やっと帰ってきたと思ったのに。 1.出逢い 「そこで何をしているの?」 私もまだまだだとふと思う。 背後に迫る気配に気付くのが遅れてしまった。声からして少年といったところか。多分男子生徒。クソッまだ残っている子がいたってか。完全なる油断である。 ちょ、おいおいこれが戦場だったらまあ今考えても仕方ないんだけども…ってそうじゃない、 やばい足動け!とにかく逃げなきゃ座り込んでいる場合じゃない立って――そう浮いて! …浮いた? 「…子供?」 「あわわっ」 羽根掴まれたァ!ちょ、持ち上げるならせめて胴体を支えてくれませんか羽根の付け根神経通ってて引っ張られるとかなり痛いんだってヒイィちーぎーれーるー! …うう、羽根隠しときゃ良かった、実は見えなくする事も可能なんだし(それでも普通に飛び回れる)、いやいやそんな場合じゃなくてだな、早く逃げないとヤバいこんな姿のまま迷子を理由に警察とか連れていかれたらシャレにならんて! 「ねえ、君みたいな赤ん坊がこの学校に、しかもこんな時間に何の用だい?」 「え、と…み、道に迷いまして」 「もう7時になるのに?」 「…」 だよね赤ちゃんが一人でいるのは変だし時間帯おかしいよね、まずい明らかに不審者だよ私。いや見た目は赤子だから不審者とは言われないだろうけどこのままじゃ確実に警察へ送られるだろう。 …この男子生徒(仮)がそうするかはわからないが。 そこで、羽根の痛みは我慢し頑張って首を捻り彼の顔を見上げてみたところ、ムスッとしてはいるが切れ長の目をした美人さんな事がわかった。 この学校の制服だろうか、肩に学ランの上着を羽織っている。…袖通さないんですか? 「ねえ、だんまりかい?」 「ヒィ!すみませんすみませんでも付け根がめちゃくちゃ痛いのでその前に離してもらえないでしょうか…!」 「…痛い?」 …。 ……。 やっちまった! あああしまった付け根痛いとか背中から生えてるって事になるし何より人として有り得ないせめて痛いじゃなくて取れちゃうとか言えば良かったそれならアイツがいつの間にか変えやがった今着ているムダにヒラヒラ服(天使仕様)にくっ付いてるだけって勘違いしてくれたかもしれないのに…! …さらっと流してくれないかな流そうよ流せって。 「ふうん…君ってまるで人間じゃないみたいだね。この羽根も本当に背中から生えている感触がするし…よく見たら耳も尖ってるしね」 「(寧ろ突っ込んできた!しかもこの男の子鋭いしよく見てんな!)」 「…まあいいや。じゃ、離すよ」 「ありがとうござ…うぎゃっ!」 音にするならポイッだ。お礼言っている最中にほっぽり出された。 まあいい今がチャンスだ、さっさと走って今度こそ逃げるため、彼に背を向けようとした。 「どこ行くの」 光った。彼の右の手元が。 月明かりで反射したのか、おそらく金属質の…あれは彼の武器だろう、いきなり振りかぶってきた。トンファーと呼ばれる武器だ。 ちょ、ちょっと何て物騒なコ!銃刀法違反とかガン無視ですか? 反射的に目をつぶ…るわけにはいかない。そんな事をすれば戦闘中なら命取りになりかねない。 この世界がどんな所かはまだわからないけれど、今目の前で攻撃をしかけてくる少年が危険人物なのは理解させられた。 「っ!(うっわ人間なのに力強ッ!)」 「!…ワオ」 私は避けずにそれを手で掴んで止めた。うおっ手ぇ痺れるッ! しかし何と二刀流だったらしく(まあトンファーだしね…)、片方は止めたんだけど左手にも隠し持ってたのか今度はそちらが迫ってきた。 仕方ないのでそちらも受け止める。これで一瞬だけ彼の動きが止まった。でもそれで十分。 今は短くて頼りない腕だけど私にはまだ力が残ってる。 足を使って床を蹴りあげ腕を支えに身体を持ち上げる。トンファー上で逆立ちする勢いだが、これで終わりじゃない。 私は紅葉型の手に目一杯力を込めた。両腕を曲げて斜め上、そのまま廊下の窓に向かって身体を押し出す。 「すみませんさようなら!!」 ガシャン!といかにもな窓ガラスが割れる派手な音と共に私はその身を夜の闇へと躍らせ、その場から退散する事に成功したのだった。 窓割っちゃってごめんなさい破片飛んで怪我してたらもっとごめんなさい少年。 あの後、学校を飛び出した私は空を飛びながら移動していた。道端じゃ何に遭遇するかわかったもんじゃない、さっきの様な事態はもう勘弁だ。 ガラスに体当たりしたけど、エルフお得意の防御術をぶつかる前にこっそり使っておいたので全然問題ない。別に使わなくても平気だが、ガラスの破片を後から払うのも面倒だし。 防御術は私に有害な物を排除してくれる素敵魔術だ。身体を覆ったり、広範囲に広げドーム状にして使う事も可能。これを打ち破られた事は使いこなせるようになってからは然程ない。平和にやり過ごすには防御も大事、必死こいて練習しまくった日々が懐かしい。 さて、今日の寝床はどうしようかと考えながらふと町を見下ろす。 「(私…帰ってきたんだ)」 そう、さっきは気が動転して忘れていたが、学校があって更にこの瓦屋根やちょっと新しいモノだと全体的にシャープなデザインを持つ――日本家屋が建ち並ぶ、町並み。 私はやっと最初の人生と同じ世界に来る事ができたのだ。 まだここが日本のどこかはわからないけれど、それでも構わない。 命を脅かす存在なんてない(さっき攻撃されかけたけど)この世界で今度こそ平和に暮らしていけるのだから。…人外でしかも不老不死モドキだから時折容姿を変えながら生きるしかないけれども。 強くなくたって生きていられるんだから、私はそれ以上なんて求めない。 大体、元々天使は戦闘を好まないどころか一切の殺生を禁じられているんだ、私は半悪魔天使だから除外されているけど。 ちょうどいいじゃないか、私だって戦いは好きじゃない。私の根本的中身はあくまで現代日本で生まれ育ったヒトのソレなんだから。戦いとか無縁極まりない絶対まじご遠慮願いたい。 …神様にちょびっとだけ感謝してやるか。 とりあえず寝床はどこかの木の上でいいや。これからどうするかは明日決めよう。 今日はもう、疲れた。 |