センチメンタル・リアリズム | ナノ


センチメンタル・リアリズム



(拓蘭)(ゲームネタ)
(神童家の3階の部屋等々捏造満載の話)


「よく来たな霧野。まあ・・・いつもの通り普通に過ごしてくれ、お茶を持ってこさせるから」
「ああ、ありがとう神童」

神童の家にやって来た霧野は、いつものように神童の部屋のソファに腰を下ろした。
執事に紅茶を頼んだ神童も霧野の隣に座った。

「いつ来てもお前の家は大きいな」
「なんかそうらしいな・・自分ではよくわからないんだけど」
「お前は多分俺たちとは感覚が違うんだと思う」

失礼します、と一声かけて入ってきて紅茶を置いた執事に礼を言いごゆっくり、と返される。いつものように。

「この家でかいテレビが幾つもあるし、部屋数も尋常じゃないし・・・・一体何部屋あるんだよ?」
「うーん・・・あまり数えたことがないからわからないけど、数は結構あるんじゃないか?」
「そういえば、この家って確か3階建てだったよな?」
「え?ああ、まあ3階建てだな・・ほぼ屋根裏みたいなものだけど」
「俺、3階って行ったことない。屋根裏って・・・何になってるんだ?」

神童がカップを置いて思い出すように視線を上に向ける。即答できないということは恐らく本人もあまり利用しない場所なんだろうと想像が付いた。
そのうちあ、と小さな声を上げて何か思い出したような素振りをした。

「そうだ、今はもうほとんど物置になってる部屋だったはずだ」
「そんなものがあるのか」
「お祖父様が集めていた本やら絵やらがいくらかしまってあるんだ」

前に病気で亡くなったと聞いた神童の祖父の趣味は古く価値のあるものを集めることだったと少し前の記憶が蘇る。
その話を聞いたとき、金持ちの趣味だな、と思った記憶がある。価値のあるものを買い集める、しかもそれを趣味にするにはどうしたって金は必要だろう。
うちの祖父さんには到底無理だ、と少し世界の違いを感じたのだった。

「お祖父様のコレクションの数は膨大だから、多分置き場所はあったんだろうけど入りきらなかったらしくて屋根裏に置いた、というのは父から聞いたことがある。多分そのまま誰も触っていないはずだ。
俺も何度かしか入ったことはないし、いつも鍵がかかってる」
「まあそれなら忘れてても当然かもな。面白そうだな・・・・なぁ神童、行ってみないか?」
「うーん・・・・確かに、興味はある。自分の家なのにあまり入ったことのない場所があるって言うのも・・・・わかった、じいやに鍵を借りてこよう」
「そうこなくっちゃな!」

霧野は悪戯っぽい笑みを浮かべて、紅茶を飲み干した。
それに応え、神童も微笑んだ。


「じいや、3階の部屋の鍵を貸してくれないか」
「拓人さま、霧野さま、あそこに入るおつもりですか?」
「ああ、ちょっと興味が湧いた。少し覗いてみたいんだ、駄目かな」
「いえいえ、構いません。ですが長いことあの部屋は放ったらかしで、大分埃が溜まっておりますよ」
「大丈夫だ、あまり埃を吸わないように気をつける」
「では、少々お待ちください、鍵を取ってまいります」

執事が早足で階下に向かうのを見送りながら、霧野はわくわくしていた。
小さな頃の少しの冒険心を思い出す。見ると神童も同じような眼をしていた。

「楽しみだな」
「そうだな、宝探しに出かけるみたいな気分だ」
「お前のお祖父様のコレクションなら充分お宝だろ。・・・ほんとにそんな感じだ」
「はは、確かにな」


執事から鍵を預かり、階段を上る。薄暗い踊り場に一つだけ窓があって光が差し込んでいる。
かちゃ、と鍵のロックが外れる音がして、ドアノブを回す。きいきいと少し怪しい音がしながらドアが開く。

