▼20ゲット と、思ってたんだけど。 私の感覚はいい。悪意があればなおのコト。この髪に頂いた視線の時とかとってもいい例。 だからそう、人の目とか。ぽいぽい拾っちゃう。因みにあんま嬉しくない。だって、知らなければ心安らかにいられる事もあるから。まあこれが無けりゃ無いでストーカーとか気づくの遅れるから良いんだけど。 そこでさて今回はどんな意味意思意図が含まれていたのやら。 「名前ー!ちょっといー!?」 「あっ、はーい!」 店長と親しげ…っていうか、店長に一方的にどつかれてた縦じま(着物)なお客さん。悪意こそないけれど、私が店に出た瞬間・「いらっしゃいませー!」らへんから頂戴しまくってるそれになんか熱視線だなーとか思ってると、お店の奥から同僚に呼ばれた。人手が足りないらしい。 お客さんだが、これはまた珍しきかな不思議な縁(えにし)かな。ぬらりひょんさんにクリソツな髪型(あ?でも色は対極だ)した男の人だった。うーん、流行り…? あたまにハテナを浮かべながら、私は厨房へと入っていった。 とりあえず私はといえば、仕事がお皿なだけもなく無論表にも立つからそれなりに忙しくって、髪に思わず目が行ったとはいえ目を合わせてる余裕はなかったけど。 …もしかして、妖ってバレた?それはまずい。 バレたら絶対働きにくくなるもん。 表から店長の怒り狂う声が聞こえたのは、私が奥に引っ込んですぐの事。 これじゃ人間世界の童話にいるとかいないとかの人魚…とゆか、中途半端だからどっちかってーと魚人?お店にいる時はこの世界ワンタッチじゃないから(昔メイドさんがやってるのを見た)お釜とか火が必要な時以外基本この進化形取ってるし。因みにそん時は赤毛になるので無論バレないようにやるのがミソ。 まァあれよ。鼻と同じ。耳も悪かあないもんだから、奥にいたにも拘わらず他の人に比べてモロでびっくりした私は動揺して危うく水色(濃いめ)なお耳としっぽがお出まししかけましたと。あっぶね。 ◆◆◆ 権力を笠に着る趣味はねぇが、結果的に最高の使い勝手を誇ると言う外ないのもまた事実。 見張りの前からいつも通り(女将にしてみればいつの間にか)消えていた自分。だが行き先は店の外…ではなく、奥だった。しかしここでいきなり本人の後ろに突っ立てば首無の折角の忠告も結局は水の泡。 だから、ここは『彼女』にも一芝居打ってもらう事にした。いや一芝居っつー程大層なモンでもねぇんだけどよ。 伝言を頼んだ。 その娘はオレの姿を見るやいなや騒ぐどころか顔を真っ青にさせた。何か不手際があったと思ったらしい。「別にいちゃもんつけに来た訳じゃねぇんだ、」と目的を切り出せば(っつーか、本来なら文句言われて当然なのオレだし)、見てるこっちが可哀想になるくらい首を縦に振りながらまるで突風かなんかのように飛んでいった。 この店において名前を除けば唯一妖なのは、前から飯を喰いに(頂きに)来ていて知っていた。だからそのコに頼んだ。それに見ていて思ったが、名前とも仲良いみてぇだったし。というより、名前が先達として頼りにしてるみてぇだった。妖同士ってのもあるのかもしれねぇ。 素性は知られているだろう。が、もし知らねぇようなら好都合。丁度今の彼女のように、萎縮させてしまったら聞き出せるモノも聞き出せなくなる。 しかしどうも聞くところによると名前は“こっち”の世界に疎いらしく奴良組のぬの字も知らなかったそうだ(本人がきちんと覚えてるかはさておき、話した事はあるらしい)。むしろ下手したら彼等に囲まれてこうして暮らしてる筈だのに人間世界もよくわかってないかもしれないとの事だった。 オレは果たして期待通りだった事に内心含み笑いをしながらこう言った。 「オレの素性は伏せて、上手い事名前を連れてきてほしい」と。 一応仕事中みてぇだし。いきなり消えれば騒ぎになるだろう。そして…問題にも。 彼女によると、何でも名前は『動けるのは自分だけ』らしく、たった一人で糊口を凌いでいるらしい。万が一この店をクビになりゃ名前の家族ごと路頭に迷うのは目に見えた。…危ね。いっそ強引に連れ出しちまおうかと思ったが、いきなり突撃しなくて良かったぜ。別にオレぁ、名前を困らせたい訳じゃねぇし。 …むしろ、悲しむ顔はどうにも山吹のそれと重なっちまうからいけねぇや。 ただオレは、風聞だけではなく本人に直接話が聞きたいだけ。 素性を確かめたいだけだ。 まぁでも、親父はいきなりひっぱり出したらしいけどな。のちにオレの母となるその人を。 だがオレの場合親父のそれとは内実かけ離れており、しかも相手は捕まえるのの容易い人間ではない、というより妖で且つ恐らく足に自信のあるであろうとんだ遁走者。