山吹さんちのイーブイさん※奴良さんじゃない所がミソ…かもしれない | ナノ


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ナイスツッコミですねそーだいしょーさん!なんて内心ちょっと噴き出しつつ続けて「女の子泣かしといてその上見捨てるなんて最低じゃろう」と快諾してくれたひひさんとそんな彼に通訳されこれまた「それくらいならお安い御用じゃ!」と笑ってくれたそーだいしょーさんに私はとことこついていく。

そしてやっぱりというか、そーだいしょーさんも妖だそうで化猫屋は妖の営業するお店だとかで二人もよく知ってるらしい。た、助かった…!
ラッキー多いなー今日(勿論ポケモンではない)。

で、二人とも妖なら擬人化しても良いんじゃね?ってのは尤もなんだけど、なんか機会を逸しちゃったからそのまんまだ。まあ化猫屋までのお付き合いだからここはひひさんに任せようと思うのだ。原理訊かれても進化の仕組みと同じく答えらんないしね。お手数おかけしますひひさん。

そして通訳後のそーだいしょーさんの「名前メスじゃったんか!?」には笑った。
そりゃ、本音を言えば見てわかってほしいところだけどポケモンにおいて同じ種族はみな同じように見えるらしい人にそれは難しいだろう。私は流石に原型のポケモンの見分けはつくけどさ。
そーだいしょーさんにはただの「しゃわしゃわ」でもひひさんは何故だか言葉が通じるためちゃんと人の言葉として聞こえてるらしい声色から私が女、それも子供だとわかったらしい。

化猫屋までは結構距離があるそうで道中色んな事をお話した私だけども、途中、何かに気づいたらしいそーだいしょーさんは突如訂正を持ち出してきた。


「そうじゃ名前、お前さんさっきからワシを『そーだいしょーさん』と呼んでおるが…、」


byひひさんの通訳である。ありがとう。


「ワシは『ぬらりひょん』じゃ。総大将ってのはその立場にあるだけで名前じゃないぞ。因みに総大将の漢字は……こうじゃ」


言いつつその辺の枝を拾ってきてわざわざ地面に書いてくれたそーだいしょーさん改めぬらりひょんさん。「ついでに『ひひ』はこう書く」「ついではひどいぞ総大将」と笑い合う二人のやり取りに私も笑った。仲いいんだなー二人とも。うんいい事だ!


「しゃわしゃ…しゃわっ!?(ふむふむ…何っ!?)」

「…言って正解じゃったわい。お前さんなんか違う字想像しとったじゃろ」

「妙に間延びした呼び方じゃったしな」


なんかバレてる!ジト目で見てくるぬらりひょんさんの視線がなまじ図星なため痛い。どうもひひさん改めぬらりひょんさん直筆曰く狒々さんの的確な通訳に悪い予感がしていたらしい。
でもうーんサンクス!漢字わかんなかったからありがたい。妙な当て字まじごめん。

前世とここでは人の使う字は違っていたんだけど、それ以前にポケモンである私には文字を読むというのは中々に大変な行為。だけど前世では住み処だったお屋敷(庭)にいらした親切なメイドさんとかに本を見せて貰った事もあったし、加えてここでは今のお母さんがいるからして今では難なく文字は読めるというもの。
何と言っても元・先生!これ以上の心強い味方もいないだろう。




それから暫く江戸の街を歩き続けた私達。
私の容姿が容姿だからか人目めっちゃ引いたけど、別に二人はあまりそういうのは気にしないみたいなので(まあぬらりひょんさんは髪型とか狒々さんもお面とか手足とか別に隠してないしねむしろ堂々としてる)私も別に恥ずかしい事じゃないしねと普通にシャワーズしていた。つまり、やっぱり…とかって感じで擬人化を取る事もなかった。

そしてついに発見。


「おっ見えてきたぞ」


ぬらりひょんさんの言葉にここ江戸の街においては私の中で最も確実と言える命綱に辿り着いたのだとわかった。


「しゃわ!しゃわわー(ここまで来ればだいじょぶです、おうち帰れます!お二人とも、本当にありがとうございました!)」

「『ここまで来れば大丈夫です、お家帰れます!お二人とも、本当にありがとうございました!』って言っておるな」

「おう、そりゃ良かった。また釣り上げられるんじゃないぞ、名前」

「しゃわ!しゃわしゃわー(はい!それじゃあぬらりひょんさん、狒々さん、お元気で!)」


江戸の街に心惹かれるのは言わずもがなだったけど今日はそんな予定じゃなかったんだし素直に帰んないとね。親切な人達に会えた小さないい事を胸に、私は今日も元気にやれそうだ!

