山吹さんちのイーブイさん※奴良さんじゃない所がミソ…かもしれない | ナノ


▼5ゲット


「う、わあッ!?」


じーっと陰から見ていただけだった筈の私に少年が気づいてしまうのも、ただでさえへたり込んでいたのにこれ以上ないという程に更に腰を抜かしてしまうのも、道理だった。


「しゃわ」

「しゃわ…?」

「しゃわ、しゃわしゃわ、しゃわっ!」

「…ヒッ!?こ、こないで!」


涙は逆に引っ込んだようだけれどもおーい、私は何にもしないぞーしいて言うなら君の手当てに馳せ参じかけてるだけだぞー。
私は――今の私となっても――四つ足状態のポケモンであるからして前足両方あげてしまうと何ぶん辛いため、片方の前足だけヒラヒラさせて無抵抗の意思を示しながら言う。

…まあ、それでも通じる筈もない。


『…ま、いつでも力を使えるのはイーブイの“頃”に、証明済みだしね…』


先の嗅覚然り、どろんこの日々を送るこの三年間然り。
その姿で戦う事もなかった訳じゃない。たまに、この姿だと油断してくれる相手もいたから。あと原型時じゃ届かないようなとこにある食材とか採る時は重宝する。元の姿はちみっちゃいから。

この子にしてみればかなりヘンテコな“色”として目に映るだろう。
でも、そのままでいるよりはいい筈だ。


『ってコトで。私、いっきまーす!』


ぼふん。
今やお決まりになりつつある変身…というかお母さん曰く妖が人の姿を取るのに近いだろうとの事、ポケモンと人のチェンジのお知らせとばかりな効果音を立てて現れたのは……、


「やべー。もしかしたらと思ってたけど――視界たっかー」


鏡がないから何とも言えないけれど、明らかに幼女から少女に進化しているであろう、人の姿をした私だった。

煙の勢いに押され視界で翻った髪は、鮮やかな水色だった。




「はなだいろのおねーちゃん!たすけてくれてありがとう!…あとね、さっきはこわがっちゃって、ごめんなさい…」

「ん、いーのいーの!それよりさ、悪いんだけど私が妖だって事、誰にも言わないでほしいんだ。私静かに暮らしたいだけだからさ〜」


…お母さんもさ、身体、弱いしね。


「うん、もちろんだよ!だっておねーちゃんはぼくのおんじんだもん!…あっ、じゃあぼくのおうちこっちだから、じゃあねー!」

「うん、ばいばーい!今度は転ばないようにねー!」


人の姿を取ればこっちのもの。加えて少年が小さかった事も手伝った。「さっきのは進化って言って今のは変化って言うんだよぉーそして私はキミを手当てしたげようと近づいただけさ!」と、大分はしょりつつも事のあらまし説明したら割とあっさり信じてくれたのだ。むしろその後は「すごいすごーい!」と歓声の連続だった。なんかちょい照れたのは秘密にしておきたいと思う。

掌から水の湧くイメージで以て傷口を洗い手当てを無事に済ませた後、私達は江戸のどこかの外れでお互い手を振り別れる。

そう、予想は果たして当たっており、この種族となった今、私にとって水を操るというのは原型時でも人型時でも赤子の手をねじるより簡単な事だった。きっとこの姿でも溶け込む事も可能だろう。そう水へと。シャワーズは水タイプの中でも水と身体の成分が似ているポケモンなので実はそんな芸当が出来てしまうのである。

――少年が驚いた理由はそういう事だったのだ。なんか茶色いのがいきなり青く微妙にドデカくなった、イコール進化したから。

…そう、私はついにやったのだ!

ブラッキーかサンダースかなんて思ったけれども私は、というか私の肉体は、シャワーズを選んだらしかった。まあ進化したかっただけでどれでも良かったといえば良かったからそれはいい。イーブイよりは確実に強くなったであろう事に、変わりはないのだから。
人型はやはりの準拠。煙に舞った、手に取った髪は少し深めの水色。空に少し他の濃い色を足したような色をしていた。

何がきっかけかなんて心当たりははっきり言ってゼロだし、第一シャワーズもサンダースと同じく特殊な石を必要とする進化。進化は大抵は強くなる事で得られるけれど、私達イーブイにはかなりの選択肢があるというのは昔お母さんにも話した通り、イーブイにはこのように本人にとってもトレーナーにとっても一筋縄ではいかない進化方法が殆どなのだ。
というか、トレーナーなしに進化出来る種族であるとは言えないと思われる。

しかし、きっと今求めたところで答えの出る疑問ではないのだろう。
だから今はただ大いに進化を喜ぼう。こんな早くとはちょっと言えないけれど、でもまさか、あぐねていた矢先に手に入るなんて。


「うーん、やっぱ人助けした後は気分がいいな!どうせなら折角進化も出来た事だしいっそ就職活動もしちゃおうかなぁ。そもそも、働けばお母さんを助ける事にも繋がるんだし」


日はまだ高いから江戸ぶらり旅はまだいけると思う。家を出たのがお昼時だったから今は昼八つのどこか、私の世界で言うおやつ時前後だろう。
そこで人がそういう時間帯にティータイムを過ごしていたのを私はちょくちょく見ていた。かつての私、野生は野生でも人様んちのお庭(※豪邸)に住んでおりましたので。
余談だが、何気に自身の進化後を完ぺき網羅しているのは、そこにいっとき遊びに来ていたトレーナーさんに親切にも図鑑の図付きで教えて貰っていたからだったりする。


「よっしゃ、なんか俄然大丈夫な気がしてきたァー!」


着物が心配だったけど人間の姿を取れる妖はみんなきっとそうなのかもしれない。よくわかんないからそういう事にしておきたいと思う!
私のサイズに合わせてくれた大変空気の読める今日も今日とての山吹色の着物の袖をはためかせながら、私は一人になったところでバンザイしつつ叫んだ。
だってこの姿なら三歳児じゃ微妙なお顔を頂戴するお店だって見て回れるって事だからね!

とりあえず、一通り街見てから家帰ろーっと!
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