復活 | ナノ


それは私の知る世界に酷似した、



15.夢幻遊泳



おにぎり(&何がどうしてそうなった胃痛的噂…)事件の後の事である。
私は暑かろうが何だろうが、とにかく勉強に明け暮れていた。

事件は7月上旬だった、よって海の日前後に1学期は終了する事からそれも残すところあと2週間程。期末テストが目前というのは勿論、何とそのテストの結果次第で夏休みに学校で補習させられるという私にとって死の宣告を担任から聞いたからだ。

夏休み中は猛暑真っ只中。そろそろ言わずもがなでいいだろう、私ゃ日中外に出るとか死亡もとい解凍フラグがぶっちぎりでやべえ。霙女通り越して水女になれってか?弱点は熱から塩か。塩は水を吸収するからな。

…さて、自分で言うのも何だが努力の甲斐あってか、担任曰く最近少しずつではあるのだけれども成績が上がってきてるとかでこのまま頑張り続ければ夏休みの補習は免れられるだろうとの事だった。
(…まああくまで辛うじてレベルらしいけどね!残念!)。

…でもオタクの性というかね、たまには勉強も修業も何もかも休んで漫画読み耽ったりゲームに明け暮れたりしたいところなんだわ私。けどやっぱりそんな甘っちょろい事も言ってられないのが現実というか。
いくらオタク属性だとしても命+平穏>娯楽(という名の萌え煩悩)、の方程式は私の中では覆らな…くもなく、まあ脳内だけでなら見事にひっくり返ってますがね否定はしない。だがしかしそれはただの願望であって実際そこ通したらやべえのは頭でも勿論身を以て実際にも勿論…とは言いたくないが、まあ理解はしてるからな。とりあえず我慢我慢の連続なわけだ。
…ホント、せっかく自分の家に帰ってきたのに全然楽しめてないよねこれ。今更だけど。

とにかく筆舌に尽くし難い…とは言い過ぎかもしれないが、そんなお預け状態な私がこう思い至るのは必然だっただろう。

せめて夏休みさえあれば、と。

何故ってたまりにたまったゲーム欲だとか漫画欲を昇華できるんですよねだって学生の夏休みですよ。天国かな?
あ、リアル天国行った事もある(むしろいっときとはいえ永住を覚悟した)でしょとかいうツッコミはなしで。

よし頑張る。


***


よし頑張った。

そうこうして迎えたテストだけれども。
結果、順位は相変わらず下から数えた方が早かったものの、夏休み剥奪の刑だけは無事免れられました。人間やれば何とかなるもんだよね。まあ人間じゃないんだけどさ。でもただの女子高生だった私が奇しくも内容的にも人間やめる事になった(ほら腕っぷしとか腕っぷしとか腕っぷしとか…)のだから、底辺の人間でもこの世界的意味合いでない方の死ぬ気になれば案外どうにかなるものなのかもしれない。

いやあ消しゴム、つぶに進化させただけあったわあ。でもそれじゃ老化か?なんかもう自分でも何言ってるか意味不明だけど何でも良い、それだけ私は頑張ったって事だ!自分で言ってりゃ世話ないけど!

よし、夏休み入ったらもうおうち(というか自室)から出ない!首洗って待っててくれよな結婚候補達!(複数)
脳内限定だけど!




で、何だかんだでここに至るまでマジ武器シャーペンと消しゴムで武装してそれなりに無双(もどき)したわけだ。テスト直前なんてラストスパートよろしく教科書片手に修業したり驚異の10徹してみたり。
勤勉家の称号を入手できそうな程勉強していた私。ガリ勉か。両目が33になった。そして(萌)欲が禁欲レベルに達しそうで口も3だった。


「よし、じゃあさっそく乙女ゲーでもやろうかな!…と言いたいとこなんだけど。…寝る。」


ですが、しかし。

夏の暑さも相まって少々無理が祟ったのか。
はたまた結果に安心したせいか。

結果発表の日の夜。お風呂後真っ先に布団にダイブした私は、いつの間にかいつになく深い眠りへと落ちていた。

でもまあいいや。後数日で終業式、そうすれば夏休み期間である約40日は私のモノ。(宿題あるけど)。予想されるは無双の日々。趣味のだけど。そうだ、まんま無双もアリかなストレス発散には最適だしイケメン多いし。消えたのはこの世界そのモノだけだから生前揃えたゲーム漫画DVDはみんな自室にあるからね。この世にまつわるモノ以外なら何でもやり放題なんだし。
…現在のエセ年齢な中1までに買ったヤツしか手許にはなくって(何でそんなとこ忠実なんだよゴルァ)高3までの私のアイテム()はまさかの空白扱いでしっかり失せてたけど。

