▼14ゲット 川底に沈んだ名前を滝壺から結局見つけ出す事は出来ず、肩を落とした。 「悪いけど知らないわ、そんな妖。…まあ、妾(わたし)達雪女の祖先は奥州だからそっちの方の妖なんじゃないの?氷を出すくらいなんだから」 そうして帰宅後、厨にいた雪女に早速簡単に名前の妖としての特徴を述べ訊いてみたのだが、やはりというかにべもなかった。 しかし今日の事を……名前の素性のわかる限りを粗方話し終えた頃には、折角作ったであろう夕餉も冷製となっていた。 ◆◆◆ 沈むような事があったらもっと元気になれる事を、悲しさなんて吹き飛んじゃうような事をする!攻撃こそが最大の防御なのです!(ってノリがどっかの地方で流行ってるとかそうでないとか)。 ってコトで、昨日の今日だけど今日はちょっと遠出してとっても賑やかなとこまで遊びに来てマス。 まあ昨日のどんぶらこ(遠距離)は何じゃいなってのもあるけどね!でもあれ何度も言うようだけど不可抗力だからね!! 一晩寝ちゃえば元気百倍さ。あたしゃずるずる引きずるとかどーも性に合わなくて合わなくて。やっぱ人生(ポケ生?いや今は妖生か?)楽しくいかんと! だいたいポケセンでなら一瞬で元気百倍さ。一晩なんてかけすぎなくらいなのよ! 「ホワァァ…!」 そしてただ今目の前に広がる光景にイーブイこと名前さんはモーレツに感動しております! いやあ前世から憧れだったもんで喜びも一入だ! だってイーブイの体力なんてたかが知れてるんだもん。かつてのイーブイなお母さんお父さんにも止められてたし、私ってばあのお庭からあんま離れた事なかったのね(つまり行けないで終わりました)。 つまり足は何ってサンダース&シャワーズなワケよ。『サンダース=足速い、シャワーズ=体力ある。』みたいな。ガーッと走って疲れたらシャワーズに切り替える。ソレの繰り返しならケッコー遠くまで行けんじゃね?って思って試しつつ来たんだけどいやあこれが大当たりで!じゃなきゃ今私ここにいないって。 車とかどうもここはないみたいだしねえ、お金ある人は他人にえっさほいさと運んでもらう駕籠とかゆーのを(狒々さんに教えてもらった)利用してるのは昨日おとといと見たけども。しかし貧しい人は自分の足で頑張るしかない。無論、私もそのくくりである。 だからここではひたすら見るのに専念するしかない。 だけど、私は子供であって子供ではない。…まァ、世間一般で言えばまだまだ子供ではあるんだけど我慢を知らない程ではない。 よーするに、見てるだけでも充分楽しいのさ! そう、私はまさに今お祭りに来ている! 「あっごめんなさい!」 化猫屋周辺でも沢山の人を見たけど、今日はお祭りなだけあってそれの比じゃないなあ!とか思いながら御輿を遠くからすげー!と眺め回して歩いてると、そうやってよそ見してたせいで道行く見た目ふっつーの(=カンペキ人間)(ただ少々ガラが悪そうな…)おにーさんにぶつかってしまった。 慌てて謝ると私を見ておにーさんは首を傾げた。んえ? 「いや、いいって事よ!…って、嬢ちゃん見ねえ…いや待てよ、その顔どっかで…」 人を見かけで判断しちゃいけないね!…ちょっと反省。 「?」 「…まあいいや、妖だな!」 「え"。お、おにーさん何でわかったの!?」 「ハハッそう言っちまったらバレちまうぜ?」 「ハッ!しまった!」 「まあこの人混みじゃ目立たねーけどよ、尻尾は隠しといた方が無難かもな。じゃあな!」 「ハッ!?…あ、ご親切にどもです…」 おにーさんにさりげなく且つありがたくも忠告を頂いてしまった。どうもニョキッと尻尾がお出まししてたらしい。慌てておしりらへんに意識を移し引っ込める。 …うん、まあなんだ、私ってばコーフンするとたまーに耳とか尻尾とかはみ出ちゃうコトがあるのね。流石擬人化ね。 「あのおにーさんもきっと妖だったんだろうなァ…うーん、見分け方とかあんのかな?…まっ!考えててもラチ明かないし、それよりお祭りだってばよ!」 江戸の街は毎日お祭り状態ってくらい(実際神社とかいつもお店が出てる)活気に溢れてる。楽しい事大好きな私にはほんと合ってる街だよなーって思う! いつか私が大きくなったら、…お母さんが元気になったら、一緒にこうやって街は勿論お祭りにも来たいな、とも思った。 