真っ暗い部屋はたまに覗く古本屋やアンティーク雑貨の店と同じような、嗅ぎなれた古めかしい匂いがした。
電気をつけると左側に本棚やクローゼット、右側に椅子や布がかけられた何かが置いてある。
そして神童本人や執事の言ったとおり、やはり埃は凄まじく床や布やむき出しの椅子は灰色に塗れていた。
「やっぱり埃がすごいな・・・・霧野、大丈夫か?」
「ああ、これくらい平気だ。でも濡れた雑巾くらいは欲しいとこかな」
「持ってくるよ」
「ありがとう」

一面埃塗れの部屋でしばらく過ごそうというのだから、座る場所と手に取る品くらいは綺麗にしておきたいと思うのは普通だろう。
神童が階下にそれを取りに行っている間に、分厚い本の納まった本棚を見やる。雑多に詰め込まれて種類がばらばらの本は、半分くらいは日本語の本のようだが、残りの半分は洋書のようで、題名が読めない。
適当に一冊取り出してみるがきっちりと収められていた本棚の本に埃はあまり積もっていなかったが、ページはやはり黄ばんでいた。

ぱらぱらとページを捲ると横に書かれた細かいアルファベットの活字。
読めない単語が多すぎると、まるで文字の洪水だと思ってしまう。日本語で書いてあるならばそんなことはきっと思わないだろうに。

「霧野、持ってきたぞ・・・って、何見てるんだ?」
「適当に取ってみただけだけど。神童読める?」

神童は頭がいい。キャラ通りと言おうか何と言おうか、勉強せざるを得ない環境にもいることもあって学年で指折りの成績だ。
霧野も成績も特別悪くは無いが、そこまで良くも無い。
本をほら、と差し出し渡すと、軽く唸りながら文字を読もうとする神童を眺める。

「すごい場所だな・・・雑巾もって来てくれたんだろ?ちょっと椅子とか拭くよ」
「すまないな」
「だって、座れたほうがいいだろ?」

入り口のすぐ横に無動作に転がっている椅子をいくつか持ち上げ、綺麗に拭いていく。
二つ椅子を拭いてから奥に進む。歩く度に埃が空気中に舞う。
壁際に寄せられたものにはやはり白い布がかかっていて、たまに剥き出しになった絵画が置いてある。油絵のようなそれは教科書に載っていそうなものだ。
奥にもまだ色々なものが置いてある。緑色の布のソファも置いてあるが、やはり埃を被っている。

「本当にずっと掃除も整理もしてなかったんだな・・・・」
「霧野?何か言ったか?」
「いや、ここはずっと放ったらかしだったんだろうなーって。それより読めたか?本」
「わからない単語が多くてなんとも・・・でも、多分ファンタジー物の話じゃないかな、それくらいしかわからないが」
「そうか・・・こっち側にも色々あるぞ」

そういって、二人で宝探しのように目ぼしいものをがさがさと探していった。


「あれ、この木箱、鍵つきだな」
神童は厚みの薄い茶色い木箱を引っ掻き回していた棚の奥から引っ張り出して少し埃を掃う。見ると言うとおり、蓋の蝶番の様なものに鍵穴がある。
「開かないのか?」
霧野が覗き込んで言うと神童はまだ試してない、と言う。
こういった古い金属の金具は開けにくい。増して多少メッキが剥がれるほどに劣化しているものとなれば尚更である。
案の定、少し指を引っ掛けて引っ張ったぐらいでは開かない。
「これ、中に何が入ってるんだろうな」
「鍵つきって言うならそれなりに価値のあるものだろ」
「あまり重くないが・・・もう少し強めに開けてみようか、鍵は見当たらないし」
「壊れたりはしないのか?てか、鍵がかかってるなら開かないんじゃ」
「・・・壊れても誰も困らないだろう、やってみる」

