▼3ゲット さてさて何やらまじで人間いや妖?の姿になってしまったイーブイこと私名前さんですが。 ばぶぅ。(って人間の赤ちゃんは話すんだよね。…ってあれこれ二回目?)。 「あなた、やっぱりもう話せるの…!?」 「やっはい…?」 あっ。 「ああっほら今も!妾の言葉繰り返したんじゃ、」 …ヒッ!?鋭い…!? しまった、ポケモンってのはこちらの言葉は人に理解して貰えなくともあちらの言葉は理解出来ちゃう訳でそんな前世の記憶を何故か現在進行形で維持してるもんだから、つい…。 「(…はっ!)」 ま、まままさか……このまま弁明しないでいたら気味悪がられて捨てられちゃう!? …腹、くくるか。私周りのイーブイ見てて思ったんだけどあんま頭良くない方だったからこの先も精神年齢からして咄嗟にありえない言動取っちゃいそうだし。若くして死んだとはいえ確か10年くらいは生きてた気がするからこのまま前世を引きずるなら中身はそのままなのだ。…絶対いつかやらかしそう。 ていうか、そもそもポケモンにただの身のこなしならともかくそんな高度な頭の回転求められてもね、頭パーンしちゃうだけだからね!頭がだいばくはつするよ! …よし。 こうなりゃ前世の事とか必要そうなら随時明かすとして―― 「お、おきゃーさん、…ほんにに、は?」 とりあえず挨拶からだ! *** あの挨拶の後、喋れる事を。 何でかって事で怪しまれないよう(ていうか捨てられないよう)にするために前世の記憶のある事を。 それもこことは違うらしい世界に生きていた事を。 私はどうやら妖でありながらその別世界ではいるのが当たり前だった存在の内の一匹、ポケモンでもある事を。 さくーっとバラしてみました。 ああ、あとの二つは暫くここで生きていて段々わかってきた事だからちょい後の事ではあるんだけども。 「…」 「あら、どうしたの名前。そんなに木の上を見つめて」 どうやらお母さんを見くびっていた事になる私は、今でもきちんとお母さんの娘としてすくすく成長中なのでした。 そして早いもので歳は既に三歳、赤ちゃんから幼児に進化したかんじです。 ご飯それにおしめとかは勿論爆発しました。 そんなこんなで、今は自宅の縁側にてお母さんの膝を枕にごろごろひなたぼっこ中、なんだけど。 あ、一応言っとくと、会話出来てるため人型だったりします。うーん、お母さんの膝柔らかー。 …お父さんもやってもらってた事、あるのかな。 「んー?…何でもないよ、お母さん。ただ、そろそろ進化出来ないかなあっておもっただけで」 「しんか?ああ、確か姿形が変わって強くなる…だったかしら?」 「うん!」 自己分析してみたんだけど、どうやら私はよっぽど衰弱でもしていない限り望んだ時に望んだ姿を取れるみたいだった。 ある時はポケモンとして元のイーブイの姿に、またある時は人間混じりの妖として人間の姿に。 ――お母さんをそのまま小さくしたかのような、姿に。 原理はわからない。 だけど、どんなに待ち続けていてくれたのだろう。そんな自分でさえよくわからない存在の私を、『どんな子であったとしても妾の――あの人とのやや子である事に変わりはないわ』と、お母さんはすんなり受け入れてくれたのだった。 だからこそ、 「私お母さんの事、こんなに大好きなのに」 そんなお母さんのために、私は何かしたいと思うのだけれども。 いつからだったろう。私がお母さんを好きになるのは早かった筈だ。それなのに未だに進化の兆しが見えないのが腑に落ちない。 ポケモンから人間、またはその逆は自由自在なのに。 最初からそうなのに。 「っ!名前、……ありがとう」 お母さんが泣きそうな顔で笑う。 「でも、いつも言っているけれど、いくら妾達が貧しくても妾はあなたがいてくれるだけで幸せなのよ。だから…気持ちは嬉しいけれど、どうか危ない事だけはしないで。