復活 | ナノ


もう二度と会えないと思ってた。



2.その町の名前は



翌日。
朝の日射しで私は目を覚ました。うぐ、吸血鬼の名残と悪魔の性だ、太陽が辛い。おかしいな今は半分天使の筈なのに。やっぱ私には闇がお似合いだとそういうコトかよ嬉しくねー。

昨日は結局、たまたま見つけた林の内の割と大きな木の上で適当に幹にもたれて眠った。ここなら誰も来ないだろうし、来たとしてもわざわざ木の上なんて見ないだろうと踏んだからで。疲れていたせいかすぐ死んだ。

さて、今日はこの町がどこかを確認するのと衣食住をどうするか考える日だ。

見回るには元の姿にならないとである。このままでは当たり前だが周りにとんでもない目で見られるだろう、漫画的表現なら両の目玉がまさにびよーんと飛び出る感じだろうか。赤ん坊の二足歩行とかどんな珍現象って話だもんな。

脳裏に身体が成長するイメージを描く。すくすくと…、


「(よっしゃ)」


うん、難なく戻った。まずは一安心である。
あ、服は身体に合わせて大きさが変わるから、ビリッ!キャー!なんて事にはならない。ホント何でもアリだよ天界魔界の常識。

よし、降りよう。
木から飛び降り、鏡がないので代わりに2m程の薄い板状の氷を出現させる。ちょっと見づらいがこれに姿を映して確認。

…なんか若干幼かった。

あれ、私魔界を出る前17、18歳くらいだったよね見た目は。基本最初の人生で死んだ時のままな年齢で魔界天界で過ごしてたんだけど。

まあそれは置いとくとしても、しかしこれでは中学生にしか見えない。…しまったバイトとかどうしよう。
もういいや、幻術でも何でも使えばどうにでもなるか。

そうだ、この目と耳は誤魔化さなければ。
耳は幻術で普通の人の耳に見えるようにして、目は現代日本ならカラコンがある筈だから、それを使うのも手だ。

…考えたら私無一文だった(加えて根なし草)。
諦めて耳同様幻術で両目とも同じ色にしておこう。

あ、そうだ牙はそのままでいいや。普段は見えないんだもの、そこまで神経使うのも何かヤだし。面倒とも言えるが。

…それにしてもお腹空いたな。考えたら私昨日の昼以来何も食べてない。お昼を食べてからはずっと修業してたし。
太陽が苦手な私は天使と違って陽光でお腹は満たされない。月光はご馳走なんだけども。昨日の夜少しは月光を浴びたけど、少なすぎてあれじゃおやつにもならん。
しかも吸血鬼時の影響が強い私は、定期的に人間の血を飲まないと栄養不足により衰弱してしまう。ついでに雪女時の影響も述べるなら、熱い食べ物も無理だ。…以前魔王様がビーフシチューをご馳走してくれたのだが(あの人顔に反して料理上手いんだよね…)、口にした瞬間舌が溶けておったまげたもんだ。仕方ないから凍らせて頂くしかなかった(魔王様は爆笑してた、ひでぇ)。
まさか往来の人を襲って血を頂くわけにはいかないし。仕方ない、今は我慢か。別に空腹なんて不老不死モドキの私には関係ない…と言いたいところだが流石に何日も続ければ動けなくなってしまう。それは何としても避けたいところ。

とりあえず今日は町にくり出すのが目的なんだから。最悪夜に月光を浴びれば持つだろう。

ああそうだ、服も変えないと。天使姿とか何のコスプレだ、恥ずかしすぎる。
幻術で適当に上下ジャージ姿にしておいた。…女の子らしさはとか聞こえない。

羽根も隠したし、これで大丈夫だろう。

あと、顔は最初の…本当の私の顔にしておいた。昨日の少年に絶対会わないとも言い切れない、まあ大きくなったからわかりゃしないだろうけど念には念をだ。

それに、この世界で暮らすならやっぱり本当の私に少しでも近付けてから生きたいし。
…中身はどうにもならないけれども。


***


林から出て町を散策してみる。
うーん見覚えさっぱりである。最初の人生の続きとは言っても知ってる町にまでは神様も送れなかったのか。チッ、肝心なところで役立たずな…まあ電柱を見れば住所もわかるかね。
近くのそれに近寄って確認してみる。

――「並盛町1-24」

…な、なみもり(読み方はこうだろうか)。
どこだ、わからん。何となく聞き覚えがあるようなないような…クソッ最初の頃の記憶なんぞ忘却の彼方だ。日本の地理なんて都道府県名と有名な場所とか自分のよく行ってた所くらいしか覚えてないし。

さてどーしたもんか…、


「名前ちゃん…?」


…道ですれ違ったおばさんに声をかけられた。

え、この人私の事知って…る?


「えっと…お、おはようございま、す?」

「名前ちゃん今までどこ行ってたの!?ううんこうしちゃいられないわ、早くお家に帰らないと!!」

「え?ちょ、ちょっと!?」


スイマセンどちら様ですかと尋ねる間もなく、突然手を引っ張られる。かと思いきや急におばさんが走り出したではないか。
な、何事ですかおばさん!私をどこに連れていく!?

…でも待てよ、さっき「お家」とか言ってたしもしかしてもしかしなくとも、

私の家がある?

本当の顔にしておいて良かった。きっと二回目の顔(さっきまでの顔ね)だったら気付いてもらえなかったから。アノ顔は正直言って異常に整っていて私には勿体ない代物だ。最初は何かに顔が映る度別人を見ている気分だったし。人外の血が入るとろくな事がない。
まあそのおキレイな顔も今では慣れすぎて何とも思わなくなっていたけど。

どこに行くんですかと訊いてもいいから付いてきて!という要領を得ない問答を繰り返しつつ、暫く走り続けおばさんの息が切れてきた頃(ごめんなさい私ピンピンしてる)――

…何だか非常に見覚えのある家が見えてきた。

表札を見ると“苗字”とある。
……間違いない、生前まで住んでいた私の家。
遠い昔の記憶でも流石に覚えてる。

そこでおばさんが何の躊躇もなくインターフォンを…、

連打した。

鳴り響くピポピポピポーン!音。

…ってちょっとォ!なんでそんな押しちゃってんですかアナタ!私だったらそんな呼び出しイタズラと思ってドア開けたくないよ!

まだ朝だ、細かい時間まではわからないが家の人はきっとまだ寝ているのかもしれない。返事がない。

でもそうだ、ここが本当に私の家なら私の大事な――、

家族が、いる筈なのだ。

どうしよう、年甲斐もなく泣きそうだ。最後に泣いたのはいつだったっけ。
出るのは雪女らしく、流れ落ちた瞬間凍る冷製の涙だけど。虚しい事ではあるけれど、適度に水になるように。…涙さえ普通に流せないなんて、本当に嫌になる。

視界がぼやけるのを感じながら、待っている間ふと考えてみる。

ここが私の家なのはわかるけど――周りの景色こんなのだったっけ?住所もさっき確認したけれど、私の住んでいた所は並盛町なんて名前じゃなかった絶対。走っている間に隣町に入ったかもしれない、だけど近隣の町だってそんな名前の所はなかった。これも勿論覚えてる。

え、どういう事だ。改名されたのか?


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