▼8ゲット 昼間は人も多く逃げやすかったけどそこは町外れしかも夕方。あの時は何故かお兄さんは薄暗さにかはたまたオヤジ達があの一瞬の内に猶も妙な動きでもしたのか私の姿を見失ってくれたらしく逃げおおせたけれど、今回は少し危ないかもしれないと思っていた。 だって私が見ていた限り私とお兄さんしかその場にいなかったから。何となくだけど、お兄さん強いし足も速いんじゃないかと思ったから。 変化とか、問い詰められても私自身よくわかってないのだから答えに窮するだけだし、それにきっと今頃首を長くして待っているだろうお母さんの事もあるし。逃げたい私これある意味絶体絶命じゃんと焦った私は、咄嗟に頭に浮かんだ『もしかして』に全てを賭けた。 そして、 『はあっはあっ……つ、着い、た…』 逃げ切った、訳だけれども。 流石にお兄さんの前であれ以上の変化を暴露するつもりはなかったから、念には念をと麓の木々の間に入ってからポケモンの姿に戻った。だってこの方が圧倒的に走りやすいから。 擬人化出来るようになった上妖にまである意味進化してるとはいえやはり私は元々ポケモン、細かい作業等器用さを求められるとかでなければ私にとって原型の方がやりやすい事は多い。 私は今うちの前にいる。お兄さんは最初こそ呆然としてたみたいだけど同じ手はと言いつつ食いかけてる事にハッとしてか直ぐ様追いかけてきて、しかしてその足はやはりと言うべきか速くって、でも、結構早い段階で撒けてしまったから。 そりゃ確かに悪い事したなあと思うけど色々見られちゃったし何より生首だし、もう二度と会いたくないと思う。そして相も変わらず酷い表現でごめんお兄さん。でも他に言い方が思いつかない。 …山で他の方を全く見た事がない訳でもないんだけどお母さんみたいに言わなきゃ人間で完ペキ通っちゃう妖に見慣れてたもんだからああいう「おばけの定番!」みたいなのは、ちょっと…。私とか脅かす方にとっちゃ恰好の獲物だと思うよ。てゆか、イーブイにそんな強心臓を求めるな!(因みに進化してもだ!)。たぶん繰り返されたらちょっと私本気でゴーストタイプになると思う。…私も妖の仲間になったっていうのにね。 あれ、てコトは片足というか片うしろ足くらいはゴーストタイプに突っ込んでるようなものなのか。 「『とりあえず変化、っと』……さて、」 人の姿を取り(こうしないとお母さんと話せない)、考える。 時間はとっくにオーバーしているというのに何ゆえこうやってグズグズしているのかといえば、怒られるのは確実だし覚悟もしてるけど、お母さんにちょっとしたサプライズがあるからだ。もうおわかりだろう。 ただしそれも今やポケモンの定義から外れてしまったらしい私は普通一つなそれのみを発表して済む話でもないため、私は単純に言えばどれでいこうか迷っているのである。 いや勿論全部いくつもりではあるんだけどね、トップバッター何にするかで悩んでるんすよ。いかんせん私は本気で将来の夢が多すぎた。因みにきっとこの先もいつか私が条件を知らないのが発見されるのではないだろうかとちょっぴり思っている。 「やっぱここは…」 先の命数を託したもしかしてとは、私の中での一つの仮定について。 やはり先程茶色の髪に、つまり進化前――イーブイに何の弾みか戻ってしまったらしい私は、ここで生まれた時から何の苦もなく擬人化しまた戻っていたくらいなのだから、進化出来るようになった今、弾みと言ったが戻れるくらいならば名前や姿を念じられるだけの知識をあらかじめ持っていれば『好きな進化後の姿を取る事もいっそ自由自在』なのでは?と考えたのだ。 そういえば、と思い出してみるにシャワーズになった時もイーブイに戻った時も、私は口に出してまで欲していたのである。 それが答えだったのだとハッとするのに時間はかからなかった。 今の今まで兆しすらなかった進化だが、きっかけという名の発動条件までは未だわからないもののこれからは擬人化だけでなく進化先すら、もといそこから進化前に戻る事までもが変化並に選び放題し放題になったのだと、私の推測出来る限りと前置きがつくが、そういう事だった。 そしてお兄さんを振り切る際このままじゃいけないと望んだのがお兄さんを勘違いさせた望みの形、進化――お母さんに一つの将来として提示しまたオススメされたばかりだったという旬な、足のいっとう速いサンダースだったのである。 瞳は確かに同じく紫がかった黒だった事だろう。しかしそれの人間バージョンであるからして直前のシャワーズと同じ毛色である筈もなく、お兄さんの突っ込みは動かぬ証拠だったのだ。 念じればすぐだ。因みにマラソンなのにゴールまで全力だったコトによる疲労のためか、イーブイでの人型からのスタートである。サンダースの原型は家に着くと同時に解除されてしまっていたから。 私の全てが光に包まれ歪む。急成長する。手も足も髪も、何もかも。 三歳から13歳へ。 茶髪黒+茶目から黒髪赤目へ。 「た、ただいまー…」 んで本題だけど、結局どれを最初にお披露目するかそんなヒマはないというのに悩みに悩んだ末、中でも比較的お母さんに近しい黒髪赤目――つまりこれまた予想をというか期待を裏切らなかったブラッキー色(いろ)で行く事にした。そして私はその足でついに玄関をくぐる。 「…名前!」 お夕飯の用意をしていたのだろう、厨房から出てきたのは菜箸片手に仁王立ちする御仁の姿。あ、菜箸は武器ですか?そうですか。 遅くなったと言っても流石に何時間も遅れた訳ではない。そのせいかどうやら心配よりもお叱りモード突入のようで…うはー。 うえーやだなーお母さん普段優しいから怒ると本気で怖いんだよなーでも言い訳は嘘からしてアウトだしなー…、 「駄目でしょう!時間はちゃんと守らない…と…」 武器落ちた。 「ジャーン!見て見てお母さん!私、ついに進化、出来たの!因みに見ての通り人の姿だと一気に13でっす!」 時間云々をうやむやにするつもりはないけど、折角なので明るく行く事にもしてみた。片手は腰、利き手はピースして前出す。…あ、ここで通じんのかなこれ。 とりあえず、今の私は今言った通り13歳である。見た目は。いや中身もだけど。 目だけ無視すればまんまお母さん(ミニサイズ)デス。 お母さんは当然といえば当然かもしれないけど、哀れな床の菜箸には一瞥もくれる事なく私を食い入るように見つめて口を押さえてる。大きな黒真珠みたいな目まで落っこちちゃいそうだった。 そういえばお母さんはまだそれは先にと望んでいたのだったかとふいに思い出した。…あ、どうしよう勝手にきっと喜んでくれるとか浮かれてたけどあんま喜んでくれなかったら、ちょっぴり…悲しいかも…、 「そんな、いきなり…!?……いえ、一応おめでとうと言うべきなのでしょうけれど……でも名前、一体何があったの?」 杞憂でした。 (流石お母さん!優しい)。 「いや私もよくわかんないんだけど何かね、道端で怪我して泣いてた男の子がいてね、何とかしたげたいなーって思ったらいきなり『ピッカー!』ってなってこの姿に…あっ因みにその時はシャワーズがいいなって思ったからそれだったんだけど…」 「道ば……名前?」 「ん?なーに、お母さん?」 「……街に、行ったわね?」 あっ。 |