序章 | ナノ


何万何億、それこそ永遠に酷似した星霜をもし人が生きていられるとして、最初の頃を憶えている人間が果たしてどれくらい存在するだろうか?



序章1.彼女の生い立ち



唐突だが、私は“元”人間である。つまり今はいわゆる人以外の生き物。簡単に言ってしまえば見た目人間中身人外と言える。

しかしこの今の人(外)生はまさかの三回目であり、そしてついでに言えば今私が生きているこの場所は“最初の”私が生きていた世界ではなく、しかもいわゆる普通とは程遠い。

いや、今周りにいる奴らにとっては当たり前かもしれないが、最初の私から見れば到底有り得ないのだ。何故かって、

……私の背中に一対の羽根、黒と白とかいうまさかのツートーンが生えている。

周りにいる生き物にも揃いも揃ってみんな羽根が生えている。

まあそれらは両方とも黒だが。

この時点で明らかにありえない場所、元一般人だった私が運命のイタズラとやらか、はたまた神様の気まぐれなのか、生まれ変わって生きていかざるを得なくなった世界――『魔界』と呼ばれる場所であり、羽根の生えた生き物、『悪魔』にとっての楽園なのである。

神様と言えば実を言うとここでは比喩表現ではなく実際に存在しているときたもんだから最初はそりゃあもう驚いた。しかも超絶美形だったので色んな意味でもびっくりだった。

その時は何の冗談かと思ったが、残念ながら今ではフと思い出した時くらいしか疑問に思わない程今の生活に慣れた自分が悲しいところ。…いや、むしろこの世界に馴染んだと喜ぶべきなんだろうけれども。

余談だがあまり文句を言うと神様本人の耳にどこからともなく入り、私に何かしらの仕事(と書いて弊害もしくは面倒事)を回される事請け合いだったりする(神様のドヤ顔オプション付き)。
魔界なのに何で神様?と思われるかもしれないが、それはまたおいおい説明していきたいと思う。

因みにここは魔界なのでトップとして魔王様が君臨しているのだが、対の世界として神様を頂点とする『天界』も存在しており、あろう事か私をこの天界魔界という普通なら考え付きもしないような世界に転生させやがった張本人が、その神様なのである。

前置きが長くなったが、まあつまるところ私は一度死んだ人間であり、三回目の人生真っ最中の転生した――

半悪魔・半天使の身であり、最初に述べた通り『人外』なのである。


***


もう何年前とか言うレベルじゃない遙か昔とかちょっと古風に言うならば今は昔、なんて表現をした方が良いくらいには大昔な頃の話だ(因みに細かい時間は長すぎて私自身も残念ながら曖昧だったりする)。

最初の私、つまり一番初めの生まれ変わる前の私は現代日本に生きるごく普通の女子高生だった。
勉強もやる時はやるし、家族や友達と遊んだり、趣味に時間を費やしてみたりと平凡かもしれないが代わり映えせずとも平和な人生だったと思う。平凡平和、大いに結構。良い響き。

…ただ、私の場合趣味に捧げる時間が異様に多く、頭の中は平和通り越して若干パラダイスだったが。

その中でも漫画やゲームに没頭していた私はとどのつまり、オタクと呼ばれる種族に分類される身分だった。
ヒッキーでニートな予備軍だったと言い換えてもいい。

しかしながら彼氏は画面の中です三次元には興味なし、なんて半分冗談で言ってた私にある日を境にして、なら実際マジで行ってみろよと言わんばかりに、

コトは起きた。

ホントに、私は飛ばされたのだ――いわゆる紙や画面的な世界、に。

ある災難が私を襲った後の事だったんだけれど、まさかまさかのどこの漫画ですかと訊きたくなる様な世界でよもや自分が生きようとは、その時の私には予想できるはずもなかったでもとにかく、私は声を大にして叫びたい。

私は普通に生きて人生全うしたかった…!

ヒキニートのどこが…いや、ダメなのはわかってるけども、それにしたってコレはなかった。

何がないかって、突然前触れもなくやってきた――

まさかの私自身の、ゲームオーバー。
女子高生最後の夏、あと数ヶ月で高校も終わりかという時に呆気なく私の一回目の人生は幕を閉じてしまったのだ。

死因は交通事故死という形だったため(炎天下でトラックのタイヤが溶け横転し巻き込まれ挙げ句炎上したそうだ。ワオ何てグロテスク!)、病院のベッドで横たえられた私の遺体(からだ)はそれはもう無惨なものだった(ま、ですよねー…)。

駆け付けてくれた家族、友達の泣き顔が、私の名を呼ぶ声が、今でも私の数多の記憶の中でもぼやけず鮮明に残ってる。

何と、その時当たり前だけど既に私は死んでしまっていたものの幽体離脱とでもいうのか、自分の遺体のそばの空間に私の魂は漂っていたため最期に一目大事な人達の様子を見る事ができたのである。
不謹慎かもしれないが、皆が私を思って泣いてくれた事が嬉しくて、死出の旅への重い足取りが多少軽くなったのだった。
…まあ、後ろ髪も多大に引っ張られたんだけど。

神様曰く、地球上にいる生き物の寿命は決まっており、私の場合それが突然だっただけで遅かれ早かれこうなる運命ではあったらしい。
(しかも魔界にはそれらを予言する魔王様もいたとかいう。何そのハイスペック。ヤバくない?)。

そんなんだから、神様と呼ばれる存在に死後の世界で初めて対面した時は驚くと共に危うく八つ当たりしそうになったんだけど何とか、まあ簡単に納得できる事ではないが、諦めるしかなかった。…その後人目も憚らず泣き続けたけどな。

