短編?読み切り?むしろネタ+毛? | ナノ


なんという盲点。



【狩人での彼女の生い立ち】



瞬きしてその目が開くか開かない内に、例えば地図みたいに表記するなら至羊水だったという状況は前回初めてではなかったワケだが、今回はそんな前回の如く双子どころか三つ子なんて事もなく何より退化っつか胎児化すらなく私が私の顔のまま女子高生していたし、なまじ家が内装や魂の気配を探るに不穏分子(双子の片割れとか)もこれといっておらず両親のみと至って平穏無事な我が家のままだったからついにか!?今度こそはか!?と期待を通り越し確信したのである。因みに私の机の上で。
…気づいた瞬間バンザイしてた両腕を下ろし無言で下りたがな。

…というワケで、私はいつの間にか自宅というか自世界に戻ってきたらしいのが周りを見回すに徹頭徹尾飲み込めてきたため、旅(世界規模)を終えた私にとっては懐かしい風合(どんなのを選んだか忘れ気味だがな)のカーテンを開け放つに早朝な事を確認し、朝食を取りに居間へと向かったのだった。

だが、私はここで気づくべきだったのだ。

地上に来たばかりだった昔の私ならいざしらず、体重を無意識で不自然でない程度年齢に揃えるようになった今の女子高生な私因みに――室内を漁っても学年がわかりそうなモノが何故か一つも見つからなかったのだけれども――部屋にある姿見で生前終わった17、18歳くらいと目分量もいいとこなアタリの付け方ではあるが、そんなそれ(見た目)相応である筈の体重を有する私が踏み荒らした机上の筆箱や零れ出ていたシャーペンボールペンだのがひしゃげたり折れたりしていなかった時点で、既に異常だったのだというコトを。





「……お、おはよう…」

「あらおはよう名前。朝ご飯もう出来てるわよ。さ、温かい内に召し上がれ」

「う、うん」


何年。むしろ何世界ぶりだろう。
記憶のままの私の本来のお母さんのエプロン姿を見るのは…って、ん?

私は17、8くらいなのに……え?


「…若、い?」

「え?まあ鍛えてるからねえ、普通のお母さん方よりはそう見えなくちゃ逆に悲しいわ」

「は、はあ…」


……なんか変な動詞が聞こえた気がするが、ヨガとか筋トレでも始めたというコトにしておこう、うん。

さて気を取り直して。

居間の戸を開けるのに上げた手は汗ばんでいたし開けるまでに地味に時間も費やした、そして声が震えてしまった訳だが、様子が変だと気づかれただろうか。


「この卵で作った料理は何でも美味しいわよねー流石お父さんの見立てだわ」


しかし果たして杞憂だったらしく、お母さんは料理を台所から居間に運んだり並べたりくるくる働きながら、居間の入り口に突っ立つ私に笑いかけただけだった。そして湯気の立つ料理達を指差しながら言う。至って普通の世間話だった。

…んだけど、違わないとは言わんが卵って私達みたいな舌が凡人の人間が思わず話題にしちゃうくらい味違うもんですか?スーパーでいっとう高いヤツでも買ってきたんだろか。
しかもお父さんの見立てって何だ。休日でもない限り至って普通の会社員であるお父さんに買い物に付き合うヒマなんぞないだろうに。たまたま二人で私が“帰って”くる前にでも行ってきたんだろか。まあ娘の私が思わず砂吐いちゃうくらいお二人さんてばいつでもラブラブなんだけどさ。

そんな事を思いながら忘れもしない定位置である自席につきいただきますを言った後、母の言う卵料理、件のオムレツにフォークを刺し入れた。一口サイズに切る。口に運ぶ。

味に関してのみだが、謎はすぐに解けた。


「…ウマッ!?な、何このオムレツ!私こんなの食べた事ないんだけど!」


言うだけあると思った。顎が落っこちた。
けれども、水を向けてきた割にお母さんは「そうでしょう美味しいでしょう!」なんて相槌どころか、些か困惑しているみたいだった。

……あ、あれ?


「え、ええ確かに美味しいわよね。でも名前、うちではよく食べるじゃないこの卵。だってお父さんですもの。訳ないわ」


やべ。私何か前にも食べた事あるっぽい。
でもわからん。何がだってでお父さんに繋がるんだいオカンよ。

その時、お父さんの寝室の方から「ただいまー」と間延びした声が聞こえてきた。私のムダにいい耳が拾う。


「…は?」

「あら、今日は梃ずったのかしら。いつもならもっと早く終わらせてくるのに」


…っておい待てよ何で寝室?玄関からじゃないの?何でお母さん平然と呟いてんの?そして今時計見たけどまだ朝の7時だよただいまっておかしくね?朝帰り?お父さんいつも夕方遅くても日付跨がないくらいには帰ってきてたでしょお父さんの会社そんな労働基準法ブチ抜いてたっけ…、


「お、早速使ったのか。まあ自室に入った瞬間ニオイでわかったけどな」

「お帰りなさいあなた。いつ食べても思うけれど、そこらで売ってるのとはほんと、大違い」

「ははっ、だろ?」


さっきから微妙に積み重なりつつある疑問に唸っていると居間にお父さんが入ってきた。
…ってそれもしかしなくても卵の話だよねお父さんアナタそんなに鼻良かったっけ?
五感の異常なヴァンパイア、私じゃあるまいし。

オムレツとにらめっこしていた私は、謎の帰宅時間については後で訊いてみるとして、とりあえずお帰りなさいは言おうと顔を上げた。

絶句した。


「ぎゃあああ!」


…と言いつつも絶句したままでいる訳にもいかず、驚きすぎた私は悲鳴を上げた挙げ句椅子から転げ落ちた。

当然驚いた二人が慌てた様子で近づいてくる。しかし私は馬鹿みたいに口をパクパクしながらお父さんいやお父さん?からじりじりと距離を取るしか出来ない。けれども純粋に心配してくれてるらしい二人はどんどん距離を詰めてくる。
しかし狭い室内ではたかが知れている。限界はすぐ訪れ、間もなく私は壁に背を預ける形になった。

…終わった、私。

浮かれてたけど違ったみたい……いやいやまだ諦めるなもしかしたら行きすぎたファン魂によるモノかもしれない一応訊いて、


「どうした名前!殺気でも感じたのか!?」


訊いて…、


「敵!?それともゴキブリか何か!?んなもん嬲り殺してやるわ!…ああでも手が汚れたら嫌だからきちんとコーティングした上でねオホホホ!」


…き、訊いて…。


「……あ、あの。お父…さん?」

「何だ?」


一応言っておくが、私の両親は一般人だ。何を基準にそう言うのかと言えば、この色んな意味で手遅れな私が言うのだから勿論オタクか否かでだ。そりゃ、お父さんは多少私のゲームの相手をしてくれる事はあったがそれこそお母さんなんて漫画の一つも読まないそれなのに、お父さんは殺気とか言い始めるし穏やかだったハズのお母さんはなんか物騒だし。


「え、えっとデスネ…」

「だから、どうしたんだ?名前」


おかげでこの一言を口にするまでけっこうな時間を要した。しかしお父さん?は辛抱強く待っていてくれている。
お母さんには申し訳ないがこの際彼女はどうでもいい。

この人の我慢の糸がちょん切れた瞬間が私のジ・エンドだと思う。


「い、つから……コスプレなんて、目覚めちゃったの…?」

「は?」


こ、怖ッ!心配顔もある意味怖かったけど真顔になられちゃった(とりあえず敬語にしとく)よだけどそれしか考えらんないんだよありえて且つ平穏な可能性を取るならば!


「だ、だってお父…さん。な、んでそんな……カッコよくなっちゃってるの?……整形?」

「おいお前、聞いたか!?ついに名前が俺をウザいと言うどころか魅力に気づいてくれたぞ!あと言わずもがなだがこの顔は生まれつきだからなハハハハ!」

「あ、ですよネ…ハ、ハハハ…」


過去の私既に冒険してたァー!


「名前が、お父さんをカッコいいですって…!?」

「ヒッ!?」


どうやら今の?お父さんに辛辣だったらしい(設定)私だが、何とここでお母さんも捨て置けなくなる事態が発生した。

……なんか、さっきから、変?
い、いやまだよ。望みは決定的な何らかが起こる最後まで捨てないでおきたいと思う。ぶっちゃけ、まだ物理的に可能な域だしね!
…私の創造(妄想)力が追いつけばの話だけどね!

昔の彼女からはおおよそ考えられないゆらゆらとした空気を背負う怒(いか)れる御仁に幻覚だと思いてェーとか現実逃避しつつも、どうもその空気が痛いというか何か…曖昧だけど『嫌なモノ』を感じた事から(…あれ、物理的?)、どうも本気でキレてる…って言葉で片付けていいのかすらわからないけれども一旦目を瞑る事にしお母さんに恐る恐る訊ねてみただって望みは最後まで以下略…。


「お、お母さん?あの……いつの間に、そんなオシャレさんに、なったの?私とお父さん?が話してる間に……カラコン、入れてくるなんて、」

「…やっぱり敵の仕業ね。私達と違って名前には毒が効くから…昨日までは普通だったんだし、遅効性かしら」


えっ私人間捨て(られ)てるしそんじょそこらの毒じゃ効かないんだけど。効いても治癒術で打ち消しちゃうけど。てゆかお二人さん毒効かないとかどんだけですかいや今のお父さんの見た目なら効く毒があるなら逆にお目にかかりたいくらいだけども。
そして昨日まで普通に見えてたのは…まあ、致し方ないだろう。きっとそれ生前の私だもん予想だけど。


「全く、どこのどいつ?私達の、それもさして一般人と変わらない名前にこんなえげつない手段を使うなんて。でもこの忘れよう…あるいはアッチの可能性もあるわね。さっきからお父さんがカッコいいだの自分も持ってるってのに私達一族の眼の仕組みを忘れてるだの」

「うっうっ、お前ぇ…」

「お父さんは黙ってて頂戴」


お母さんも冒険したァー!


「だ、大丈夫だよお父…さん。私の(現時点での)知り合いの男の人の中で一番カッコいいよ(本当のお父さんなら)私の誇りだよだからそんなに落ち込まないで…下さい」

「名前ー!」


そしてその姿で泣かないでくれよお父さんなんかシュールだよ仮にコスプレとするならクオリティやべーというかむしろソックリさんレベルなんだからご本人様が見たら著作権いやここだと肖像権?侵害or名誉毀損罪の疑いで瞬殺だよそして目撃者な私とオカンも惨殺まっしぐらだよだからとりあえず今だけ私はあるいは本人様の可能性も考えてのチキンから勇者に転職した気持ちで宥めてみるよだけどでもウワハハハ抱きしめないで下さいアナタの娘(仮)は昇天しちゃうよパラダイス的な意味で。
…後頭部にさっきから当たってるんですけど、いやんステキな胸板ですコト……しっかりしろ私ィィ!!


(1/2)
[back] [top]
- 9 -
×