短編?読み切り?むしろネタ+毛? | ナノ


出来るなら、墓前に誓うなんてことになる前に。



2.ニューワールド?



一体どんな手を使ったというのだろう。まるで文字通り神隠しか、あるいは神の御業。

確かに神と呼ばれる存在はいる。それも片手で数えられない程に。
ともすると隣にいる《貴方》もそうなのかもしれない。

一日一日を大事に育んでいた腹の子が、誕生を待ちわびていた母体が、一夜にしてごっそりと抜け落ちたような感覚を味わうことなどあるのか。

けれどそれがあったのが、自分の母だった。

流産――とか、そういう次元の話ではない。あるいは術。あまり考えたくはないことではあるが、いわゆる呪いの残り滓もなかったらしい。
それが信憑性を高めた。

母は子供の……残った方の子である自分の前では笑顔を絶やさない人だった。

けれど喪失に気づいた時、父曰く、それはそれは嘆き、叫んで、半ば半狂乱となり、とてもじゃないが見ていられなかったという。
当然だと思う。

自分は錯乱した母の記憶はあまりないが、それでもどうしたってふとしたその時、その横顔に暗い影を落としていたのは知っている。
よく道行く同じ年の頃の兄弟や姉妹が仲良く遊ぶのを目で追っていたものだ。
自分も会いたいのだと――その気持ちを抑え込み、自然とその話をしなくなったのは齢十にも満たない頃だ。

そうして幼き日の自分は“きょうだい”を消した、目に見えぬ犯人とやらにその歳に見合わないような怒りを覚え、また時には会いたい気持ちが高じるのも相俟って、消された本人を理不尽に恨むこともあった。

成長するにつれ、己の使命が『きょうだいを探す』となるのは、自分にとって極自然なことだった。

“きょうだい”。
そのように自分が普段から記す理由は、そもそも性別すらわからないからだ。自分より上なのか下なのかも。
両親も、何せ生まれる前のことだ。手がかりも何もあるわけがない。海に沈んだ神の目を見つけるが如き確率か、いやそれよりも。
ともすれば、砂漠で一粒の砂金を見つける程に途方もない話かもしれない。

――それでも、自分はやり遂げてみせる。




「力になれずすまない」


自分達家族からしたら一箇所が欠けているような、けれど普通の人からすればある一組の家族が集合しただけにしか見えない肖像画を胸にしまうと席を立つ。礼を告げられた今日の情報提供者も頭を下げるのみだった。

そろそろこの街――いや国で、情報を得るのは限界かもしれない。

――せめて名前だけでもわかっていれば。

“決まって”いれば。

家族である自分ですら常に思っていることである。
容姿も。

あらかじめ親に名前が大切に決められていたとしても、一度も呼ばれたことがないのでは意味を成さない。
容姿も、十中八九自分に酷似しているのだろうが、見たことがなければ「似ている」以外の説明のしようがない。


『自分か、もしくはこの中の誰かに似た人物を見たことはないか』


肖像画はとっくにくたびれ始めていた。


◆◆◆


確かに衝撃は思った程ではなかった。
けれども今まで感じたことのない感覚が――いや、種族だの(強制)修行だので些か育ちすぎた聴覚を壊さんばかりに轟いたその音には覚えがあったから、ゾッとした。

まるで世界を跨いだ時のような。

何故か先程の衝撃のせい、というよりは長らく動いてなかったから鈍ってるといった種の身体のだるさを感じたのが疑問だったけれど、私はそれらを無視して飛び起きた。

出来なかった。


「……」


人が、折り重なるようにして私の上に倒れていたから。
見れば私の下にも沢山の人がいて、どうやら先程までの私もその人の山の一部のようだった。

日頃そうでなくてはいけなかったから、人の山から抜け出てその人達の安否だけは取ると――全員無理だった、もう――周りに敵らしき人物、もっといえば魂の波動がないか探った。

