復活 | ナノ


因みに、毒物とかの心配はしていない。私が用意したとしてもんなケンカ売るようなマネはしない。
しかしそこはたとえ入ってたとしても私の敏感な嗅覚と鋭敏な舌が感知する。ほんと人外能力サマサマ。感覚がリアルな精神世界ならでは、といったところだろうか。口にしたって治癒術を駆使する私には解毒術も準備万端だから問題ナシっちゃナシなんだけれども。しかしながら身にはならなくとも、もし本当に入ってたら精神面が破壊されるので普通の人間は要注意である。
…まあ、そもそも精神世界云々って時点で『脱一般人!』だろうけども。

ただ攻撃とかは実力ってか精神力次第で威力は変わるから何でも思い通り、とはいかない。

当然「どっちでもいいから早く目覚めてくれ」なんて念じたって、やっぱりそうはいかない。




ごちゃごちゃと考えながらも自己紹介から始まり当たり障りのない、それこそ彼にしてみれば下らないはずの会話を以前とは違いすぐに目覚める兆候がないため暫く続けていた。

「このドラマが面白かった」とか「今日の夕飯は何だったか」とか――つまらないだろうに、彼は普通に相槌を打ったり時に表情を変えてきたりするから、内心自分の認識と真逆すぎておののきながらも、私もガンバって普通に対応していた。
(間違ってもオタク臭は匂わせていない)(はず)。

…といっても、今日はパジャマじゃないんですね可愛らしかったのに、ああでもその普段着も似合ってますよとか言われた日には爆発しましたが。ええいクソ、これでも羞恥心はあるんだよこのイケメンが!うあああ…。

彼の反応は計算なのか演技なのか…いや、それじゃどっちもどっちだな。しかし端からみればちょっぴり打ち解けてきた友人同士くらいには見えてるのかもしれない。組み合わせヘンテコだけど。髪型果実+流暢赤子、お互いオッドアイ…(ワァオ…)。


「ところで…名前は日本語を話しているという事は、日本人ですか?」


(不本意ながら)そうして程よく会話が進んだところで南国果実からこんな質問が来た。

アジア系は皆似た感じだし日本語を話すからと言って必ずしも日本人とは限らないだろうと訊いてきたのか。顔立ちで判断してくれって言いたいところだけれども、いずれにせよ今の私の容姿だとデフォルメの利いた何ともいえないカオだから判断しづらいような気もする。
とりあえず頷いとく。


「ええまあ」


まあ(中身はどうであれ)身体的には雪女吸血鬼etc…。
それらは所謂種族名なだけであって、正確にはどこの人?とは少し違う。しいて言えば雪女は日本系、吸血鬼は西洋系といった感じだし、エルフ&人魚も後者に近しす。西洋寄りだ。

少々思考がずれたがそれにしても、彼の様な頭の切れる人間にしてはちょっと不思議な質問ではある。
何か裏でもあるのか。


「えと、なん…」


危ね。


「…じゃなくって、六道さんはどこの生まれですか?随分日本語が上手ですけれど…」


んでまたまたとりあえず何食わぬ顔で普通に返した。
この世界の辞書(漫画)を集めていた身としては無論知ってますけども彼の口から聞かずしてイタリアですよねーなんてポロリしたらとか考えたくもない。…まあ、以前そんな挨拶されたからセーフかもだけども。
(だがしかし薄い氷は踏まないに越したコトはないからね!)。


「僕はイタリア出身ですよ。日本には………ちょっとばかり、興味がありまして。それで勉強したんです」


その間が不穏ですヨお兄さん。


「…まあ、元々少し馴染みもあったんですがね」


ふと、彼は聞こえるか聞こえないか程度の小声でそう呟いた。私の耳にはバッチリ聞こえたわけだが、特に追及する内容でもないので聞き流す。
きっと、六道輪廻とやらで日本語を習得する機会でもあったんだろうし。怖い。(ひどい)。


「…と、それより僕の事は名前で呼んでくれませんか?苗字だと違和感があるので」

「はあ……じゃ、骸さんで」

「呼び捨てでも構いませんよ」

「や、それは恐れ多いので」


そして何故に名前呼びご所望?まあフルーツ改め骸さん(彼には悪いが心の中で好き勝手に呼んでいたせいで普通な呼び方の方が私には違和感があるという)の周りで彼の事を苗字で呼ぶ人物はあまりいなかったような…?揃えたとはいえ細かい原作忘却の彼方だから自信は皆無だけど。
流石に呼び捨ては辞退しておく。口にした通り、色々恐れ多いし何より、こやつとそんな仲良しこよしになる予定は無いのだから!

