▼4ゲット 「すごーい!何これ何地方!?…って、世界が違うんだから掠りもしなくて当たり前かあ」 思わず感嘆。「私がいたのはとある島国の上の方らしいけども」と続けて呟く。 場所は江戸。それのどの辺りかまでは生憎私は知らないんだけど、お母さんだってそれだけは教えてくれたし周りの人間がそう呼んでいるのも耳にした。 昔何だかヤバげな妖?いや人間だっけ?とにかく、そんなんが大暴れしたとかでそしてこれまた何だかすんごく強い妖がきっちり退治してくれた、らしい。――らしいんだけど、仲間の残党も粗方狩られたとはいえ何があるかわからないからと、お母さんに大きくなるまでは行かないようにと口をすっぱくして言われ続けた場所。 多分お母さんは私が興味を持たないようにと、教えるにしても街の名前のみとそんな恐ろしげな話をしたのかもしれない。けどごめん!ポケモン世界だって悪いやつとか悪い人間はふつーにいるつまりはどこの世界にだっていいやつも悪いやつもいるって随分昔から知っちゃってる私には「コウカハナイミタイダ…」なのよ! うちんちは山の裾の辺りとかいうまるで隠れ住むためにあるような位置に建ってるんだけどちょっと行けば人里に出るそれが江戸。 元々ポケモンなんざ人とつるんでなんぼ。折角近くに人が沢山いるとわかっているのに指をくわえて見ているだけなんて!(見てないけど)。 心の年齢は前世+3。多分人間で言うとこの13、4歳は越えてる、はず。 よってのーぷ…ノープログラム?なんか違うような気もしないでもないがとりあえず問題はないって事だ! だから今日から私も江戸デビューよ! しかし美味しそうな香りがめちゃめちゃする(イーブイって少なくとも人よりは何倍も鼻がいい、そしてそれは擬人化時でも変わらないみたいなのだ)お店達がずらりと並ぶ大通りみたいなとこまで来て問題発生。 「お金もなければ三歳児じゃ下手したらジュンサーさん行き…!」 ジュンサーさんとは人間世界で悪いコトした人を取り締まる人達なのだけれども、この容姿じゃ行く先を間違えたが最後だろう。ここでは何て言うのか知らないけれどそんな人間または妖に見つかったら!そしたら最悪お母さんにまで話が行って嘘ついて出てきたのがバレてしまうそれはまずい。 どうしよう人間怖い。 「なーんて、見て回れるだけでもいーや、ってね!」 危ないお店には近づかなきゃいい話だし! …そんな決意をしたのが数十分前。 「お嬢ちゃん可愛いねぇ」 「お菓子をあげるからワシらと一緒に来んかのぅ?」 街の始まりから歩いて暫く、化猫屋ちょーイイニオイするー、と恐らく仲間(ポケモンじゃないよ妖って意味だよ)な猫耳をちらつかせた看板娘さんの笑顔が眩しい定食屋さんみたいなとこにふらーっと引き寄せられたのが運の尽き。 あらよあらよとひと気のない裏通りみたいな狭くて暗いとこに押し込められてしまった名前さんなのであった…。 「しっかしこれはまた随分と上玉な…ぐふふ」 「将来が楽しみじゃのう。ヒッヒッヒ…」 「…」 いかにもというか、脂下がったよだれ垂れ流す直前みたいなオッサンの数は二人。どうもこいつらそういう趣味でもあるのか二人して下卑た笑いを浮かべながら「小さい娘はそそるのう」なんて舌なめずりまでしてる。…うえっ。 …何か身の危険をひしひし感じる。まさにとくせい・きけんよち…。 「あのう、私、お母さんのとこに帰らなくちゃなんで――」 「まあまあそんな事言わず、に!」 「ぅ、わっ!?」 片方に腕を引っ張られそうになり慌てて後ろに下がる。もう一方も同じように来たから適当にいなした。 というか、いなせた。 「…んー?何じゃ、お嬢ちゃん見かけによらずすばしっこいのう…」 「おかしいのう、今確かに掴んだと思ったんじゃが…」 所詮三歳児の一歩いっぽなんてたかが知れてる筈なのに「スカッ!」