復活 | ナノ


――そして、少し前からついにと言うか行く先々で感じるようになったあの“赤ん坊”の波動も、全力回避だ。

どーこーだー、ど、こ、で察知しやがった…!…まあ多分、獄寺君転入日の爆弾事件で目撃された時にでも私の何らかが彼のレーダーに引っ掛かっちゃったんだろうよ、クッソこれが見た目赤ん坊じゃなきゃ立派なストーカーだぞあんのガキャアァ…!

一応その際は一瞬だったから対面と言える程の長さではなかったけれども、あらかじめ私は球技大会の時点でしっかりアタマに刻み付けておいたので既にヤツの波動はバッチリ記憶済みなのである。そう、勿論いつでも全力で避けられるようにするためだった。近付く要因がこの先永遠になくともだ。だがしかし今大いに役立ってしまっている。主に向こうからの謎のアプローチとしか思えない(ただわかるのは恐怖しか刻まれないという現実だけだ)尾行紛いの波動キャッチ頻度に対してだ。

あと最後に、アレだ。浅はかな行動も慎む。

そもそも私の血みどろ人生からしてたかがにらみつけるされどにらみつける、そんなんド素人にかましたから罰として雲雀さんへの生け贄にされたんだ。これからはナニを言われようが菩薩の如しで生きていこうそうしよう。
そうさ私にだって一応は温厚と名高い(個人差はあれども)天使の血が流されてるのだから。…脳内がブッ飛んでるから無謀とも言えるが。
そうだ天性天使のカワ(略)ちゃん、つまり京子ちゃんとなるべく一緒に居れば感化されて少しは違う、カモ…?

や、ソレ本末転倒じゃんか…。


***


そしてそんな決心(無意味に近いのも混ざりつつも)をしながら迎えた今日。現在男子の体育を見学している最中である。

種目は野球。野球といえば1年生にして早くもレギュラーの座を獲得している凄腕中学生――山本武が、只今目の前で大活躍している。

彼も獄寺君とはまた違ったタイプのカッコよさだよね。まさに精悍な顔立ち、見た目も中身も爽やかだ。…ホホッ、彼の血は健康に良いスッキリした味がしそう。だってさ、確か実家お寿司屋さんじゃなかった?魚とか沢山食べてそうじゃない?いいな私も食べたいナー、

…とは、実のところならなかったりする。
物凄く余談だけど血的につまり――人魚的に、共食いにあたるので大分抵抗があるからである。二回目以降の人生で海鮮系は微妙に弱点な私。並盛商店街の魚屋とか近付くだけで地味にMPが削り取られるという。いや、だからと言って彼に近寄ってどうこうなるって訳ではないんだけどさ。…アサリ的にはHPまで根こそぎ奪われるがな。
いやしかし私の見立て通りヨきっと、だって魚をよく摂取する人間のはサラサラで口当たりの良さが如実に引き立ってる味がするって相場が決まって…!…ゴホゴホゲフン。今朝薔薇吸ったでしょーよ自分我慢しろそして咳き込むフリするとまんま喫煙後みたいである。果てろ!(私の煩悩が!)。

しかしてそんな野球少年くんは授業開始時、チーム分けにて最後まで仲間外れにされてた沢田君を自分側のチームに入れてあげた訳だ。普通にいい奴である。ますます血が…中身もグッジョブな人間はホント美味しいんだってェ!

ところで、周りの女子達はたけしー!と大騒ぎしている。私の良すぎる耳にはちょっとした…いや、とんでもハップンなダメージになっている。さっきから爆音に近いそれらだけでライフがけっこう削られたんだが…若いコのばくおんぱ(失礼)、侮りがたし…。
…いっそのコト私も負けずに叫べば良いのかな…たっけしクーン血オイシソ…じゃなくてまじイッケメーン!…彼にあらぬミスを誘発させそうだな。そして突き刺さる彼女らの恨みの視線ってか。予想されるは鼓膜傷害(罵倒)と肌裂傷(冷眼)と胃痛(精神的苦痛)の三重苦。とりあえず耳に氷でも詰めとくか、目からイイ感じに精製されてきたし…。

そして試合後。
沢田君の入ったチームはたとえ野球少年が腕を鳴らしかっ飛ばそうともやっぱりと言うか負けてしまい、男子達は腹いせのつもりか沢田君一人に後片付けをやらせていた。
おおう、中学生くらいだとすぐそういう事しちゃうんだねオバ…オネーチャンから見るといけないねぇこれだから若いモンはなっとらんねぇ状態でつい咎めるような視線を送ってまうよ。

しかしそこでは終わらない、何と野球少年がヘルプに入っていくではないか。うむ、ホント出来たコである。…アサリな関係さえなければ話くらいできそうなものを。
遠巻きに見つつ、いやそれはそれで嫉妬に狂った女子による三重苦直行やんあっぶねーあぶねーなんて思ったり。

あら、なんか沢田君に野球少年人生相談してる。何やら深刻そうである。ぶっちゃけ超聞こえるけど、立ち聞きは良くないだろう。

私はその場を離れ、更衣室へ戻った。
そして、この時の私はすぐに彼らの会話内容は頭から追いやってしまったのだった。

それと言うのも、日陰への恋しさで脳内が一杯だったから。だって、野球って基本お外だもの…。
華麗にホームランされたのは何もボールだけではない、私のライフも然りだったからである。