だから、残念そうな顔はやめてくれよ何でこんな取るに足らない不気味な赤子にそんな表情になんの…。


「クフフ、残念です。…話を戻しますが、日本人なら今は日本に住んでるんですか?」

「あー…、そらまあ…」


普通の(嘲笑じゃないよ私限定?のやっぱり穏やかさだYO…)表情に戻った骸さんがなんか訊いてきた。
おっとォこれ以上詳しく尋ねられようもんならそろそろボロが出るぞ。町名とか訊かれたら何と答えれば良いのやら。嘘をつくにしても先程同様平然と返さなければ……あーでもリボーン世界の地名とかあんま知らんわな。
いちいち調べないだろうし架空の名前でもでっち上げるか…、


「ところで名前、日本といえば……桜ですよね」


何その話題。
…花見でもする気か?何食わぬカオで返しちゃうけど。


「んーそうですねえ、私の住んでる所はもう葉桜ですけど寒い地域なら開花が遅い筈ですからまだ楽しめると思いますよ。丁度こっちは春ですしね」


しかしさっきからティータイムだの世間話だのなんか穏やか過ぎねえ?明日は大雨か?嵐か?いやコイツは霧だ、濃霧か。じゃなくて。
何だ何だ、イタリアでは日本特集でも放映したのかい?

…いや、確か今はまだ彼はテレビとか見られる環境じゃなかったような…?いずれ脱獄犯になる輩、つまりは犯罪者が悠長に構えてられるハズがない。脱獄犯になったタイミングなんてそれこそ覚えてないが。

多分ヤツの転生知識。


「…さく、ら?」


てゆか、桜ってこの先なんかあったよね。
(目ざとく)首かしげられたから誤魔化しとくけど、直前の自分の迂闊さ馬鹿すぎる。おかげで嫌な予感しかしない。

私がここで要らん知識(ヒントとも言う)植えつけたせいで土がついたとか言われたらどないしよっていう。死ぬよ、凶器鉄の棒的な何かで。
いつか来るんだろう初戦、頼むからフラワーな話題は出してくれるなよ…。

…まあ今の私と普段の私じゃ似ても似つかないワケだから、結局は要らん心配なのだけども。


「本当に、懐かしい」


私の先の挙動不審を特に気にする事もなく、先程の呟きと同程度の声量でそう言うように、口から懐かしさを吐くように彼は言った。
目許は懐古、憧憬?不思議な色合いを見せていた。見ているこっちまで――背景を知らなければ――うっかりへらりと笑っちゃいそうな程には温度がある。実際笑いは出た。ただでさえ緩かった空気が更に緩みまくって、なんかもう夢で言うならほのぼのだ。リアル夢(仮)の最中だけど。
凶悪な犯罪者だという事実を一瞬忘れさせられた。

でもまあ、私には今んとこそんな雰囲気見せてきたコトないんだけどもね、魂胆など余計な疑りをかけずにそれだけを見るなら非常にありがたい事に。

やっぱそうなんかね、つまりは過去拾ってきた知識か思い出か――そう勝手に解釈した私が何か言う前に、目の前の甘い顏は乳白色で塗り潰されていた。




「全然寝た気がしないんですけど…」


翌朝。蒲団の中で特大のため息を吐かざるを得ない。
…あ、凍った。ごめん布。

前回とは違ってブラックアウトじゃないのかそうか黒と白の二種類があるのかなんて新たな(どうでもいい)発見よりも、まるでその思い出が何よりも大事なのだと雄弁に語った彼の目が表情が、


「カッコいいっちゃイイんだけど、ねえ……原作じゃ絶対しないようなのだから恐怖しかわかないよ」


目覚めたばかりだが直前までのあれこれのせいで寝起き特有のあのボケ具合もない私の脳内に鮮烈に刻み付けられているんですけどもこれ如何に。

…それは置いといて。


「もしかして……ううん、それしか考えらんないでしょ」


一つ、思った事がある。
気づいたと言ってもいい。


「クソ神は『私だけ』って言ったけど」


それってクソ神の支配、執行能力の及ぶ範囲での話だよね。
そして別にアイツは全知全能は全知全能だがそれは所詮“あの”世界、天界魔界に於てでしかない。
また、たまたま私が運悪…運良くアイツんとこにお陀仏したってだけ。

(危ね危ね、また余計なメに遭わされるトコだったゼ)。

つまり、だ。


「『クソ神の管轄内での被害し…トリッパーが私のみ』…って事じゃないの」


それなら色々説明がつくと思うんだよね。てゆかそれ以外にないよね。あっても私のショボい想像力じゃ思いつかない。

初対面の時から、その上不審者極まりない私みたいなのに(原作知らなきゃ)違和感なく自然に親切にしちゃうよーな、何だか丸い性格改変言い換えるならいわゆる原作改変をしてのけた程の、人物。

間違いない。
……私以外に、いるのだ。

それも極めて善人である可能性大。だってヤツを変えさせた程でしょう。これが悪人である筈がない。
男ならきっと主人公。女なら天使か女神か。

まァでも。願望だけど。ぶっちゃけるなら。エンカウント避けられないいつか、があるのならそうであってくれればとりあえず、悪いようにはされまいよ。
つまり偏に(結局とも言う)保身です。やっぱりです。


「トリッパーが、いる」


私からはありえないので向こうさんが発生させたそんなサブイベ的な何かで万が一出会わざるを得ないその時はそーゆーワケで、私にも好意的である事を祈る。


(2/2)
[back] [top]
- 46/48 -
×