私しかいなかった。


「酷いな……ここも戦争中、なのかな……」


音からして随分……それこそ世界通り越して吹き飛ばされたように思ったけれど、先の街と然程離れてはいなかったのだろうか。

そう思ったのも束の間、先程感じた空気の変さ――魔術的な某かの源は変わらず感じ取れたし、実は私の世界なんてミラクル起きてる可能性も勿論この現状からしてあるわけがないため、今推測した通りかもしれんとひとまずは仮定することにした。
なら何で先程の美女私を飛ばしたし、とは思わなくもないが。いやでも、そういえば消すとか言ってたから殺す気で来てたのか……防御術とか結界、持ってなかったら今頃私ここにすらいなかったことになるのか。……考えんのやめよ。
とりあえず、美女がそれくらいの勢いで来たから、そしてそれに私が反発したからその勢いでこうしてここにおりますよ、と。


「そうなってくると……まずは拠点探しだよなぁ」


以前……といってもたいそう大昔なわけだけれども、生前の私だったら慌てふためくか逆に呆然としているか、あるいはこの光景にアニメとかでもよく見るようにちょっと人様には見せらんない姿になってたんだと思う。詳しくは伏せとくけど、本当に戦争そのままの光景だから。ここだけ見れば戦闘後だけど、そうは言っても酷い光景なことに変わりはない。

それなのに強制的に逞しくなりすぎて出てくる感想といったらこんな台詞なのだから、昔の私じゃ考えられない話だ。今更だけれども。

だから人間どんな時でも空くであろう腹も悲惨な事態に耐性があるせいか余計に気になるわけで、しかも辺りの匂いといったらちょうどまんまなわけで。固まってきちゃってるのもあるけど。

そうヴァンパイアとかその辺の血のせいで、まだ鮮度の落ちてない数多のそれらの香りに喉さえ鳴りそうで困った。勝手に優れた嗅覚に諸々の匂いで麻痺しそうなものなのに、そういうとこだけは食い意地張ってる種族だ。全体的にんな可愛らしいもんじゃないけど。
それでも流石に墓を暴く、ではないけど、死体蹴りのようなことはしないけど。幸い飛ばされた時のかすり傷くらいしか怪我してないし。(怪我してると流血と連動するから余計腹が減る)。

それどころか、この人達をせめて埋めてあげようとか思ってたりするわけで。


「ここ、何らかの魔法とかはありそうだし、魔術でいくかぁ……」


どこかで言ったかもしれんが人外になったのは所詮ガワだけなので、近くに驚異がいるわけでもないのにこのまま去るのは寝覚めが悪い。


「お腹空いてる時にこれは堪える……人外バンザイ」


そうでなきゃとっくにくたびれてる。かれこれ数十分は経った、というか経ってしまっただろう。いかんせん力が出ない。だから土遁的な土系魔術も威力が出ないし、遺体を運ぶ動きも何となくもっさりしている。

何せ朝から何も食べていない。というか生まれてから何も口にしていない。何度も言うようだけどこれは自業自得だが。


「ばらぁ……」


せめて……つっても、そもそも辺りには花一つさえなかった。全部燃えたわ。当たり前か。

これも昔じゃ無理だったよな〜な人間の頃やってたらスコップ堀りであるためにリアルに日が暮れるに決まっていた大量の簡易のお墓。


「安らかに」


そして最後にそれこそ花……はないので、永遠に溶けない氷の花を即席で作り、それぞれ土の山の上に乗せていった。

ここも魔術、というか雪女の挙動全開だけど、まぁ疑われんじゃろ。てか疑われる頃までここにいないし。やることやったらさっさとずらかろ。

しゃがんで目を瞑り手を合わせたところで、本日飛ばされる前とは違って今度は私のものではないざり、という音がした。だけれども、これも先程とは違い殺気のさの字も感じられなかったから、私はそちらへゆっくり振り返った。

金髪美少年がいた。

「もしツッコまれたら氷の花への言い訳が必要になるな……」とか何とか思ってたのが全部ふっ飛んだ。

……悲しきかな面食い。
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