虹色を閉じ込めよう | ナノ


虹色を閉じ込めよう



(京天)


サッカー棟を出たら、雨が降っていた。
朝は降水確率40%なんてお天気お姉さんが言ってたのに、その40%に当たってしまったか、とため息をつく。まだ梅雨明けは先だ。
傘は持ってきていない。いつもバッグに折りたたみを入れている信助は今日部活を休んでしまった。
もともとミーティングの予定だったからすぐ終わったし、急いで帰ればセーフかと思ってたんだけど。

辺りに人影は無く、みんな散り散りになってしまったようだ。全員帰ったわけじゃないと思うけど。

しょうがない、走って帰ろう。木枯らし荘はそんなに遠くないし、そこまで強い雨じゃない。帰ってすぐ着替えればどうにでもなる。
小さくため息をついて雨の中に踏み出そうとしたまさにその瞬間に、後ろからしたもう聞き慣れた声に呼び止められた。

「天馬」
「剣城?」

振り返れば剣城がいた。

「どうしたの?」
「お前傘、持ってるか」

今さっきまで、いや今も悩んでいたことを話題に持ち出されて少し驚く。

「持ってない・・・剣城は?持ってる?」
「こっちも無い。お前なら持っているかと思ったんだが・・・しょうがない、走って帰るか」

ああ思考回路同じじゃないか、と苦笑するとそこで気付く。
剣城の家はあまりここから近くない。歩いて3,40分はかかると前に聞いたことがある。走って帰るのもそこそこ辛いと思う。
おれの家はそれに比べたらとても近いと思う。歩いたってそんなにかからないし、走ったら本当にすぐだ。
比べて少し考えて、勇気をだして走りだそうとした剣城を止める。

「まって剣城、どうせ走って帰るならおれんち寄ってきなよ。ここからすぐだから傘も貸せるし、少し休んでけるから」
「いい。お前や秋さんたちに迷惑かけるわけにはいかないだろ」
「おれがしたくて言ってるの!迷惑なんかじゃないよ、秋ネェなんか喜ぶよ!・・・・嫌なら、いいけど」

次の言葉を待つ瞬間、怖くなる。拒絶されたらどうしよう、怖い。

「じゃあ、寄らせてもらう・・・嫌なわけじゃないから、な」
「本当!?良かった・・・じゃ、行こう!」
「ああ」

少しだけ強くなった気がする雨の中に、全速力でふたりで走り出す。



多分木枯らし荘には数分で着いたんだと思う。でも出来る限りのスピードで走り続けたからあっと言う間にくたくただ。
ただいま、と声をかけると秋ネェがお帰り、とタオルを持ってやってきた。傘を持っていかなかったことを知っているみたいだ。
でも流石に剣城を連れてくるのは予想外だったみたいで、もっていたバスタオルをおれに渡してから少し慌ててもう一枚いるよね、と取りに行った。

「剣城、使いなよ」
バスタオルを手渡すと剣城は使う様子も無くおれを見た。するといきなり、視界が真っ白になって布の感触。
「わ!?え、何ちょっと!」
見えないからわからないけど聞こえてくる微かな笑い声で表情に想像がつく、お前面白がってるだろ。
わしゃわしゃ、とおれが時々サスケにやるような仕草で、若干荒っぽく頭を拭かれる。
「何すんだよぉー・・」
「いいだろ、別に」
ぼさぼさになったけれど水気はそこそこしっかり取れていた。続いてジャージもがしがし拭かれる。
手つきは荒っぽいけど、仕事はしっかりしてるなぁなんて感心する。ちょっと嬉しくも思う。

「剣城も濡れてるのに」
雨に濡れていつも立たせてる髪はへなりと崩れるやら肌に張り付くやらでなんかすごく剣城がかっこよく見える。これは結果オーライっていうのかな。
「気にするな、よし取り合えずはこれでいいか」
ふむ、と少し満足げに息をついた時、秋ネェが駆け戻ってきた。バスタオルを剣城に渡す。
「ごめんね、これでいいかな?」
「大丈夫です、ありがとうございます」
「剣城、上がって。靴下濡れてると思うから脱いで、おれの部屋行こう」
「わかった」

大雑把に拭きながら、おれに続いて板間に上がった。
部屋に通しながら、昨日気が向いて軽く掃除しといてよかったと心底思う。
おれの部屋には雨だからか、サスケがいつもの場所で寝そべっていた。
「天馬、靴下どうすればいいんだ」
「乾燥機放り込んどくから貸して!あとジャージも上濡れてるだろうからそれも!」
部屋に放り出してあるものを軽く片しながら濡れたものを乾燥機に持っていく為走る。