***


そして明くる日。よりによって私は珍しく寝坊をしてしまい、雲雀さん以下風紀な方々に見付からないよう警戒に警戒を重ねつつ、大分遠回りしながら並中玄関を目指していた…波動で今までに会った事のある風紀委員は避けられるからそうしたが、無論全員の魂を知り尽くしてる筈もないのでいかんせん限界があったからだ。

言わずもがな遅刻である、因みに並中に通うようになってからは今回が初めてだ。
抜き足差し足コソコソ…、


《…ッやりすぎだぜ山本!》

《たけしくんお願い!やめて!》


…?何やら屋上が騒がしいような。
私のエルフ耳が敏感に言葉を拾っていく。

ふと見上げてみると、太陽貴ッ様ァ!的にまたもや目を焼かれかけ僅かに打ちのめされたものの、フェンスの外に突っ立っている男子生徒の姿を認める事はできた。

…って、え?外…え?中じゃなくて?

えええ何事…落ちたら普通の人間じゃひとたまりもないぞ。グシャッ…おっと失礼、まあとりあえずR18だぞグロさ的に。因みに私は見慣れとります、いつぞやの校庭での雲雀さんによる咬み殺し現場を顔色一つ変えずボケーッと見物してたくらいだし。
…イイ人間の中身だと喉の渇き的には危ういけれども。勿論主に紅いの。

いやしかし私の死にかけ焦げかけおめめがしっかり認識してしまったが、あれに見えるは野球少年ではないか。…あー、何か思い詰めてるっぽかったっけ…。
命懸け、と言ったら大袈裟かもしれないけれど、それ程に彼にとって野球は大事なモノなのだろう。…いやいや、ってかホントにこのままじゃ命懸けどころか肝心の基盤である命を、比喩的にではなく物理的に懸ける事になるぞ…。

だからこそその野球のやりすぎか、右腕を首から包帯で吊るしている。恐らく骨折してしまったのだろう。
…治癒術を使ってやりたいところだが、当然そんな人外技を披露できるはずもない。だけどもそこまで頑張る子、あんま私にはないし自分で言う事でもないけど、天使本来の慈悲深い性格が動きそうである。勿論、思うだけなのだけれど。

沢田君と会話してるのが聞こえる。
少しのやりとりの後、思うところがあったのだろう野球少年が、立ち去ろうとしたらしい沢田君を引っ掴んだ。

…引っ掴ん“ブチッ!”でウフフそうそう、ブチッ!と《キャアア!!》《うわああっ!!》うん?何だい皆してそんなに私の鼓膜ライフを削らないでくれよって…、

…。……ぶち?悲鳴?

っておいちょっとォ!フェンスぶっ壊れただとォオ!?
当然ぽーんと落っこちてくる二人…、

ヒエエェ、もう考えてる場合じゃあ…!


「(…チ、チチチックショー!――おいでませ大気ィ!)」


結局、二人がゆっくり落ちるよう咄嗟にありったけの空気をかき集めた私は、下から割と大型な風系魔術を――ぶっ放した。
グオ、と周りの気団が揺れ動く。

呪文とかハズすぎなので全部セリフは脳内放送、続けて「唸れ風よ舞い上がれェ!」なんてやはりの心の中で叫んでみる。――そう、声に出す必要がないくらいには威力はお墨付き(だと思いたいです)?何と言っても二回目人生にて自身の(平穏のために)体力精神力のみだけで、いわゆる術の元になる『モノ』があろうがなかろうが(今回は大気があった訳だが)魔術を最大威力でぶちかませられるよう文字通り死に続けたからねRPG風に言うなれば無詠唱ねバッチコイ!何たって私の命とそして人間と引き換えだからなフハハハどうだ参った…どこの悪役だよ。しかもザコ。

でもまあ、いきなりその場で浮くのは流石に不自然すぎるので(既に手遅れ?何のコトかな…)、最初は弱くそのあと少しずつ強まり上手く着地できたように見せかける特殊な風にしておいたけども。

それにしても、ワオ何て珍現象…うむ、よし見てないな。此度は波動は大分遠くにござんした。それこそ屋上は今は群れだらけ、あの悪夢・体力測定日の如くいらっしゃるハズもなかった。…なんか、かの某風紀委員長サマ(ほぼまんまじゃねーか)とは色々イロイロあったせいか私過敏になっとるよ何この私のチキン魂を肥やす副産物。いっそ誰か咬み殺してくれ私のそのチキン魂のみを。…彼本人に頼めばオールで私の魂まるっと殺ってくれるだろうがな。

…しかし、そんなアホウというか保身をこの非常事態にぐわっと想像したのと同時に。

落下速度が段々落ちる中、銃声が聞こえ沢田君のデコに銃弾がブチ当たるのを見切った私は、その瞬間しまったと思うと共にあるフレーズもぐわっと頭をよぎった。

“――浅はかな行動は慎め”

だよねーこういう時のためにアナタいるんだもんねー沢田君(=生徒)を成長させるチャンスとやらだもんねー…。

…やべえ。つい風舞い上げる時両手上に向けちゃったんですけど。いかにも、


「私魔法出しちゃいました☆ミ」


ポーズなんですけど。突然の流れ星申し訳ない。効果音はぽいん。…まあ私の場合は魔法じゃなくて魔術だけども…や、あんま変わんないじゃん。むしろ私的には自由に何でもできんのが魔法であってこちらが魔術よりは上つまりアリバイや保身に最適、そうそれならば私は今こんな羽目に陥っているハズがないのだから。ハソポタじゃないのよ私は残念ながら。


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