そしてその死後の世界、というのが天界にあたる訳だが、ここで気付きたくない事実が頭に浮かんだ。

神様が目に見えて、なおかつイケメン()で会話している時点でなにかおかしくないか?
しかも死が決まっていてなおかつ予言で死がわかる魔王様とか何設定…、

そして極めつきが、


「とりあえず生まれ変わってもっかい人生楽しんでこい」
(プラス神様のドヤ顔オプショ以下略)。


…どこにそんな軽い神様がいるというのだろうか。

そして神様によって本当にとりあえず二回目の人生が始まったのだが、残念な事にそこでは世界が既に終わっていた。

魑魅魍魎が罵扈し人間は生き残りあと僅かな世界とかで、ついでに言えばその時点で私はすでに人外だったっていう。

そう。あろうコトか、まさかの。

――雪女、だった。
しかも半分吸血鬼。

更に詳しく言えばオプションとして父方の祖父がハーフエルフ、祖母は純血の吸血鬼で。
(因みにハーフエルフの方は半分エルフ半分人間しかも霊能力者。何でココくらい一般人じゃないんだ?)。

母方の祖父は混血の人魚、祖母は純血の雪女。
(因みにその2人魚の方はなんか色々な海の生物の血が入っているらしい。え、どんだけ…?)。

顔立ちも私の本来の顔とは似ても似つかない、自分で言うのはアレだが絶世の美女とでも表現するのに相応しい顔になってしまっていた。妖怪の血の性とでも言えばいいのだろうか。

ちょ、何この面倒くさい設定。

そしてそんな人(じゃないのが大半だけど)達から生まれた私にとって第二の父は純血の血故に吸血鬼寄りの人物で、そして第二の母もこれまた純血の血故に雪女寄りなワケで。

その中で最も色濃く反映されたのが雪女の血で次に吸血鬼の血が濃かった私は、熱い・暑いのが非常に苦手な、血に飢える人げ…人外になってしまっていた。いや、ここはもう混合妖怪とでも言っておくべきか。

おかげで色々な血が混ざり合った因果か左右の瞳の色がちぐはぐとかにもなってたし。やだもう。私自身がそんなんなってもまあ見た目はともかく中身のせいで萌えもクソもないだろうに。

しかしうだうだ言っても詮のない事なので、とりあえず人間に比べて格段に強く生まれる事が出来た私はもうこの際人外でも構わんと腹を括り、とにかく修業に明け暮れた。
いくら身体だけは強く生まれたとしても、それだけではこの人外であろうとも元々ただの女子高生だった私にとって、第二の世界(またの名を戦場)を生き抜くにはあまりにもキツすぎたからである。

まあでもやっぱり戦いとか無縁のド素人には限界というやつで、その世界で私は実を言うと幾度となく死んだのだが何とここでは輪廻転生の概念があったらしく、死んでは生き返り違う人生を歩むというのを何度も繰り返した。
一応その度培った能力は蓄積されたんだけど幼い頃から大人になるまで何度生き返っても顔立ちは変わらなかったから恐らく、この世界の根底の理、基準?とでも言えば良いのだろうか――まあそのへんが同じ様な気がしたので、私はこの世界での繰り返した人生は、何度目、とか数えず一纏めで私の過去とする事に決めた。
…数えるのが億劫になったのもあるが。

だってただ平穏に生きたいだけなのに馬鹿みたいに死にまくってたんだもの…。色々麻痺すると思う。

因みに後から神様から聞いたところ、一つの世界で繰り返す輪廻転生はその間神様の所に魂が戻らない限り一つの人生と考えるのだとか。つまりたまたま考え方は合っていた事になるのだけどちっとも喜べなかった。

そうして神様は新しい人生を与えた後、十分だと判断したらその魂を呼び戻すそうだ。今のところ体験者は私のみだけどな。

要するに、その世界で本当の意味での死を迎えるか何かするという事なんだろう。




ところで、私がどうやって第二の人生から神様の所に帰ってきたのか…実は、あまり思い出せないのである。とにかく神様の所に帰り、天界(この時はまだ魔界ではない)で過ごす間、どういうわけかずっと泣きっぱなしだった。

確か誰かを庇って、それで。

最初の人生と同じ様な、でも少し違う感情も混ざった感じなのは覚えている。だけれども、何故そんなにも悲しかったのかまるで思い出せなかった。しかも最初の家族や友達との思い出は今でも(朧気なところもあるけど)忘れないのに、今回の人生においては誰の事も覚えていなかった。何があったとか、自分が何をしたとかは辛うじて覚えているのに。かなりあやふやではあるけれども。
まるで顔の載っていないアルバムを眺めている気分で酷くもどかしかった。

暫くして私が落ち着いた頃、今度はどんな世界に飛ばされるのかと若干身構えていたのだが、神様が私に用意した第二の人生はあくまで私を強くするための準備期間だったらしく…、

次こそが私にとっての新たな始まりだそうで。

私は言わずもがな自分のトンガリ耳(※エルフ製)を疑いまくった。

(え、ちょ、オープニング長過ぎでは?私何回死んだと思…)。

しかし結局は神様とかそんな得体の知れぬよくわからないモノに逆らえるはずもなく、そうして三回目の人生は半悪魔・半天使として生まれ変わり、永遠にも近い時を過ごす事になっ(てしまっ)たのである。
天界魔界で過ごすのに不自然ではない生き物になったが、簡単に言ってしまえば、

不老不死気味…だと…?

(いや、平穏に長生きしたいとは思ってたけど、思ってたけどォォ!)




今思えば、二回目の人生の時にどこかの世界、それこそ最初の人生で私の妄想や糧だったその中にピンポイントで飛ばされてたんだと気付くべきだった。

…無理か。
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