復活 | ナノ


ところで、何ゆえ運にも左右される障害物アンド借り物競走(長いがわかり易さを取ったのかまんまな競技名だった)に必死になっているのかというと。

両親…主に父との会話に続きがあり、そこである約束を交わしたからだったりする。


「よっしゃ、名前!その女子達の見せ場だとかいう障害物アンド借り物競走で1位取ったら、たまにはって事でご褒美買ってやるぞー」

「えっほんと?じゃあ、ゲームでも良い系?」

「あー……なるべく安めで頼む」


未だにお小遣いが薔薇代にポイ・ポシャな私にとって数千円するゲームなんて夢のまた夢。本体とかもう中学生してる内はムリではないかとすらチョイ思ってる(ヒント?=バイト)。買えてせいぜい数ヶ月にやっとこさ一本か否か。ゲームショップとか、生前は眺めるだけでも色々発見があって(新作出た!とかイケメンだ!とか)楽しく癒されてたハズが視界をよぎるゼロの数により最近は何だか癒されない。
つまりこの状況はあわよくば……棚ボタ。

何が何でも1位ぶん盗ってやるァ。

邪な動機により私も体育祭に向けて、それなりに努力しているのだった。


***


「うはー…」


そうして迎えた体育祭本番。

お天道様は今日もぎんぎらぎんしてました。さり気なくない日光…を通り越しまるで光系魔術でも私に浴びせかけてくるようだ。要するに文句のつけようがない晴天。絶好の体育祭日和。どうでもいいが、防御術と日焼け止めはばっちりである。
まあ人外って肌も屈強なんかそこまで焼けはしない…というか私はその前に丁度まだまだ死ぬこの時期のアイスクリームみたいになるが。

ところで昨日あった縦割りによるA組のみの三学年合同の会議、だけれども。
脈絡なく棒倒しの総大将が――見たのは何気なしのお初な噂に違わぬ極限ぶりな、かの――京子ちゃん兄から沢田君にバトンタッチ(させられる)等のハプニングはあったにはあったのだが、ソレを除けばここまで特に問題はなかった。
私は例によって遠巻きに眺めてただけなので、今回は注意(と警戒)していれば何事もなく終わるだろう。

たぶん。

そして現在、私は大きく『A』とプリントされたタンクトップ型ゼッケンを被って上半身に身に付けながら、応援に来てくれた両親の許で激励の言葉を受け取っているところである。
彼等は校庭から少し離れた観覧席にビニールシートを敷き腰を落ち着けている。


「それじゃあ名前、私達はここから応援してるわ。ガンバッてね!」

「張り切りすぎて転ばないようにするんだぞ!…にしても、あっちの方が観やすいと思うんだがなあ…」


少し前の事。恐らくアサリな(フツーの意味で)ファミリーであろう集団から離れた場所に両親を連れてくるのに初っぱなから要らぬ労力を使った。
…いやつかマジ何でだよおおよりによって何故隣に陣取ろうとしちゃうんだよお母さんのバカァァ!確かにソコ校庭の真ん前だったから観やすいだろうともよ!でもねえぇ!?
…ハァ。ごめんお父さんここ確かに少し後ろだから観づらいかもだけど私が必死こいて避けてるのに親同士が仲良くなりでもしたら私的にはアウトなんだ。私の勝手な予想でしかないけど私の母とアサリなママンは意気投合しそうな気がしたのだよ。いや沢田君のママンてその大らかな人柄的に誰とでも打ち解けられそうなカンジだった気はするケドよ。
でもそれを置いといても、ですかるァ!


