紫陽花の思惑 | ナノ


紫陽花の思惑



(拓蘭)


「神童、入れて」
「はいはい・・・まったく、折りたたみ傘位は持って来い、霧野」
「だって降水確率40%だったし」

しとしとと梅雨の雨が降る。六月もそろそろ終わりだが、今年の梅雨が明けるにはまだ少しかかるでしょうなんてお天気お姉さんが言ってた気がする。
いや、天気予報は見てるんだよただ傘を忘れただけだ、故意に。

「いいじゃん、相合傘だぜ?嬉しくないのかよ」
「嬉しくないとは言わないが二人で入るとどうしても濡れるだろうが」
「カタブツ」

公然で許されるレベルのいちゃつき位したいと言う俺の可愛げすら神童は蹴っている気がする。お前本当に真面目だよなたまにちょっとイラつくよそんなところも好きだけど。
でもなんだかんだ言って入れてくれる。雨はそんなに強くないから少し気を使えばそれでどうにかなるだろう。

ふと周りを見ると、あちこちの植え込みに紫陽花が咲いていた。紫、青、ピンク、濃さも色も様々で季節の風物詩は見てて飽きない。
密集した花に見えるものは花ではなくがくだとも聞くがやっぱり花にしか見えない。というか、日常生活でこれをがくだと言い張って何になるのかわからないから単純に花でいいと思う。
「神童、紫陽花だったら何色が好き?」
何気ない世間話にのった神童が少し考えて答える。
「薄めの紫色、かな」
「なんで?」

随分ピンポイントで指して来たことに理由はあるのかと軽い気持ちで聞く。すると神童は笑って、道端の薄い紫の紫陽花の花の形をした一つのがくを摘む。
小さいそれを少し見てから、不意に手を俺の頭に向け軽く撫で付けるような感触がした。
一瞬の間をおいて、紫陽花を髪飾りのように付けられたのだと理解した。

「霧野の髪によく似合うんじゃないかなと思ったから」
「お前・・よく素面でそんなことできるな・・・」

これ普通ならかなり気障な行動だ、間違いない。でもそれをいやみも無くなんなくやってのけるこいつは何なんだ。生粋のお坊ちゃま育ちが原因かもしれない。
畜生今ちょっと掴まれた。不覚にもキュンときた。

「という訳で、俺は俺なりにちゃんと霧野を好きなのをわかっていただけたかな」
「わかったよもう、お前本当天然王子様だよな」
「ならお姫様はお前だな」
「やっぱり姫か」

他愛も無い、少しだけ甘い会話をしていれば神童の家に着く。
神童邸は学校からそこそこ近く俺の家はもう少し先だ。神童邸の門の前で、二人して足を止める。
俺は傘を持っていないから、走って帰ろうかなんて思っていたら。

「霧野、寄ってくか?」
「え、神童んち?」
「傘くらいなら貸すけど、少し待ってたら雨も止むんじゃないかと思うんだ、そんなに降りそうな雨でもないし」

その台詞に意図をなんとなくだが読み取る。

「じゃあ寄ってこうかな。紅茶を頼む」
「ああ、淹れてやるよ」

もう少しでも一緒にいたいのは俺も同じだ。

その言葉にしなかった意味を彼が読み取れるかはわからなかったが、ひとまずまだ一つの傘に二人入ったまま、門をくぐった。


紫陽花の思惑





梅雨時オムニバスシリーズ第一弾。
拍手御礼文にしようとしてたんですけど書き上げた時期にはもう夏。
長さもそこそこなので普通に掲載用になりましたとさ!←
拓蘭ちゃんはお互いすきすきなのに「絶対自分の方が好き!」みたいな意地と不満を持ってると思います。実際は大して変わらないのに・・・

可愛いですね。私の力量ではその可愛さが出てこないところに涙目です。






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -