短編?読み切り?むしろネタ+毛? | ナノ


…ま、いっか(よくねェよ!)。



3.本音



遡る事少し前。


「ある意味少しでも疑われん方がいいだろ。この世…っつかその世か。そこにそぐわない事によって」


いよいよ向こうからは勿論、こちらからも連絡の取り様の失くなった見た目だけは少女な、今となっては“ほぼ”元である己の部下に思いを馳せる。

なんかこの世界ではちょい邪魔そうな血筋は世界に落とされる際にこれが運命力か、自身が頑張る前に取っ払われた。つまりただの不運、もしくは偶然。彼女の言葉を借りるなら「トリップ特典」とでも言おうか。いや悪い方向なんだから特典じゃねーか。

ただ、あまり人間界に干渉出来ないのはいつもの事なので、これでも頑張って見た目はこの世界に合うようにこれもあいつに言わせればアクセサリだかアバター変更?っつーのはしておいた。ったく、少しは感謝しろよな。これなら今言ったみたいに少しはこの世界から浮かずに済むんだろう?
因みにそれによってうまれた空間の歪みだとか悪影響の尻拭いを丸投…任せた部下の頭には、あいつの母国語風に言うなら500円玉ハゲが出来ていた。

一般に崇められる存在であってもここでは意外に出来ない事は多い。今回はたまたま運が良かっただけ。
当然、この拙い繋がりもじきに立ち消える。


『(あれ意外にこの世界って過ごしやすい…?)』


彼女がせっかく違う方面とはいえそれこそそんな事を思っていたというところで、やはり天地の人間は期待を裏切らないのがここの常。
こんな事言うと魔界のボスが立ち上がりそうだが。


「あっやべ、何かの花?苦手なの追加すんの忘れてた」


…彼女の悲しい叫びが聞こえてくるのも時間の問題である。


******


狭霧山…の、手前にある山に向かって歩く事暫く。
私はついに足を止めた。

うっかりこのまま流されていきそうだったけれども、私にははっきりさせておく事がある。

いっつもいっつも私最終的には巻き込まれてるけれどもこれ毎回思ってる。大体叶ってないけれども。

何って、私は平和に生きたいのだ。幸せになりたいとかんな贅沢言わないからせめて命の保証をくれ。第一希望にして第二第三以下最後まで続くエンドレス希望は危険からの永久離脱。

死にたくない。相変わらず死ににくそうとはいえ痛いも辛いも嫌だ。てかもうこりごりだ。

つまるところ今の私はめちゃめちゃ家に帰りたい。いや別に(竈門)家じゃなくてもいいからとりあえず戦線(予定)離脱したい。安全な場所に今すぐ飛んでいきたい。何なら雪女は残ってたのだから物理的にでも。雪女は山に雪を降らせたりしなければならないので浮遊可能だったりするから。
一緒に行きたくない。だってこれから先炭治郎は命が幾つあっても足りないんじゃないかってくらいの危機に見舞われるのだ。禰豆子でさえ、簡単に喰われないとはいえああなるのだ。すぐに治るからいいという問題ではない。

炭治郎、こんな、鬼を滅殺する覚悟も鬼への恨みもない人間連れてっちゃ駄目だと思うよ。
怒りがない以上出せる力も限られてくるんだしさ。すぐ限界迎えちゃうよ。

とりあえず竈門家のお家に戻るっつかお借りして〜とか駄目かな。この外見(炭治郎的には妹)をフルご利用とか調子乗りすぎ?駄目だって言うんならちゃんと掘っ立て小屋とか住めそうな場所探すよ。何なら自分で作るよ。かまくら一択とかになりそうだけども。今の私じゃ。
(魔術が氷雪系を除いて根こそぎ奪われた以上建築技術がなければ限界がある)。


「ねえ兄さん。その……私だけ家に残るとか、駄目?」

「名前…!?何言ってるんだ、家族の仇を討ちたくないのか!?」

「……」

「名前!」


即答出来ない私に炭治郎はショックを受けた顔になった。しかし嘘でも「じゃあやっぱ行く!」とは言えないため「あー…」とか「えーと」等と曖昧な返事しか出来ない。さて困った。
…流石にここで「別に」とか「炭治郎任せた」とかは言えないしな。どんだけひどいのって話だ。

とはいえ確かに気の毒だとは思うけど、でも命の危機に曝される可能性のある世界観にあればそんな事言ってらんないと思うんだ…。少なくとも私の中では。
何度も言うけど血縁関係は今始まったばかりだし、義憤で復讐とか命をかけての協力とか、そこまで出来る程私はいい人間じゃない。何せ主人公気質とは基本的に対極に位置するような人間だ。この世で一番大切なモノis自分の命とかいう最低野郎とは私のコト。
結局ひどい奴になってるけどこればかりはどうしようもない。『命第一』――これはもはや私のアイデンティティみたいにすらなっている。


「それにこのままじゃ名前は鬼のままなんだぞ!?禰豆子だって…!」


……そう来られると弱い。
鬼…っつってもこれ治んないんだけどねー…今までの経験からして。いやでも、今回『吸血鬼と雪女だけー』とかになってるしな…。
…もしかして、もしかする?

ただ今回のケースを見て何となく思うのだが、種族変更…種族規模の体質改善、それは世界をまたがないコトというか、渡る瞬間のみにしか起こり得ない奇跡だと思うのだ。そういう偶然とか神様運命様の類いでなければ私のこの体質(とも言えない某か)は変わらないんじゃないかなーと思う。

つまり私はやはり(吸血)鬼のままなのだろう。
この世にいる以上、いる限り、治る事はない。治るモノでもない。


「名前、頼むからそんな事言わないでくれ。また俺のいないところで家族が死ぬかもしれないなんて、耐えられないんだ……」


そう言って声をつまらせる炭治郎。
過去――つまりは二回目人生にあったかは忘れた。けれども、長生きではいるものの相手の、それも年頃の男の子の涙になんて慣れてるはずもなくて、いつだって決めてるはずの優先順位が揺らぎそうになる。自分にあるのか疑わしい、つか多分ないであろう良心が締め上げられるような錯覚を起こす。
まいった。基本不真面目な私だからこそシリアスは苦手だし普段は避けてるのに。

…こう言っちゃ嫌な奴だがこんな事なら覚えてる最近の世界ではよくあった類、力ずくで来てくれたら良かったのに。それなら強くなる前の今の炭治郎、たとえ微妙に貧血気味だろうと私に分があるはずだから。そしてそこから派手な兄妹喧嘩って事で暫く距離を置く事も可能かもしれないのに。とてもじゃないけど加害者炭治郎とか想像出来んが。


「兄さん…でも私、鬼になったから何となくわかるんだけど、人の血だけでもないとやってけないと思うし、はっきり言って足手まといなんだよ。禰豆子だって守らなきゃいけないのに」

「っそれでも!」


つまり戦えない、だなんて我ながら小賢しい。とはいえ血が究極に足りなくなれば本当に非戦闘員となりかねないのだから完全な嘘でもない。

そんな事を思いながら割と真実である、人が聞いたらそして鬼の恐ろしさを知ってる人なら気味悪がられたり怖がられるであろう要素を抽出して説得してみるも、やはりというか炭治郎は引き下がろうとしない。
けれど確かにそうかもしれなかった。読んだのはやはり例に漏れず遠い昔なのであるからして細部は朧気でも、基本的に炭治郎は禰豆子を離さなかったように記憶している。

ふと周りに目をやると辺りは赤銅色で、もうすぐ日が落ちる事を示唆していた。――このままでは物語が滞る。
この序盤も序盤の、それも本来なら移動シーンとかでしかなかったであろうコマでどのくらい時間をかけていいのかはわからないけれども、でもそろそろ炭治郎を行かせないと鱗滝さんを待たせる事になるのでは?

もしすれ違いでもして、結果、最終選別までに炭治郎が仕上がらなかったりしたら――。


「…守れなそうだって思ったらちゃんと置いてってよね」

「名前……ああ!」


力強く頷いた炭治郎。

…仕方がないからもうここは鱗滝さんとこで禰豆子と留守番させてもらう事にでもして一旦私が折れる事にしよう。ただでさえ私が主人公の血縁者ってな変な場所にいて厄介なのに、これ以上原作がねじ曲がって対処出来なくなったらそれこそ一巻の終わりなのだから。

それに考えてもみれば別に今すぐ炭治郎から離れられなかったとしても、所詮私は鬼の括り。これから鬼殺隊を目指す炭治郎は否応なしに、てか物理的に私を置いていかざるを得なくなるだろう。

いくら力持ちになった炭治郎でも籠を二つ背負うわけにはいかんだろうし。体重の異常だった天使や悪魔の血が消えた今、私は普通に重い。詳しくは秘匿しとくけど。
だからといってあんまし堂々と私を連れ歩くのもどうかという話だし。嫌だよ鬼に強い恨みを持つ隊士に出くわす度殺気で挨拶されるとか。いやむしろそれで済めばいい方だろうそれ通り越して抜刀の可能性すらありげだ。針の筵(物理)を体現か?


「…にしても、お腹空いたな…」

「名前、それさっきも言ってなかったか?」


聞かれていたか。

実はこうしてる間にも刻一刻と喉は渇くばかりだったりしていた。これくらいの会話(って言うと泣かせまでした炭治郎に悪い気がするけれども)で誤魔化せるなら、そもそも今まで私はもっと上手くやってこられたはずだ。空腹(血)のせいで災難と書いて暴力沙汰に巻き込まれた事すらある。

私のせいで歩みを遅くしてしまったのだからさっさと腹ごしらえしたいところなんだけども…しかし、しかしである。
炭治郎も困ってーってか、ちょい焦った顔してるし(そりゃそうだ…)。

…ハァ。
ここは最終兵器彼じょ…じゃなくて、名前さんになるしかない、か…。
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