あなたまた山で獲物と取っ組み合いしてきたでしょう。毎日満足に食べられない妾のためにって」 「…う、」 バレてる!? 「だから、進化なんてされたら余計に心配になってしまうわ。だって木の上なんて簡単に登ってしまえるんでしょう?…日々の糧を捕えるのも。だから進化したいって、そう言ってくれるんでしょう。優しい子ね」 「…」 何もかもお見通しってやつらしい。流石お母さん、全くもって誤魔化せてない。 普段怪我したところでどういう訳か私の傷の治りはいくらポケモンだろーが前の世界じゃ考えらんないくらい異常なスピードを誇るからあんまし気にしてないんだけど、服の汚れはどうしようもないからね…。 基本イーブイの姿でご飯と戦うとはいえ人間の姿になった瞬間その場に脱ぎ捨てられるそれは大体巻き添えを食うのであった……とかではなく、何故か連動しているらしいイーブイの姿と人間の姿は服を着ててもイーブイになればどっかに行っちゃってるし、人間の姿に戻ればいつの間にか直前に着てた物がきっちり着用状態で戻ってくるのであった。 とはいえ兎を追っかけ猪と格闘する頻度がやばすぎて、服も私自身もどろんこになって帰ってくるのなんてしょっちゅうで。つか、ほぼ毎日な気がする。だってお金ないんだもん。早く働きに出られる歳になりたい。お母さんを助けたい。 お母さんが今の私にとって全てだから。大好き。 お母さんは昔寺子屋っていう前の世界でもポケモンの事を学ぶ施設があったようにつまりはそんな学校みたいなとこの先生をしていたらしいのだが、私を産んで妖とはいえ元人間であり弱い部類に入るという彼女は、家事こそ何とか出来るもののとてもじゃないが働きに出られるような体ではなくなってしまっている。 人間やポケモンには想像もつかないような久遠を生きるのが本来の妖らしいけれども、どう見てもお母さんには当てはまりそうにないのが現実だった。 だから日々の糧、主に近くの山で食べられそうな動植物を探すのはポケモンでもある私の役目だ。まだ三歳だからなんて言ってらんない。イーブイは弱いからなんてのも言ってらんない。動ける私が木の上の木の実も、山にいる動物も狩るしかないのだ。 …たとえ本当はお母さんは私を一人であまり外に出したくないのだとしても。 膝枕のように、ここでの私のお父さんがお母さんに同じようにしてもらってた事があるのかとかを知らない私は、今も猶お母さんがこの家にシングルマザーとして暮らす理由も勿論知らない。よくわからないが、お母さんが話そうとしないのだ。だから私も何となく訊かないで、訊けないでいる。お父さんと名のつく一切を。 だから未だに顔はおろか名前すら、知らない。 正直、お母さんには悪いがお父さんに対してあまりいいイメージを抱けないでいたりする。 けれども憎い男の子供だと考えるにはお母さんは優しすぎるから、こんな素敵なお母さんを捨てたなんて…とか、多分お父さんを恨むのは筋違いなんじゃないかってのも薄々気づいてる。ほんとはわかってる。 結局、ざっくり纏めるならお父さんに関しては複雑ってやつなだけだったりする。 「あと、悪い人や…あるいは妖に何かされそうになったら、たといその時人の姿だったとしても迷わずイーブイの姿を取ってでも逃げるのよ。妖は色んなのがいるから何とも言えないけれど、人ならまず追い付かれないんでしょう?」 「…うん、まあね。そこらの犬と同じくらいにはイーブイも走れるし。人はそこまで足は速くないよ」 だからこそ、今はここにいないお父さんと違い、お母さんのたった一人の家族にして唯一である私に何かあったらとお母さんは気が気じゃないのだ。 だからこうしてお母さんは毎日のように何かしら忠告をする。でもそれが嫌な訳じゃない。だって気持ちが痛い程伝わってくるから。私を思っての事なんだって、ただの三歳児じゃない私にはわかるから。 |