これからの明るい未来(予定)に思考を飛ばしつつ、その数年の空白いわばパクられた現実にちょいと涙目にもなりつつ、私は意識を手放した。

…お休み3秒なんてこの世界に来た最初の日、仮の姿での野宿以来じゃなかろうか。




「…いつの間に戻ってきた、私」


今いる場所に対しての私の第一声つか第一感想がコレである。
何故だか周りには見渡す限り立派な大自然が展開されていたから。
私はそこに一人寂しく突っ立っていた。

見上げればまさに抜けるような青空。頬を撫でる風。視界を埋め尽くす緑。そして私のすぐ傍にある湖。

それらの風景が、つい最近まで飛脚まがいの仕事(※パシリ)の最中頻繁に経由していた天界と魔界の間の世界『狭間』そのものだから驚いた。因みにふりがなはカタカナでハザマという。

そこで異変に気付いた。

周囲の自然がやけに大きく迫ってくる感じがする。
まるで自分が小人にでもなったみたいに。

私は若干イヤな予感とそこはかとない確信を抱きつつも、隣にある湖を覗き込んだ。水面に写る自分を見る。


「おおう…」


…小さな赤子が瞬きもせずこちらを見返していた。勿論それは今の私の姿。やっぱり身体が縮んでしまって…っていやいや何でだよ。


「…まじか」


しかも幻術が全て解けて二回目の人生時の顔に戻ってたっていう。

非対称な色の双眼、羽根も隠せていない。…ちょ、これじゃ初めて雲雀さんに会った時とまんま同じ姿…!
服は寝間着のままだけど…って、

いや、ん?寝間着…?

そうだ私は今テストの出来栄え(まあまあ)にホッとして死んだように眠りこけてる最中だった。私の身体は自室の布団で死んでる筈。
いくら神様だろうが魔王様だろうが地上にいる私を狭間まで連れてこられはしないのだ。彼等は世界を大まかにいじる事ができるだけで直接的な手出しは一切しない。というか出来ない。
それをするのは神様や魔王様に命じられた私の仕事(パシ…)。

…うん段々わかってきた。恐らく私は現在、随分と感覚がハッキリした夢を見ているのだろう。現に風が私の髪をさらう感触も伝わってきている。


「よいしょ」


身体を動かしてみた。
うん、普通に動く。

おもむろに口も動かす。


「声は…オッケー、ちゃんと喋れる」


ついでといわんばかりに適当な場所へ魔術を放ってみた。広範囲に渡り、突風が吹き荒れる。…あ、草木が薙ぎ倒された。夢の中で環境破壊とか。…。
…ま、まあいいよねコレ、私の夢だし。並盛の町中とかじゃあ、ないし。風紀来ないヨー。

ところで、なぜ魔術を試したのかといえば。

実のところ、とんでもない事にたとえ夢の中であろうとも攻撃をしかけてくる輩がいるからである。要するに返り討ちができるか否かを試した訳で。
身体が縮んで威力は半減してはいるが、まあそれは置いておく。

実際、夢の世界というその者のいわば精神面を破壊してそいつを無力化なんて作戦は二回目の人生でままあった事で。実にエグいやり方だと思う。
因みに一応死に物狂いで修業したので私の場合は壊す方も護る方も可能。魔術師たるもの現実だろうが非現実だろうが術を使いこなせんと!
…なんて、そんな誇りとか信念なんてのは建前ってやつで所詮私なんぞが持っているハズもなく、単に寝てる間に老衰じゃなく誰かの悪意でお陀仏なんてゴメンだったからってのが本音である。是非とも白い目で見ないで頂きたい。


「ぬる…。…で、コレも感じられるっていう」


中空に浮かび湖の水に手を伸ばしてみる。うーん、私だからか生温いわ。…ヒトにとってならば心地よい温度なんでしょうけれども。
適当に指でかき混ぜながら水面上を飛び回り、何となく物思いにふける。

夢とはいえ自身の幻術が解けた上にこの仮の姿という事は、私はそんなに無茶をしていたのだろうか。…夏休み補習は流石にイヤすぎたしな。

水に軌跡が走る。私にとっては温い水温だけどこれが人魚の性というか。昔から触れているだけで無条件に落ち着くみたいなのだ。
しかし不安は残る。ここは本当に何もかもがリアルすぎる気がするのは私だけかいや今は私だけも何も私しかいないんだけど。
確かに術攻撃とか可能ではある。しかしそれにしても水の滴る感触や温度があまりにもハッキリしすぎている…。

これじゃあ夢の中というよりも、


「――おや?僕と同じ精神世界に来られる者がいるとは…」


そうそう『精神世界』って二回目の人生時はよく言ってたな……って。

チラと後ろを振り向く。


「しかも空飛ぶ赤ん坊、ですか。随分と珍しいお客もいたものですね」


果物がいた。

あ、「ある」じゃなくて「いる」なのがポイントねこれ。

ってイヤアアア!ちょっま、ちが、背後に半永久的に会いたくなかった人物らしきお方が佇んでるんですけどォオ!?なにか私しでかしましたか!?

ついこの前ぶりの雲雀さん遭遇事件・おにぎり編が頭をよぎる。
(そして編とか付けられちゃう程バリエーションが増えつつあるという…グフッ)。

…既視感てんこ盛りなのは気のせいではあるまいよ。


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