いや、そうじゃなくてェ!」 「まーまー二人とも落ち着けって」 「…オレは事実を言ったまでだ」 「……は?」 多分今のオレ相当なマヌケ面になってる。だって…え?二人ともあの人曰くの「起きられない程の攻撃」を受けた筈であって…。 、どういう事? 思わず山本と獄寺君を交互に凝視する。 リボーンに全力でツッコむオレといつになく据わった目で今にもまたどこからかダイナマイトを召喚し(てるとしか思えない)構え応接室に舞い戻っちゃいそうな勢いの獄寺君とこれまたいつものように人の良さそうなしかし苦笑いにて宥めてくる山本の二人には、確かにスス汚れや爆発の影響らしきスリ傷はあるものの(獄寺君は勢いに反して何故か顔は真っ青だ。流石の彼もさっきの出来事が堪えたのかもしれない)山本は本の僅かにそして獄寺君には全くと言っていい程、痛そうな素振りが見られなかった。何というか、ぶっちゃけピンピンしてると言ってももはや過言ではなさそうで…はー良かった良かった…――じゃない!いや無傷ならそれに越した事はないけどそうじゃないそうじゃなくてだからどういう事!? 「情けないですけど、確かにオレはあのヤローにやられました。ですがその傷が…憶測になりますが、気絶してた間に完全に治ってたんスよ」 「オレもほんの少し痛い程度だから……ま、いつだったかと同じって事だなー、ツナ」 「…え?いつだったかって、」 「入ファミリー試験の時だな」 二人の証言に軽く頷きながらすかさずオレの質問に答えで継いだリボーンにハッとする。 …そうだ、そういえば。あの時だって爆撃とかでそれなりの怪我をしたのに、知らない間に殆ど治ってたんだった。確かリボーン曰く苗字さんが何らかの手を施したんじゃないかって話で…、 苗字さん……、 そうだよ!まだ大事な事訊いてなかった! 「つーかリボーン!苗字さんはどうしたんだよ!?」 屋上に苗字さんだけいないんだけどこれこそどういう事だよ! 「名前ならあの煙に紛れて真っ先にどこかへ走って逃げちまったぞ。因みにあいつは無傷だ」 「ケッ、相変わらず逃げ足の速ぇーヤツだぜ。しかもファミリーのクセにボスである10代目を置いて逃げやがって…」 ……っていうか今更だけどいつの間にか獄寺君の中で苗字さん完ペキファミリー扱いになってるよねコレェ!? 「まーまー、いーじゃねーか獄寺!苗字は女子なんだし、怪我させちゃ流石にマズイだろ?」 「…チッ」 オレも確かにそれには同意する意見で以て再度宥めにかかる山本に、一応一理あると思ってるのか押し黙る獄寺君。二人の顔に苦痛はない。 リボーンはまあやつの事だ、無傷に決まってるんだろう。いつも通り不敵な笑みを浮かべて面白そうにオレら三人を見ている。 そして苗字さんもリボーンからたった今聞けた報告によると、至って元気。だってきっとあの持ち前の運動神経を駆使した猛ダッシュで颯爽と逃げ切ったんだろうし。何回か目撃してきたせいか…何か、目に浮かぶかも。 「(皆…今回は何とか助かった、…って事で良いんだよな)」 思わず安堵の溜め息が漏れる。 だって考えてもみたら、女の子である苗字さんにもし大怪我でもさせた挙げ句、直接的ではないにしろオレ達のせいだなんて周りにバレたら。 当然京子ちゃんの耳にも入って、 『名前ちゃん女の子なのにこんな酷い怪我させて!最低!ツナ君なんか――大ッ嫌い!!』 うわああ想像しただけなのに脳内で幻聴とは思えない京子ちゃんの非難がァァ!! …うん、ホント苗字さん無事で良かった。 ……い、いや、彼女の身も勿論心配ではあったけどさ。 「(…それにしても、)」 何で苗字さんがいない事にすぐ気付かなかったんだろ、オレ。 まあきっと、あの人が狂暴すぎて気が動転してたからかな―― …だけど今回は皆何とか無事だったとはいえ(オレだけ打撲酷いけどな!)、あの超危険人物にオレ達、完全に目を付けられたんじゃ…!? 「ま、だろうな。だが、ヒバリは将来必ず役に立つ男だ。心配いらねーぞ」 「さりげなく人の心読むなよ!つーか心配だらけだっつーの!うああぁ…」 リボーンのおかげでとんでもない人物に関わってしまった今回の(エセ)アジト作成計画。 とにかく今後オレに出来そうなコトと言ったら…あの人――ヒバリさん、とやらに二度と会わないで済むよう祈るくらいしかなさそうだ。 …嗚呼、はたしてオレが元の平和な生活を送れるようになる日は、この先訪れるのだろうか…。 *** あの後屋上から教室へ戻ったところオレは早々に頭を抱えたくなった。 あろう事か「山本に引き続き苗字まで自殺未遂!?」と騒がれてしまってたからだ。授業中ではあったけど誰かが目撃したらしく、あっという間に噂が広まってしまったらしい。 当の本人は教室へ戻ってきた途端、荷物をまとめるやいなや「頭が痛いんで帰りマース」とか宣言しながらすぐに帰宅してしまったらしい。…まあ早退したくもなるよな、あんな目に遭わせられたら。いくら何でもあんなの…男である自分だってそうだったんだ、女の子にとって怖くない筈がない。 そういえば…オレもリボーンが来る前はよく途中で帰ってたっけ。…苗字さんと違ってオレは完全にサボリ目的だったけど。だけど何かすっごく前な感じがしてならないよ。だってリボーンが来てからは毎日が怒涛、何かしらも起こらない日なんて数える程度だ。…いや、そもそもそんな(仮初めの)平和なんてあったっけ…。 苗字さんの話に戻るけど、顔は仏頂面なもののいつもと何ら変わらない様子でケロッとしてたらしい。…そしてなんか棒読みだったそうだ。 うう、やっぱ怒ってるよな…。 だけど、オレは苗字さんがどうやってヒバリさんから逃げたのかわかってしまった。 数人の目撃者達が言うには、大爆発が起きた場所の窓からある人は彼女が校舎の外壁にてロッククライミングばりに伝うトコを、またある人は普通なら骨折は免れられない筈の高さから降ってきたトコをたまたま窓の外を見やった際しっかりと目にしたらしいから。 つまり、苗字さんはあの応接室の窓から壁を伝いつつ最終的に飛び下りて…、 …あれ? そこで何か違和感を感じた。何だろ…。 「(…?リボーンの言ってた事と、違う)」 そうだ。リボーンの情報との誤差だ。苗字さんは一目散にそして真っ先にあの死地から誰よりも早く脱してたと言う。 窓からなんて…、まるで火事現場から差し迫ったみたいな、大怪我する危険を無視してるとしか思えない最終手段をわざわざ取るなんて。どう考えても辻褄が合わない。だって逃げ切ったのならそのまま校舎内から教室に向かった筈。 リボーンが異様に鋭い上目敏い事はここ数ヶ月での付き合いでイヤって程わかってきてるんだ、そんな見逃し方ってあるだろうか―― しかし元々深く考えるのが苦手なオレは結局その疑問に答えを見出だす事は諦め、授業の体勢に入ったのだった(内容はプーだった)。 あ、そういや何で山本と獄寺君の怪我が治ってたのか前回の入ファミリー試験時と同じくまた判らずじまいだったな…でもま、いっか。オレはまだ打撲とか痛むけど、二人までボロボロってのも何か後味悪いしな。 とりあえず、苗字さんは爆発から逃れようとした結果、窓から脱出を図ったのだろうとオレは山本と獄寺君にも頼んで皆にフォローして回るのが精一杯だった(獄寺君は半分脅しでムリヤリ納得させていた)。 その際、物凄い身のこなしで着地したから無傷だったのだろうと付け加えて。 因みにオレ達はたまたま現場近くにいたという事にしておいた。…間違ってはないよ…な。 …オレは前より奮発したお詫びの品を苗字さんへ用意するべきだと思った。 それから暫くの間、「苗字さんは実はスタントマン志望!?」とありもしない噂がそこら中でまことしやかに囁かれ、「確か沢田君達から広まった話だよー」と女子の誰かがバラしたのだろう、苗字さんの冷ややかな視線を浴び続けたオレが胃痛を引き起こしたのは言うまでもない。 …オレはそろそろお詫びの品ではカタが付かなくなりそうだと身に沁みて悟った。 「そうだ、獄寺君まだ顔色悪いけど大丈夫?…ま、まさか本当はどこか痛むとか…!」 「ご自分の方が怪我なさってるのに部下であるオレの心配をして下さるなんて…!くうっ…!恐れ多いっス!」 「(…涙ぐんでる!?)いやだからそういうのじゃなくてェ!…ただ、あれから結構時間経ってるのに大丈夫かなって思って…」 「心配おかけしてすいません!それがですね、実は…恥ずかしながら、先程気絶してた時夢を見たんです…。 …アネキが超笑顔で大量のポイズンクッキングを抱えながら……どこまでも、どこまでも追いかけてくるっていう内容の…」 「………ゆ、夢で良かったね」 |