「もうどうせだからしばらくここでゆっくりしなよ、ね」
「お前がいいならそれでいいけどな」
ふたりして窓の外に目をやれば、外は暗く重い雲とさっきよりまた強くなった雨足。
「長引かなければいいんだけどね」
そんなことをぼんやり呟くと、ウーロン茶を持ってきた秋ネェがノックをして部屋に入ってくる。
「にわか雨みたいよ?もうしばらくすれば多分止むんじゃないかな」
テーブルにウーロン茶を置きながら、だからゆっくりしていってね、と言った。
出掛けに、思い出したように振り向いておれたちに向かって言った。

「運が良ければ、いいものが見れるかもしれないわね」


「お前と秋さん結構似てるな、雰囲気とか」
秋ネェが部屋を出た後、唐突に言った。
「ええー?おれと秋ネェ親戚だよ?親子じゃないよ?あんまり似てないとはよく言われるけどさ」
「ふたりともオレにゆっくりしてけ、って言ったけど」
「そりゃっ・・・お客さんには言うでしょう!?」
何とか反論するけど思い当たる節が無い訳じゃない。でも剣城はその話題をそれ以上突っ込まなかった。

いつの間にかいつもは束ねてある少し長い髪をおろしてバスタオルで相変わらずがしがしと拭いている。
「剣城髪の毛おろしてる」
「そりゃ濡れたしな」
「・・・・写メっていい?」
「何でだ!断る!!」

だってすごいギャップもあってかかっこいいだもん、いやもともと剣城はかっこいいけど。

一人で悶々としてると目の前の相手は隣で寝そべるサスケに興味を向けた。
「こいつ、寝てるのか?」
「多分起きてると思うよ、あんまり来ないお客さんが来てるし・・・尻尾動いてるし」
「でかい犬だな」
サスケの頭を撫でる手つきはあまり怖がっているようでも慣れているようでもなかった。
「出会ったときはほんとにちっちゃかったんだけどね、いつの間にかおっきくなっちゃって」
「前に聞いたな、それ」
「剣城動物好きなの?」
サスケに注がれていた視線がこちらに向く。
「まあまあ好きだな、家で何かを飼った記憶は無いが」
「へぇ・・・」

初めて知った。
会って、仲間になってもう大分経つし色んな話をしてきたけど、やっぱりおれまだ全然剣城のこと知らないんだ。

これから知っていけたらいいのに。―いつまで一緒にいられるかわからないけど。


「おい、雨止んでる」
「えっ本当?早い!」

さっきは灰色が見えた同じ窓からはもう雲の隙間から空が見える。光が差し込んでいるんだろう。

「これで帰れるねー・・・」
「少し残念だがな」
「え」
「・・・また来てもいいか?嫌なら来ないが」

帰ることを惜しんでくれてるらしい。気付いた瞬間顔がぶわわ、と熱くなるのがわかった。

「来て!いろんなこと話そうよ、ね、おれもっと剣城のこと知りたいよ!」
そう言うと、今度は何故か剣城が赤くなった。口元を押さえておれから目を逸らした。
「・・・え、おれ今なんか変なこと言った!?」
「いや・・・違うそうじゃない・・・わかった、来る」
「あ、うん・・・」

歯切れの悪い会話を交わしながらまた窓の外に視線を戻すと、青空の割合が増えた空に一本の―――

「剣城!剣城!!見てあれ!!虹でてるよ!!すごいキレイ!」
「本当だ、随分大きい虹だな・・・」

秋ネェが言ってた『いいもの』は多分これのことだ。

「写真とらなくていいの?優一さんに見せようよ」
「今出てるんならメールでいいか。・・・・なんでお前そんな満面の笑みなんだ」
「えー?大したことじゃないから気にしないで!」


隣に今君がいてね、一緒にこの景色が見られることがすごく嬉しいだけなんだよ。
なんて、きっと口に出してはいつまでもいえないだろうけど。


虹色を閉じ込めよう





梅雨時オムニバスシリーズ第二弾。
書いてる途中で気付いたんですがね。
長い。何これ長い。天馬が饒舌でよく喋るし剣城は剣城でデレた後なんで会話が多いからですね多分。


title:銀色懐中時計。




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