よ、と指先を引っ掛け、さっきよりも強く引っ張る。壊れてしまいそうな点ではらはらしている俺を尻目に、神童は指先に力を込めた。
「って・・・、あ」
「開いた」
鍵はかかっていなかったようで、蝶番は錆びたキシキシという音を小さく鳴らして役目を放棄した。
ゆっくりと蓋を持ち上げると、また少し埃が舞った。
だがその埃は蓋に乗っていたものらしく木箱の中には深い藍色の天鵞絨(ビロード)の布が敷かれていたが、そこに埃はほとんど無く綺麗な状態だった。
「これって・・・」
そしてそこにはその布が台座にされ、小さな宝石らしきものの付いた銀色の指輪が二つ、仲良く収まっていた。
「指輪、か。お祖父様のものかな」
「デザインからしたらあまり古そうなものじゃないけどな」
指輪はいたってシンプルでこの部屋の物品たちとは少し違った風だ。アンティークが基本の空間に、年代の新しいものが混ざった様に。
ペアリングのようだが、使われた形跡も見当たらず取り敢えず見た目は新品同様だ。
小さな宝石はそれぞれ色違いで、片方は薄く黒みがかった深い赤、もう片方は空の青とも海の青とも言えない澄んだ青だった。
美しい光に思わず見とれていた霧野は神童が自分を見ていたことには気付いていなかった。

「―・・・霧野の目によく似てる」
「え?」
不意に放たれた言葉の意味がつかめず戸惑う霧野にもう一度少し補足を加えて神童が呟く。
「この青い宝石の色が、霧野の目の色によく似てる」
やっと頭が追いつき、その青い宝石をじっと見る。そして隣の赤い宝石を見やり、
「俺の目がこの青い宝石なら、赤い宝石は神童の目だな」
と言って、霧野は神童に向けて笑った。

「霧野、左手出して」
「?あぁ。・・・・おい、まさかお前」
神童は差し出された手を優しく受け、赤い宝石のついた指輪を霧野の左手の中指にはめた。
「これなら婚約指輪には申し分ないだろ」
目を剥いた霧野に神童は自分の左手の中指にはめた青い宝石のついた指輪を見せた。
微笑む神童とは裏腹に、霧野は悲しそうな顔をして言い放つ。
「何考えてるんだよお前、お前は財閥の跡取りで俺は一般人だ、今は子供だから傍にいられるだけで、将来傍にいられる可能性なんてあるのか?
婚約指輪なんて貰ったって俺たちは男同士だよ、どうにもできない不確かなものにこんな高価なっ・・・」
言葉が途切れたのは口が塞がれたからだ。
「霧野、ストップ」
真剣な、少し怒りをはらんだ目に霧野が黙る。
「確かにそうかもしれないけどな、でも傍にいられる可能性が無い訳ないだろ。婚約指輪を渡したからって、必ず結婚しなきゃいけないのか?俺は、傍にいたいって言う気持ちを形にしたいだけだ。
あと、値打ちはお願いだから気にするな。大事にしてくれればそれだけで良い。元々物置に誰にも知られず埋まってたものなんだから。・・・・それでも、お前が受け取るわけにはいかないか?」
言う言葉をなくした、小さく掠れた霧野の声がでも、と言った。
「霧野をずっと好きでいる気持ちを信じてくれないか」
神童がまた少し微笑んだ。その目を逸らすように、霧野は俯く。

「・・・お前ホント、いざと言うときはめちゃくちゃだよな、普段は理詰めで固める癖に、こういう時は根拠も何もあったもんじゃない」
いきがる声が震えている。ひょっとすると泣き出しそうな霧野を、神童は静かに、優しく見つめる。
「信じてやるよ。格好良すぎだよ、馬鹿」
「ありがとう」

「しかし、本当にこれ、俺が持ってていいのか?」
二人はいい加減この場所からも引き上げよう、と散らかしたものや元々散らかっていたものを整理していた。
「まだ言うか、お前」
「値打ち云々は置いておいてさ、お前の両親の婚約指輪とかだったらどうする気だよ。誰のものだかわからないんだろ?」
「お祖父様のものだということはわかるさ。それに一つくらい何かがなくなっていたって、あんな棚の奥にあった箱の中身が無いことに言い出さなければ誰も気付きやしないよ」
神童はさらりと笑ってそう言った。

軽い気持ちで始めた宝探し。
案外本当の宝探しになってしまったな、と自分の中指にはめられた指輪を見て心の中で一人ごちた。



センチメンタル・リアリズム




こんなプロポーズ話にする予定は無かった・・・ただ指輪をあげるだけの予定が途中荒れた雰囲気になるなんて完全に予想外だった・・・
神童家3階の物置見ただけでこんな話書き上げた私の妄想力にカンパイ。

title:銀色懐中時計。





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