「じゃあ行ってきまーす。あ、例の競技は午後の部の終わりで一番最後だからお父さん。私頑張っちゃうからヨロシク」

「…お、おう」

「全く、お給料日前なのに安請け合いするから…まあいいわ、じゃあ名前しっかりね!」


パパンの哀愁とママンの呆れきった溜め息にちょっと笑いながら1-Aの整列場所へいざ出陣。
さて、まずは開幕式だ。


***


《それでは午前の部・第一種目、綱引きを始めます。まずは1年生からになります。始めにA組対B組です》

「いよいよ始まるね!私体育祭すっごく楽しみにしてたの、二人とも頑張ろうね!」

「京子は何でも楽しめるから良いわよねー…私なんか既に日射病になりそうよ…」

「(右に同じく…)」


最初の競技はアナウンスの言う通り全員参加型で学年別の綱引きからのスタート。京子ちゃんも言うようにいよいよだなと背筋がピンとなる。試合前の独特の緊張感はいつの時代も変わらんよなーとかふと生前に思いを馳せたり馳せなかったり。…や、私の場合は戦闘前って言い方のが合ってるか…。

京子ちゃんと花ちゃんと私の三人は開幕式の後、縄の設置された場所に一列に並んでいた。当たり前のように誘われ、今日一日三人で行動できるところは一緒に居ようという予定になっている。予定は何とやらの…未定じゃなくて恐らく確定さ…。

…はい、主犯は(勿論)京子ちゃんです。開幕式の直後私は捕獲されたのだ。ゲットだぜ再び!ってか。ついこの間の獄寺氏がふと頭をよぎり死んだ目になった私途端に体育祭似合わない。

く、くそー…私流されっぱなしだよしかしもう最近は断るのは不可能に近くなってきたってコトなんだねよくわかった。…ちょ、これから競技始まるのにその前から私HP減りかけてる。

A、B組全員が一直線上に整列し対面する中、小声で話しながら心の中で現状を嘆きながら。足許に置かれた縄に手を伸ばし持ち上げた。
雑巾を絞るように縄を握りしめ、開始の合図が鳴るのを待ち構える。もはや戦場の空気。

そしてこれは…私が力を込めたってバレやしないから目一杯引っ張ってやろうと画策してたりする。


「それでは……始め!」


審判役の教師が空に向かいスターターピストルを一発撃ち上げ、心臓に悪い射撃音が響いた瞬間。


「(オルァ!)」


私はピンと張られた縄を鉄棒代わりにぶら下がる要領で腕はそのまま固定しつつ腰だけを勢いよく落とし、久しぶりに修業以外で思いきり腕力を爆発させた。体重が残念な私は腕の膂力に全力で投球した。校庭の地面が私の踵形にて抉れ削られる。

間髪入れずにスターターピストルの音が再度パパンと鳴いた。
二度の連続音は試合終了の、合図。


「………えーっと、A組のしょ、勝利です!」


縄の真ん中にぶら下がる判定リボンを瞬時にA組側に大幅に手繰り寄せ、規定ラインまで一気に到達し決着がついた。引いたり引かれたりする綱引き特有の醍醐味もなく終わった。てか終わらせてしまった。
B組の面々は前方に急激に引っ張られた結果か、ドミノ倒しさながらに前へ倒れたり膝をついてしまった子が殆どだった。A組の子も何人か尻餅をついている。むしろ立ってるのは私含め若干名。
少し離れた所から「大丈夫ですか10代目!?」とか聞こえてきた。

…長年の歴史をさらけ出すとこうなるのか…。

皆一様に呆然としていたが、やがてA組の子達は歓声をあげ始めた。


「わあ…!やったね花、名前ちゃん!次のC組戦でも頑張ろうね!」

「ここまで綱引きらしくない綱引き、初めてだわ……ウチのクラスはゴリラ揃いなのかしら…」


京子ちゃんは普通に喜んでいたが、花ちゃんはそう呟きつつチラッと私を見たウホ。……ゴリラ認定すか?
いやいやいくら私がイチ立ちんぼ人だからって何故に私を見るんだ花ちゃんや。いくら何でもそりゃな…くはないみたいだケドねこうしてね!でもどっちかっていうと力に任せたというより素早く縄を皆が本気を込める前に引っこ抜いたようなモンだからね!
…たまたま目が合ったってコトにしとこう。