怪我とかしちゃったけど私にとってはそんなの屁でもないため、私はるんるんとその場を後にしたのだった。




背後の片方の方はともかく、もう片方の方の探るような視線には、気づかずに。


◆◆◆


「化猫屋は知っておるのに総大将の事は知らなかったみたいじゃな」


狒々の言葉に江戸の近くに住まうという割に人の世界ならともかく妖の世界からは些か浮世離れしておったように見える四つ足の妖の背を睥睨していた。
狒々の言う事も尤もだろう。話していて何となくわかったが、話が通じぬ程子供という訳でもなかったのに、だ。

今やあいつの姿は遠く離れ青い点となりつつある。この会話は聞こえはしないだろう。


「…ちょっとつけてみるか」

「姿からじゃ何とも言えんが、中身だけで言うならただの子供妖怪にしか見えんかったがのう…」

「ワシだって疑いとうないわい、あんな無邪気のカタマリみたいなの。…じゃが、昔の事もある。あん時ゃあワシらの知らぬ妖で街が溢れ返った訳じゃからな…」

「残党の話も殆ど聞かなくなったがのう…まあでも、ワシは隠れるのには向かんからな。……ここは総大将ならでは、じゃな」

「そういう事じゃ」


「じゃあまた後でな」と言って狒々と別れ一歩踏み出せば、ソコにワシの姿はもう見えない。
杞憂である事を願いながら、ワシはそのまさに水から生まれ出たような色合いの、低いが長い背中を追い始めた。


『私、こう見えてけっこう鼻が利くんです!化猫屋は知ってるから、そこからならたとえ途中道があやふやになっても、最悪ニオイでおうちに帰れるから――』


何故化猫屋?と名前の土下座のお願いに問うた際の狒々の通訳がこれだった。獣のような姿だから表情は読み取りづらかったものの、恐らく、弾むような鳴き声からして笑っていたのだと思う。


「…ほんとに杞憂であってくれよ」


狒々は名前を女の子だと言う。本当に人の、少女の姿だったなら、きっとまったき笑顔だったのではなかろうか。
もしそんなのまで黒だというのなら、本当に世も末という事になってしまう。

きっと親がワシら――奴良組の事を方針か何の意図かはわからんが何も教えていないだけだとか、名前には悪いが亡くしたか何かして知らないだけなのだろうそうであってくれと強く思いながら、エッヘンと言わんばかりにハナが利くと言っていたそんな名前に背後のワシを気取られぬよう、ワシは名前との距離をつめていった。


◆◆◆


最終奥義、ニオイを宛にする事もなく普通に道順を覚えてたらしい(珍しく)大活躍な我が脳を褒め称えつつ、無事戻れたのはいいのですが、それは果たして自宅ではありません。


『やっぱ捕り直しですよねええ!』


何故ならそのままお母さんとこに戻れば当然「あれ魚は?」状態になるワケですよ。よってそんな私の行き先は当たり前なのだがお母さん直行、とはいかなかった。
まあ今日は私の意思とは無関係に街まで行っちゃった訳だからそれをそのままお母さんに話しても良いんだけど、なんか話してる途中で私の頭じゃボロが出そうだからやめた。うっかり「昨日と違ってー」とか言っちゃったらおしまいだし。


『ウウーン、よしこんなもんかな!…で、あとはどう運ぶかだけど』


実際昨日と違って自宅付近に帰還したものの今はまだ夕方でも何でもないから、私は化猫屋から街を抜け裏山の川まで来ているのである。
そのまま放置してきてしまった魚達を、もう一度ゲットするために。

そして無事数匹の魚達をゲットした今、シャワーズのままでは些か運びにくいためどうしようかと思案していた。


「ま、そんな悩みは氷タイプなら氷のカゴでちょちょいのちょいよォー!」


ってコトでグレイシアな人型となり『ソコからお手製っすか!?』な氷のカゴを装備した私は、その中に戦利品を放り入れて帰宅する事にした。
あんま手の込んだのは実物とにらめっこしないと大して知識のある訳でも独創力のある訳でもない私にはお手上げだけど、こうして何かを入れる程度のとか簡単なモノだったら普通にイケる。

その時、さあ帰ろうと川を向いていた私が振り向いた瞬間、ここは森の一部でもあるため背後にあった草藪ががさごそ言った。

誰もいないものと思っていた私は驚きすぎて危うく折角の今日のお夕飯を放り出して川に落っこちるところだった。後ずさるかなんかして。
ここはちょっとした岩場の上なのだ。別に落っこちたって瞬時にシャワーズになればいいやくらいの認識だったから。

まァ、岩には気をつけるけども。…特に死角の、なんてのは。


「あれ?ぬらりひょんさ――」


しかし何て事はない、それは何故かいたさっきぶりのぬらりひょんさんだったのだ!

何かまだ用事があったのかな?と考えるもそれは一瞬の事で、何だか顔は私といい勝負な程驚愕に満ちていて、だけど、それだけだったなら良かったのに。


「さっきから見とったが、お前さん、一体何モンじゃ?変化は妖だからともかく……何故、その顔を持っておる」


まるで詰問するような口調で言いながらずかずかとこちらにやってきた彼のその顔がさっきと打って変わりすぎていて、幼い私には怖くも見えて、


「あ――!」


私は、予想通り後ずさり、落ちた。
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