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6.偶然の再会




いつも賑やかで少しばかり騒がしい大通りに、二人組の少女が歩いていた。
時折言葉を交わしながら、一人は物珍しそうに通りの面した店や品物を眺めている。

「姉様、蘭姉様、俺こんな場所に来るの初めてです!」
「天は抜け出したことなんてなかったからな・・・・俺はもう慣れたけど、やっぱりここはいいな」
「はい!」

その少女たちの実態はこの国の王女姉妹である。
無許可で王宮を抜け出し、町に繰り出した二人の正体を知る人物は極少なく、万が一にでもそれが露見しないように変装している。

「あまり騒ぐなよ、ばれたら大変だろう?」
「わかってますよー・・・せっかく、連れてきてもらったんですしね」

普段蘭のように日常的に抜け出すことなど無い天が町に出ているのは珍しい。
事の発端は、数時間前に遡る。


「蘭姉様ぁ」
「何だ、情けない声を出して」
「今日は町へ行かれるのですか?」
「急な予定が無ければ行こうと思うが・・・」
「約束ですよ!俺も連れてってください!!」

そこまで言われて蘭は昨日のことを思い出す。
確かに、次は天も連れて行くと言ったし、それを確認するような発言もしていた気がする。
可愛い妹に町を見せてやりたいと思う面もあるが、多分速水たちはあまり良い顔をしない気がする。
だが昨日約束のようなことを言ってしまったのは事実だ。
蘭は、小さくため息をついて決心した。

「よし・・・俺も女だ、連れてってやろう」
「やったあ!!」

跳ね上がって喜んだ天に落ち着け、と呆れ笑いをして、町に行くための、主に変装するための準備をさせた。
抜け出すとき速水には出くわさなかったが、倉間にはまるで嘆かわしいとでも言いたげな表情で呆れられ、ああ天王女まで、と呟かれた。


そして今に至る。
蘭ははしゃぐ天を度々諌めながら(しかしその興奮はまったくおさまる様子を見せないが)、辺りを見回していた。
もし、微かな望みが叶うとするならまたあの少年と会いたいと思った。
何しろ昨日の今日で、ほぼ同じ時間帯。いる可能性はそこそこにあるんではないだろうか、と期待する蘭は、鮮明に覚えているウェーブがかかったあの栗毛を捜していた。
と、そのとき。
「あっ!」
天が一際大きな声を上げ、走り出す。それに驚きつつ後を追いながら、何事かと向かう先を見る。
大通りの端は住宅街になっている。更にその先は森に続く坂道で、そこに見覚えのある姿があった。

あの栗毛の少年、「拓人」ではなく、確か「信助」と呼ばれていた幼げな姿の少年が、坂の上から幾つもの林檎を転がし、落としている。

「大変だ、助けなきゃ!」

足の速さには自信のある天は恐らく見た瞬間、反射的に走り出したのだろう。
坂に向かい上から結構なスピードで転がってくる林檎を幾らか受け止める。
蘭も天の取り損ねた林檎を無事受け止め、転がる赤色は無くなった。

「ふー、良かった・・」
「うわあああすみません!ありがとうございます!」
坂の上から駆け降りてきた少年はやはりあの時の少年だ。水色のバンダナをつけた姿が一致する。
「間に合ってよかったぁ、あんまり痛んでないみたいだし、良かったね」
「ほんとですか?良かった、怒られないで済むや」
「気をつけなよー」
「はい・・・・あ、あれ?」

天と会話していた少年が天の身体を避けるように、横に身を乗り出した。
その目は蘭を見つめている。

「そこのピンクの髪の人、昨日の!!」
「え、昨日のって・・・姉様お知り合いですか?」
「昨日、拓人さんに助けられた人でしょう!?」
「・・・やっぱり、あの時のか」

どういうこと?と会話についてこれない天にかなり掻い摘んで話をする。

「そんなことが・・・」
「あの、よろしければ僕たちの家に来ませんか?助けていただいたお礼も出来ますし、拓人さんも喜びます」
「いいの?いきなり押しかけたら迷惑でしょう」
「いえ!拓人さんは買い物以外であまり外に出ない人なので、僕以外に話し相手がいると楽しいんです。一応顔見知りみたいですし、是非!」
「姉様、行きましょうよ!」
「でも・・・」
「大丈夫ですよ、ほらっ!」
「ちょっ、天!」

半ば強引に手をつかまれる。じゃあ決定ですね、と笑った少年が進む先に引っ張られるように蘭も天に続いた。
一抹の不安と湧き上がってくる高揚感を感じつつ、蘭は深く帽子を被りなおした。





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