まあある意味気になってはいるが。 名前はいかんせん瓜二つ。 ……布を取り去り髪を下ろした姿など、本当にそっくりだった。 まるで。 そう、まるで―― ◆◆◆ いつも親身で頼れちゃう店長。もっといえばきっぷはいいし気が置けないし良いとこだらけっていう、お母さんとは違ったタイプでの所謂良い女ってやつなんだろなな店長。 そんな彼女の聞いた事のない怒鳴り声にビビリながらも野次馬根性万歳。厨房からひょいと顔覗かせて額に青筋浮かべた店長に恐る恐る訊いてみたところ、どうも無銭飲食(しかも常習犯)が出たらしい…ってちょ、まさかの犯罪ですか!!? しかし、そんな事は置いといて。 …や、ほんとは置いといちゃいけないんだけども。私仮にも店員だし。てか、ソレ抜いてもぶっちゃけ私曲がった事とか問答無用ですてみタックルしちゃいそう(技)。 勤めて日は浅くとも心は番犬ならぬ番ポケです。いや番ブイ? 「あっ名前!ちょ、ちょっと来て!」 「?はーい」 …だがしかし、常日頃よくしてくれるかの妖先輩に声かけられちゃ置いときたくもなる。だってなんか目ェ白黒させてるんだもん。んでもって、顔まで何だかすごいコトに(失礼)…青いような赤い、ような?(器用!)。 これはあとでわかった事だったんだけど何やらイケメンに声かけられたらしいからね彼女。青くなる理由はわからんかったけれども。 (私が犯人のニオイを知ってるならともかく)無銭飲食は逃げられちゃったみたいなので私達ただの店員じゃどーしようもないため厨房へと戻りお皿洗ったり拭いたりを繰り返してると、彼女はそんな私の手から「そんなのいいから!」とか言いながらお皿を引ったくり、何故だかタネマシンガン(技)よろしく言った(なんかミシッとか聞こえた)。 「店長には後でわたしから上手く言っておくからお願い、一緒に来て!……名前に会いたいって仰ってる方がいるの」 …敬語? 今日は何だか頭にハテナ浮かべてばっかだなぁとか思っていると、曰く、「最近はいらしてなかったんだけど前は結構贔屓にして下さってたし、何よりわたし程度の妖が断れる訳、ないわ!」らしい。 何やら非常に焦ってるような何なようなな彼女に聞き逃しちゃ駄目なフレーズ一文字を私の残念な頭はしっかり素通りしつつ、私は彼女にゲットされていった。ボールは恐らくマスターボールだったと思われる(無敵)。 …ふむ。でもま、成る程お店の心証落とす訳にはいかないだろうしってかそれくらいならお安い御用ってやつなため、特に抵抗もなく途中で襟首を離して頂きお店の裏口から二人してコソコソ出てきた訳だ。 そしたら近くの塀に凭れる人発見。 「よぉ」 なんか「これぞ粋!」みたいな、めちゃめちゃキレーな顔したにいちゃんがお出迎えしてくれましたと。片目つぶった男の…視界は平気なんだろか?…じゃなくて。 ……どちら様ですか? いやね、さっき私をガン見してた人だってのは流石にわかったけれども。だってそのお召し物、何よりそのおぐし。 相変わらず宙に浮いていらっしゃる…。 「鯉伴さ……じゃなかった。鯉さん、連れてきましたよ」 「おう、悪いねぇ」 普段は違う名で呼んでいたのか何なのか。 何故か呼び直した彼女に本日三人目のクエスチョンが頭上に形成される中、彼女は「それじゃあわたしはこれで…」とか言いながらお店に引っ込んでいってしまった。(置いてかれた!) ――それも、ふかーいお辞儀をりはんさ…いや、こいさん?…とやらに残して。 ていうか、この人……もしかして。 だって妖である彼女をツテとしたみたいだし、しかもある意味彼女店長より頭上がんなそうだったし……、 「悪いねぇ、仕事中呼び出したりなんかして」 「えっと、それは構いませんが…あのー…、」 だから多分人ではないんでないかなーってのもあった訳なのだがそれより…ああ、あと構わんってのもお昼時等の混雑時ならともかく今やピークは過ぎかけであってそういう訳でもないのにこうして呼び出されたって別にそれくらいで怒る人達もウチ(お店)にはいない事だし。 だけどねコレは構っちゃうよ。 「店長がマジギレしてたんですけど…」 だって店長言ってた。『またこいさんにやられたー!』って。名前、おんなじじゃあないですか。こんな短時間の間に同名異人なんて来なくない? 「て、店長ォォ!」…思わず叫んだ私が再びゲットそれも、「犯人!犯人がここに!早く来て下さ――もがっ」とさわぐこうげき(技)よろしくし始めた私にやべっとか言いながら私の口を塞いだ彼に捕獲されたのは、それから間もなくの事だった。なんでこの世にマスターボール2個あんの。 |