その後の対C組戦では一応自重はしてみた。
…が。

多少綱引きらしくなったもののまたもや短時間で勝利を納めてしまった。イマイチ加減の具合が謎。体育祭練習とか予行の時は手ェ抜きまくってたからねぶっちゃけ。本番で私がちょいとやらかしたらどうなるか見てみたかったというか…いわゆる好奇心でした皆悪かった。前と今ごめん。

とりあえず三学年全て終了したが、まだ始まったばかりなのでそこまで点差はなかった。若干A組がリードしてる程度。

私が出る次の種目まではまだまだ時間がある。
私は1-Aの待機席まで戻った。


***


競技は順調に進み午前の部はあと一つ、ホッピングレースを残すまでとなった。

その間に私は200m走を終えたが、距離が長く後半で失速する生徒が多い為その辺りを狙って不自然にならないよう1位を狩らせてもらった。もはやハントか。上手に獲れましたー!…ごめん。

…ゴールした瞬間遠くからまさかの私の聴力を以てせずとも「流石俺の娘だッよくやったぞ名前ー!」と喧騒を縫い切り声が届き、たまたま近くにいた山本君が「苗字のオヤジさんってスゲェ元気だな!」なんて感想をくれたりしたが、まあ普通に終わった。
顔が運動からではないところで赤くなるかと思った(父よ…)。

因みに山本君は100、200m走と出ていて両方とも陸上部のコを制しての堂々たる1位だった。流石。

ホッピングレースが始まったので、沢田君がピョンピョンするのを待機席から何とはなしに眺める。うん、微妙にハズいよな。…徒競走系で助かったってコトか私。
とりあえず食前で良かったねえ、と意味のないフォローを心中にて彼へ送っておこう。食後に胃が上下シェイクってそれ何て拷問。
残念ながらビリだったが、ゴールを決めた沢田君に獄寺君と京子ちゃん兄が近付いたのが見えた。何やらもめているらしい会話を私の発達した耳が無意味に拾う。

ついに二人とも殴り愛…じゃなかった殴り合ってしまった。ちょ、仲間割れて。

それを見たC組のやたら大柄な男子…多分先輩であろう人物が嫌味を吐くのも聞こえてきた。呆気なく二人にブヒーッとぶっ飛ばされてたが。いやいや…。

やっぱりそのせいで何だか周りが騒ぎ始めてしまったワケだが、私は集まりだした他クラスの人の波を掻い潜り集団に背を向け、両親の許へと向かい歩き出した。や、単にお昼を一緒に食べる為であって他意はないです。時は天使力でも振り回さない限り待ってはくれないよ。
京子ちゃん花ちゃんも親御さんの所で食べるそうで今は三人ともバラバラだ。

休憩を挟んだら割とすぐにクラス別対抗リレーがあるのだ、すぐにお昼を食べて食休みをしないと走る時辛いだろう。野次馬してる暇はない。
お弁当だからアツアツってコトはまずないだろう、手こずりはしないだろうがそれはそれ。

でもそれもそれ、実はお母さんのお弁当が物凄く楽しみだったりする。何てったって今日はお重まで用意して超豪華なお弁当を作ってくれてるのだから!(しかも生前以来と来ている!)。これは朝の食卓で確認済みだ。
そしてうっかり何の人外能力も活かさずごくごくただの人の域を出ないままつまみ食いしようとしたからか即座に引っ込めるコトとなった。理由は何かを察知したのかシンクから振り向いてこちらを凝視してた母をヒントに考えてみてほしい。

私は周りの喧騒を無視し、校庭の端へ足取り軽く進んでいった。
その際、校舎の窓に掲げられた得点表を見上げる。

得点は、A組が今のところ1位。このまま上手く……はいかないんだろうね、ハハ。

棒倒しについて、決着とか既に着いちゃってんじゃないのってなツッコミどころ満載なルール改訂アナウンスが流れたのは、それから間もなくの事だった。何でもA対B・Cでおっぱじめるそうだ。
やっぱりあいつらが原因なのは言うまでもない。

とりあえず、A組が優勝しますように。




ではなく、午後の部が無事に終了しますようにと、ロクな神じゃないとわかってはいても私は祈らずにはいられなかった。


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