てな感じにエロオヤジらは空振りしてたのがワケわかんなかったけども儲けた! その時、何だかずっと聞いていたくなるような声が背後から聞こえた。男は男だが、こいつらとは雲泥の差の声。 「おいお前ら、うちの店の近くで何してる」 振り向くと、大通り側だったため逆光になっていまいち顔はわからなかったものの敵ではなさそうだった。証拠に、殺気は私をよけて二人だけに向けられている。 声の感じから若いお兄さんっぽかったように思う。 「ああ!?何じゃ貴様は…ぐわあ!」 「あっ待たんか…ぎゃあああ!」 メンチ切ったクソオヤジ1も私を再び捕まえようとしたクソオヤジ2も私がお兄さん?の脇にダッシュした時には全てが完了していて、抵抗虚しくドサドサッ!という折り重なって倒れる音が背後で二つ聞こえた。 何か「首が…!」とか聞こえた気がする。 …よくわからないが、どう聞いてもお兄さんがしばき倒してくれたのだけは確かだった。 「おにーさん!助かりましたありがとうございました!」 私は声帯にありったけの感謝を込めるつもりでこの世界に生まれてから確実に一番であろう大声でお礼を叫ぶと、急いでお店付近の路地裏から脱出を図った。 「あっ君…!」 …図れた事から、腕を掴もうとしたお兄さんをも私は容易くすり抜けたらしい。 でもちょっと今それどころじゃないんだごめん! いや、だって普通に怖かったんだもの! お母さんの話からてっきり暴力沙汰だと思ってたのにこんな身の危険なんて! …まじでサンダースになろうかしら。素早さダントツだしな。 石ないけどな(進化に必要なアイテムなのです)。 「今の娘(こ)……いや、まさかな……」 *** 『流石お母さんの顔…』 言い付けを破ったのは自分。自業自得とはいえ、この顔で大人になってからならまだわかるような気もしないでもないがいきなりの誘拐手前むしろ痴漢手前?三年分の我慢によって膨れ上がったこれからという楽しみをぶちのめされたのもあって私はけっこうなショックを受けていた。 『…なんてね、シリアスきらーい!次は気を付ければ…てゆか、イーブイの姿取ればいいだけの話だしね!うん!』 私は諦めんぞ。 だってまだ何も江戸とやらを楽しんでいないのだから! …それにしても。 『うあああ早く進化してー!そしたら超強力な攻撃だって浴びせてやれんのにィィ!』 駆けながら叫んだ。 命からがらというと大袈裟かもしれないけど、私は今先のお店からけっこう離れた所まで走って逃げてきていた。またさっきみたいな絶体絶命はごめんだから途中でイーブイの姿になって。 つーかバカだろ私、今言ったようにこの姿でかみついてでもやれば良かったんだ!何ならスピードスターでも!(技)。 しかし私がした事といえばバトンタッチ(技)。 『きれいな声だったなあ…』 顔は結局認識せずじまいだが声は覚えた。いつか会う事があったらその時はきちんとお礼をしたいと思う。…お金ないけど。 嗚呼それにつけても金の欲しさよ…。 『クソッ、今度あいつら…は懲りただろうけども次にまたああいう女の敵見つけたら火あぶりの計かはたまた水攻めか…うがーッ!しーんーかーぁ!』 物騒な怨嗟と野望(?)を吐き散らかしている時だった。 「うえーん、いたいよぉー…」 道端で転んだのか膝小僧から血を流す男の子、推定四、五歳くらいの子供を見つけたのは。 (今は私のが子供とか言わない)。 『…』 …しかし見つけたところで私に出来る事はない。 せめて泡はきポケモンである水タイプなシャワーズにでもならない限り。 そしたら綺麗な水なんていくらでもあげられるのに。傷口を洗う分を用意するなんて訳ないのに。 『でも、見捨てるのも寝覚め悪すぎるよ…あーあ、今だけでもいいからシャワーズになれれ』 ぼふん。 …再び。 いやむしろ、今回はピッカー!て感じだったかもしれない。 今一番欲しいモノを言い切る前に、視界が微妙に高くなったのはその直後だった。 |