因みに今日はブラッキーの人型だった(つまり尻尾は黒+黄色い横縞さ)。 こうして私はお祭りの高揚感の味をしめ、ちょくちょく辺りのそれに出没するようになるのである。 ◆◆◆ すぐ食べるんだから平気でしょ、と温め直された飯達は今は無事運ばれてワシら二人以外の妖達が食べている。 流石にずっと厨で立ちっぱなしってのも何だからと、ワシら…ワシと雪女はそれらで賑やかな居間からは少し離れた部屋で向き合っていた。 皆を混乱させるだけだ。確信がない以上話を広める訳にはいかない。 変に期待してもいけない。違った時の事が事だけに落胆が大きいから。 今日も鯉伴は帰ってきていない。 さて言うべきか否か。 「それで?どう見ても乙女ちゃんの手がかりにしか見えない子供を、川に落とした…ですって?」 おめえ雪女だろ毛倡妓じゃないだろ髪がうねってる幻覚が見えるぞ。 こいつぁ乙女さんをよく気にかけていた。…最初に話したのはちと失敗だったかのぅ…。 ワシの毛先や袖は既に固まってきている。 「い、いや待て待て雪麗!ワシャア別に(ちーっとばかし近づいただけで)何も…」 「その間は何なのよ!どうせ畏でも何でも使って怯えさせたんでしょそんな小さな子に向かって…!」 「畏でも何でもって…」 そしていつもなら下の名前で呼べば何かしらの反応が得られる(特に人前)というのに全く気づいていない。 …こりゃまるで、珱姫を眼前で口説いた時並の怒り狂い様じゃな。殺気か? 「で、その川ってのはどこなの。妾も行ってみるから場所教えて頂戴。…ただし、一人で行くわ。あんたが行ったら結果は目に見えてるから」 「じゃが…」 「…亡骸を、見た訳じゃないんでしょ?この目で確かめるまで妾は信じないわ」 「…と言ってもな、仮に乙女さんの子かもしれぬと言っても年が食い違うし、何より元が獣姿だったんじゃぞ?おかしいじゃろが」 「…珱姫の面影、あったんでしょ。乙女ちゃんだけなら他人の空似って言えたかもしれないけど。だからあんただってああだこうだと問い詰めたんでしょ?で、結果がコレ」 「……未遂じゃわい」 「同じようなもんでしょ」 バッサリ切られ、雪女のはっきりした性格からして言うまで諦めんじゃろと、ワシは早々に白旗を上げたのじゃった。 …このままでは雪だるまか氷像にでもされかねない。 ◆◆◆ そして件の川に何回か足を運んでみたものの、乙女ちゃん似の子供はおろか、ぬらりひょん曰く同一人物だという青い犬だか猫の中間?みたいなヤツってのの姿すら、見つける事は出来なかった。 まあ緑の耳した淡い黄金(こがね)色の不思議な物体が、一生懸命木の上に葉っぱみたいなのを投げつけて木の実を落とそうとしてるのなら見たけど。しかしどう見ても関係なさそうなので、諦めた。 「…、諦めないわよ」 川辺で呟く。そうよ、諦めてなるもんですか。何も言わずに消えちゃって、……あんな古歌を残して行っちゃうくらいなら、相談くらいしてくれたって、良かったじゃない。 そりゃ、確かに妾はまだ独り身だけど…。 だから、ちゃんと見つけ出してお説教するまで、妾はずっと諦めないんだから。 …だから、その『名前』って子供妖怪も、妾は絶対に諦めないんだから…。 ◆◆◆ ぬらりひょんさんとの一件があってから何となく川に行きづらかったけど、だからと言って折角進化出来るようになったんだから行かない訳にもいかないので、私はあれからも割と頻繁にここを訪れている。 ただ、一ヶ所はとある方の感傷のために空けておいて…。 そしてそこから少し遡る事数週間前。お祭りの次の日である今日、とても美しい人を見た。 川べりでキョロキョロしている。 ここはあまり、というか滅多に人の来る所ではない。私は魚の前に木の上に美味しそうな木の実を見つけたからリーフィアな姿ではっぱカッター使って切り落とす最中だったけど、何か探してますオーラが出てたからこれも何かの縁、私ももうここは庭みたいなもんだし何かしら力になれるだろうと声をかけようと思った。でもやめた。 何だかとても思いつめた表情をしていたから…。 私はそっとその場を後にした。魚はまた後で捕ればいい事だ。 木の実は何か気になっちゃって結局駄目だった。でもこれも後で何ら問題のない事。 珍しい瞳もあったもんだなあと思った円がいくつも描かれてぐるぐるしていたのが、真っ赤な瞳が、印象的だった。 |